【マレーシア法務ブログ】第6回:社会保障制度①

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TNYグループのマレーシア事務所の弁護士の下田です。今回は社会保障制度のうち、EPF(Employees Provident Fund(従業員積立基金))について解説していきます。

 

1. EPFの目的

EPFは労働者の老後の生活資金の確保等を目的とした強制貯蓄制度です。同制度は、従業員積立基金法(Employees Provident Fund Act 1991)に基づき運用されています。

 

2. 加入対象者

従業員積立基金法は、全ての「使用者」及び「労働者」は、労働者の月々の賃金額に応じた拠出金を納付しなければならない旨を定めています。

「使用者」とは、労働者と雇用契約又は徒弟契約(Contract of Apprenticeship)を結んだ者をいい、以下の者を含むものとされています。
① 労働者への賃金の支払につき責任を負う者、代行業者、マネージャ-
② 団体(設立の有無、法律上の根拠の有無を問わない)
③ 政府、政府の部署、法定機関、地方政府等又はそれらの場所において労働者たる部下を有する役員

一方、「労働者」とは、雇用主の下で就労するために雇用契約又は徒弟契約に基づき雇用された者をいいます。期間の定めの有無や勤務時間は問われませんが、以下の類型に該当する者は労働者から除外されています(除外要件の詳細については従業員積立基金法別表3をご確認ください)。
出典:http://www.kwsp.gov.my/employer/contribution/all-about-your-responsibility

① 遊牧民の原住民
② 家事労働者(加入を選択した場合を除く)
③ 労働者補償法(Workmen’s Compensation Act 1952)3条に定義されるOutworker
④ 刑務所、拘禁所、精神病院、リハビリテーションセンター又はらい病施設に拘禁されている者
⑤ 外国人労働者(加入を選択した場合を除く)
⑥ 75歳以上の者

上記のとおり、外国人労働者及び家事労働者は、EPFへの加入対象者から除外されていますが、任意でEPFへ加入することが可能です。

 

3. 拠出金の納付

使用者は、労働者の賃金から労働者の拠出金の負担分を徴収し、自らの負担分と併せ、毎月15日までに納付しなければなりません。使用者は、拠出金の使用者負担部分を労働者の賃金から徴収することはできません。
拠出金の労働者負担分は、賃金の支払時にのみ賃金からの徴収をすることができます。過去の負担分については、本来徴収が行われる日から6か月以内であれば賃金から徴収をすることができます(徴収がされていなかったことが使用者の過失に起因する場合を除きます)。
拠出金の納付の懈怠は罰金や懲役刑の対象となるだけでなく、マレーシアからの出国制限の理由ともなりえます。
外国人労働者の場合、ワークパーミットの有効期限(延長後の有効期限を含みます)の2か月前から保険料の支払いを止めることができます。

 

4. 拠出金の算定

1 賃金
拠出金の額は、労働者の賃金額に基づいて決定されます。ここにいう賃金には、基本給だけでなく、雇用契約ないし徒弟契約に基づき支払われるものである限り、賞与、報酬又は手当等も含まれます。しかしながら、以下のものは賃金に含まれません。
① チップ
② 時間外割増賃金
③ 退職時に使用者が自主的に支払う恩賞
④ 雇用契約に基づき支払われる退職金
⑤ 解雇手当(retrenchment, lay offの場合を含みます)
⑥ 出張手当及び交通実費
⑦ 大臣によって除外された支払い

 
2 拠出金率
拠出金率は、労働者の国籍、永住権の有無、年齢、任意加入の加入時期等によって異なります。詳細については、従業員積立基金法別表3をご参照下さい。
なお、使用者及び労働者は、従業員積立基金法所定の拠出金の額を上回る額を拠出することを選択することもできます。

 

5. 引出し・給付等

1 口座の種類について
拠出金が振り込まれる口座は2つに分けられます。1つ目の口座(「口座1」とします。)は、専ら退職後の生活資金の確保を目的とし、拠出金の70%が振り込まれます。
これに対し2つ目の口座(「口座2」とします。)は、退職後の生活資金の確保のみならず、住宅の購入費や教育費、医療費への充当も目的として、拠出金の30%が振り込まれます。

