【タイ労働法コラム】第13回:解雇制度について

GVA法律事務所・タイオフィス代表の藤江です。本コラムでは、タイの労務管理について、日本との違いを踏まえた上で、法的に解説していきます。今回は、労務管理の中でも特に気をつけたい解雇制度について解説します。

 

タイにおける「解雇」とは?

タイにおいて、解雇とは、「雇用契約の終了によるかその他の理由によるかを問わず、使用者が、労働者に勤務を継続させず、賃金の支払わない行為をいい、使用者が事業を継続することができないために労働者が労働せず、かつ賃金を受取らない場合を含む」とされています(労働者保護法118条2項)。

したがって、労働者が自主的に退職する場合は原則として解雇には当たりませんが、会社が退職届の提出を強要するなどして自主退職させるような場合には、解雇にあたり得ます。また、明確に解雇通知を出したわけでない場合であっても、会社が従業員に勤務をさせず、賃金も支払わない状態が続く場合には、実質的に解雇した、と判断される恐れがあります。

 

適法に解雇するためには

タイでも、解雇は当同社に不利益を与える恐れがあることから、労働者の利益を守るために、解雇の要件や手続きを遵守することが求められます。

まず、そもそも適法に解雇を行うには、以下の2つを満たしていなければなりません。

1) 公正な解雇理由があること
2) 解雇禁止事由に該当しないこと

その上で、以下の手続きをきちんと履践する必要があります。

3) 解雇予告
4) 解雇補償金の支払い
5) 未消化の有給休暇の買取り

 

公正な解雇理由とは?

日本では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、解雇は無効と規定されている(労働契約法16条)ため、解雇には客観的合理性と社会相当性が必要とされていますが、客観的合理性、社会相当性の有無は、個別のケースごとに裁判所により判断されます。

タイでも同様に、会社が自由に解雇できるわけではなく、「公正な解雇理由」が必要とされています。ただ、「公正な解雇理由」は、法律上明記されているわけではなく、またその定義や判断基準について明確に定めた規則やガイドライン等はないため、個別のケースごとの判断になります。

これまで公正な解雇として認められた事例としては、経歴詐称が発覚した場合、違法薬物の使用等による就業規則違反行為があった場合、職場でのギャンブル等の就業規則違反行為があった場合、部下の管理業務を怠り度重なる不正行為を招いた場合などがありますが、公正な理由があるといえるのか、慎重に検討する必要があります。

 

解雇禁止事由とは?

日本では、解雇制限期間が規定されていますが、タイでも同様に、特定の場合につき、従業員を解雇することはできないとされています。具体的な解雇禁止事由は以下のとおりです。

1) 妊娠を理由とする解雇(労働保護法43条)
2) 従業員委員会の委員の解雇(裁判所の許可を得た場合を除く。労働関係法52条)
3) 集会開催、要求書の提出、訴訟提起、証言・証拠提出等を行いまたは行おうとしていることを理由とする解雇(労働関係法121条1号)
4) 労働組合員であることを理由とする解雇(労働関係法121条 2号)
5) 労働協約または仲裁判断の有効期間中における、労働争議のための要求書提出に関係した労働者等の解雇(労働者が119条1項に該当する行為等を行った場合を除く。労働関係法123条)

 

解雇予告期間は30日ではない?!

タイにおいて期間の定めなく雇用する従業員を解雇する場合、原則として解雇予告通知が必要となることは一般的に知られていますが、解雇予告通知期間については、日本と同じ、と思っている方も多くおられます。
ただ、実は、解雇予告期間は日本とタイとでは異なるため、しっかりと理解しておく必要があります。

まず、日本では、原則として、30日前までに解雇予告をしなければならないとされています(労働基準法20条1項)。
一方、タイでは、一賃金支払期間以上前に解雇予告をしなければならないとされています(労働者保護法17条2項)。つまり、毎月給与を支払う場合には、解雇予定日以前に来る直近の賃金支払日の、さらに前の賃金支払日かそれより前に予告しておかなければなりません。

例えば、毎月25日が給与支払日の会社が、月末の6月30日に解雇するためには、6月30日以前に来る直近の賃金支払日、つまり6月25日の、さらに前の賃金支払日である5月25日かそれよりも前に解雇通知を行っておく必要があるため、実際には36日前に通知しなければならないこととなります。

また、日本と同様に、解雇予告手当、すなわち解雇予告期間分の賃金に相当する金額を支払うことで、即時解雇することもできますが(労働者保護法17条3項)、こちらも、本来解雇可能な日までの期間(法令で要求される解雇予告期間)に対する賃金相当額ですので、平均賃金の30日分、というわけではない点に注意が必要です。

ただし、労働者保護法119条1項に規定される事由に該当する場合には、懲戒解雇となるため、解雇予告は必要ありません(労働者保護法17条4項)。懲戒解雇については、「第11回:タイの懲戒解雇について」で詳しく説明していますので、そちらをご参照ください。

 

その他の解雇条件

その他の解雇の条件である、4) 解雇保証金の支払いと5) 未消化の年次有給休暇の買取りについては、「第9回:タイの退職金・解雇補償金に関するルール」「第3回:タイにおける年次有給休暇の取扱い」で詳しく説明していますので、そちらをご参照ください。

なお、解雇に伴う賃金支払の期限について、2019年の労働者保護法改正により、以下の通り明確化されましたので、こちらも確認しておく必要があります。

 ❏ 一賃金期間以上前の通知を行う場合(17条2項の場合)
解雇日から3日以内に支払わなければならない(70条2項)
❏ 解雇予告手当を支払って事前通知なく従業員を解雇する場合(17条3項の場合)
解雇言渡日に支払わなければならない(17/1条)

 

適切な要件・手続に則った解雇を

今回は、タイにおける解雇の要件、手続について解説しました。
解雇に至る前に問題を解決できればベストではありますが、どうしても解雇以外に選択肢がない、となってしまう場合もあるかと思います。そのような場合に、後で不公正解雇により無効である、手続きに法令違反がある、といった主張をされて紛争化しないよう、適法な解雇の条件についてしっかり認識しておくことが重要です。

<本記事に関するお問い合わせはこちら>

GVA法律事務所パートナー
タイオフィス代表・日本国弁護士:藤江 大輔
Contact: info@gvathai.com
URL: https://gvalaw.jp/global/3361

日本国弁護士

日本国弁護士

ICONIC

09年京都大学法学部卒業。11年に京都大学法科大学院を修了後、同年司法試験に合格。司法研修後、GVA法律事務所に入所し、15年には教育系スタートアップ企業の執行役員に就任。16年にGVA法律事務所パートナーに就任し、現在は同所タイオフィスの代表を務める。

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