ベトナムでの相続手続をスムーズにする?遺言による日本人のベトナム財産の相続

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前回はベトナムの相続制度について概要を説明しました。今回は、日本人がベトナムに財産を有する場合、ベトナムの遺言によって影響があるのかを解説します。
ここでは、ベトナムに預金や不動産を有しているものの、日本でなくなった日本人について検討してみたいと思います。

 

1. 遺言が存在しない場合

ベトナムに不動産を所有している場合、「土地使用権、住宅および土地に付随する他の資産所有権の証明書」上に、所有者の名義が記載されています。相続が発生する場合、この証明書を書き換える必要があります。また、金融機関に預金がある場合、当該金融機関に相続人の死亡を伝えた上で、相続人が口座解約・送金等を進めることとなります。

いずれの場合も、誰が相続人かどうかを確定することになりますが、不動産についてはベトナム法、預金については日本法となるものの、日本に住む日本人の場合、ほとんどの場合が日本にいる相続人が手続を行うということになると推測されます。
ベトナム法が適用される不動産の場合、ベトナムの相続法が適用されるため、法律自体をベトナム当局に説明することは問題ありません。しかし、具体的なケースにおいて誰が相続人になるかどうかは、被相続人の家族関係を証明しなければわからないということになります。

一方、預金の場合、日本の相続法が適用されるため、そもそもベトナムの金融機関に日本の相続法がどのような制度となっているかという説明をしたうえで、具体的なケースにおいて誰が相続人となるかを証明しなければならないということとなります。
これらは、日本の専門家の意見及び日本の公的な書類で証明する必要が出てきますが、ベトナム語の作成や公証認証なども必要になる可能性が高く、時間も費用もかかることとなります。実務上は、法令上このような場合に必要書類が定まっているわけではないため、それ以外の書類を要求される可能性もあります。
ベトナム現地に詳しくない相続人がこのような対応をすることは非常に困難と考えられますので、相続人の負担を軽減するためにも、対応策を検討しておく必要があるでしょう。

 

2. 遺言を作成する場合

ベトナムで遺言を作成しておく場合、後述するように、遺言の形式はベトナム法令に従って確定することも可能となります(民法第681条)。
そのため、ベトナムで遺言を作成しておくことにより、ベトナム国内手続において日本の相続法の説明や、相続人構成の証明を行わずに、相続手続を行うことができる可能性があります。具体的には、ベトナムにおける相続財産とそれを相続させる者を明記しベトナムの遺言の形式で作成しておくことによって、当該相続人が身分証明できれば、行政当局及び金融機関での手続を行うことができます。

このような外国人がベトナムで遺言を残し、相続手続きをしたという実務はほとんど実例がないため、実際にはその他の書類を要求される可能性も十分ありますが、少なくとも全く作成していないよりは手続が容易になります。遺言による相続人が決まっていない場合、相続人全員の合意書等が無い限りベトナムでの手続を進めてくれないということにもなるためです。

なお、日本で遺言を残したとすると、それをベトナムで使用するために、日本の相続法に従った遺言なのかどうかの証明が必要になります。また、遺言自体をベトナム語にする必要も出てきます。この場合も、手続する相続人を指定しておくことができるので、法定相続よりは容易になる可能性は高いですが、ベトナム法の形式で作成しておくほうがスムーズになると考えられます。

 

3.遺言の準拠法

遺言の準拠法は、民法681条で定められています。

これによると、遺言の作成・変更・撤回の能力は、その時点で遺言作成者が国籍を有する国の法令に従って確定されます。また、遺言の形式は、遺言が作成された国の法令に従って確定されます。それ以外の場合であっても、 
①遺言作成をした時点又は死亡した時点で遺言作成が常住していた国
②遺言を作成した時点又は死亡した時点で、遺言作成者が国籍を有していた国
③相続財産が不動産である場合、不動産の所在地
の法令と合致する場合にはベトナムにおいて公認されると規定されています。