労働者が55歳になった時点で、口座1及び口座2にある積立金の残高は、口座55と呼ばれる口座に移されます。
労働者が55歳以降に支払った社会保険料は、Emas口座と呼ばれる口座で管理されます。

 
2 引出し及び給付等
(1) 年齢に応じた引出し
55歳になり口座55への積立金の移動が生じて以降、労働者は一定の手続に従って口座55から積立金の引出しをすることができます。
労働者が60歳になると、口座55とEmas口座が1つに統合され、積立金の全額につき引出しが可能となります。

(2) 全額の引出し
以下の場合には、労働者は55歳又は60歳になる前であっても、一定の手続に従って積立金の全額を口座から引出すことが可能となります。
① 労働者が死亡した場合
② 労働者が身体的・精神的に就労ができなくなった場合
③ 外国人労働者がマレーシアを離れる場合
④ 公務部門の労働者が年金受給者としての地位を得た場合

(3) 一部の引出し
また、以下の場合には積立金の一部の引出しが認められます。

ア 退職準備
50歳以上55歳未満の労働者は、一定の要件・手続に従って、退職の準備費用に充てる目的で口座2の積立金を引き出すことができます。

イ 教育
労働者又はその子どもが、認定を受けた国内の大学又は海外の大学でより高いレベルの教育を受けるための費用に充てる目的で、一定の要件・手続に従って口座2の積立金を引き出すことができます。

ウ 住宅購入費用等
住宅の購入又は建築費用に充てる目的で、一定の要件・手続に従って口座2の積立金を引き出すことができます。
また、同様に、住宅ローンの返済・減額のために、一定の要件・手続に従って口座2の積立金を引き出すことができます。

エ ハッジ
ハッジ(巡礼)の資金に充てる目的で、一定の要件・手続に従って口座2から積立金を引き出すことが認められています。

オ 医療費
労働者又はその家族の重篤な病気の治療に必要な医療費の支払い又は医療器機の購入費に充てる目的で、一定の要件・手続に従って口座2の積立金を引き出すことができます。

カ RM1,000,000以上の積立金がある場合の引出し
積立金がRM1,000,000を超過している労働者は、資金運用の柔軟性という観点から、RM1,000,000を超過する部分について積立金の引出しが認められています。

(4) 配当
労働者は、100歳に達するまで、積立金の残高に応じて配当を受け取ることができます。

(5) 一時金
以下の場合には、積立金の残額の引出しのみならず、EPF理事会の裁量によりEPFから各金額の給付を受けることができます。
・死亡の場合:RM2,500
・精神・身体的就労不能:RM5,000

(6) 投資用口座への移動
口座1に十分な額の積立金を有する労働者(マレーシア人、永住者、1998年8月1日より前から任意加入をしていた外国人労働者に限る)は、財務省から認定を受けた基金管理機関を通じて投資をするために、積立金の一部を移転することができます。

 

6. 記録の作成・保管義務

使用者は、所定の情報を含む登録簿を作成し、保管しなければなりません。

 
 
<本記事に関するお問い合わせはこちら>

TNY国際法律事務所(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)
TNYグループ
日本国弁護士:下田幸輝
連絡先:info@tnygroup.biz
HP: http://www.tny-malaysia.com/

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マレーシア弁護士と共に、会社設立手続き、各種ライセンス取得手続き、雇用契約書や就業規則の作成等の労務関連、売買契約書等の各種契約書の作成、法規制の調査、意見書の作成、DD等のM&A関連、訴訟・紛争案件、不動産譲渡手続き、商標登録等の知的財産権関連等、幅広い法務関連サービスを提供している。多くの日系企業と顧問契約を締結している。 また、ヤンゴン(SAGA ASIA Consulting Co., Ltd.)、バンコク(TNY Legal Co., Ltd)、大阪・東京(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所)、テルアビブ(TNY Consulting (Israel) CO., LTD.)にも関連事務所を有する。

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