本件では、遺言作成の能力については日本法で確定されることになりますが、遺言の形式については、日本で遺言を作成すれば日本法、ベトナムで遺言を作成すればベトナム法に準拠するということになります。

では、日本で作った日本の遺言がベトナムで有効になるのでしょうか。
日本で作られた遺言ですので、遺言の形式は日本の法令で確定されます。また、遺言の作成能力も日本国籍保有者ですので、日本法で確定されます。したがって、日本で有効な遺言については、ベトナムでも有効となります。
もっとも、上述したように、ベトナムの手続に日本の遺言を使う場合、ベトナム語で日本法の説明文書等が必要になってくると考えられるため、その点は注意が必要です。

 

4.ベトナムでの遺言の作成

ベトナムでベトナム法に則った遺言を作成する場合はどうでしょうか。
上述のとおり、ベトナムで遺言を作成すれば、ベトナム法にしたがって遺言の形式が確定されますので、少なくともベトナム国内においては有効なものとなります。
 
では、ベトナムではどのような遺言作成方法があるでしょうか。遺言については民法第624条から第648条が規定しています。
まず、遺言は文書によりなされなければなりません。ただし、文書により遺言することができないときは、口頭で遺言することもできます(民法第627条、第629条)。
文書による遺言には、以下の4種類があります(民法第628条)。

・証人のいない文書による遺言(民法第633条)
  ―自筆で内容を記載し、署名
・証人のいる文書による遺言(民法第634条)
  ―自筆又はタイプ打ちが可能。遺言者の署名又は指印。証人2人の署名。
・公証された文書による遺言(民法第635条、第636条)
 ―公証の前で遺言の内容を宣言。公証人が書き取り。遺言者の署名又は指印。公証人の署名
・確証された文書による遺言 (民法第635条、第636条)
 ―確証権限者の前で遺言の内容を宣言。公証人が書き取り。遺言者の署名又は指印。公証人の署名

 

遺言の内容は、①遺言をした年月日、②遺言者の氏名と居所、③遺産を受領する個人の氏名、機関・組織の名称、④遺産の内容と遺産の所在、で構成されます。その他の内容も記載可能です。遺言が複数頁に渡る場合、各頁に番号を記載し、遺言者が署名又は押印する必要があります。

上記のような形式、内容での遺言が法律上は可能であるが、実務上、ベトナム公証人、確証権限者は、外国人の遺言を公証・確証していません。したがって、証人のいない文書による遺言か、証人のいる文書による遺言を行うしかないのが現状です。将来的には状況が変わる可能性もあるため、実務の確認が必要となります。
遺言は、遺言者により、いつでも修正、補充、代替、撤回が可能です。

 

5.遺留分

ベトナムの相続法においても、日本の遺留分同様の制度が規定されています。
具体的には、法定相続人が、本来の法定相続分の3分の2よりも少ない遺産の分しか享受することができない場合、以下の者は法定相続分の3分の2と同等の遺産分を享受することができます(民法第644条)。
 ① 未成年の子、父、母、妻、夫
 ② 成年者となっているが、労働能力がない子
この規定は、遺産受領を拒否(放棄)した者、遺産を享受する権利を有しない者には適用されません。

 
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日本国弁護士・ベトナム外国弁護士

日本国弁護士・ベトナム外国弁護士

ICONIC

CAST LAW VIETNAM 代表、弁護士法人キャスト・パートナー。日本国弁護士(大阪弁護士会所属)、ベトナム外国弁護士。 2011年から弁護士法人キャストに参画し、2013年から中国上海、2014年からベトナムへ赴任。2015年より弁護士法人キャストホーチミン支店長、2017年より現職。ベトナムを拠点に、在ベトナム日系企業に対して進出法務、M&A、労務、知的財産、税関および不動産などの分野で幅広いサポートを行う。著書に『メコン諸国の不動産法』(大成出版社、2017年、共著)、『これからのベトナムビジネス』(東方通信社、2016年、共著)など。

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