【マレーシア法務ブログ】第7回:社会保障制度②

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TNYグループのマレーシア事務所の弁護士の荻原です。今回は労働者社会保障制度(Employees’ Social Security Schemes。運営主体の名称をとってSOCSOとも呼ばれています)について解説していきます。

 

1. 概要

労働者社会保障法(Employees’ Social Security Act 1969)は、怪我等の理由で就労ができなくなった場合の収入の填補等について規定しています。同法に基づく労働者社会保障制度はSOCSO(Social Security Organisation)によって運用されています。
同法が提供するのは、以下の2つの制度です。
①雇用傷害(Employment Injury)保険制度:業務上の負傷・疾病に対する給付
②障害年金(Invalidity Pension)制度:業務と関係のない負傷・疾病に対する給付

 

2. 加入義務者

使用者は労働者社会保障法に基づき自身とその労働者(雇用契約又は見習契約に基づき就労する全ての者)の登録を行わなければならなりません。
本制度の対象者は、以下の2つのカテゴリに分けられます。
①第一カテゴリ:雇用傷害保険制度及び障害年金の被保険者たる労働者
②第二カテゴリ:雇用傷害保険制度の被保険者たる労働者

 

3. 社会保険料

1 社会保険料は労働者社会保障法別表3が定めるところに従い、労働者の賃金に応じて定まります。賃金には、基本給のほか、時間外手当、報酬、食事手当、住宅手当、シフト手当、妊娠手当、病気休暇中の賃金、年次有給休暇中の賃金、休日手当を含みます。
もっとも、以下のものは含みません。
①使用者が年金積立金等のため又はこの法律に基づき支払う保険料
②出張旅費及び交通費
③業務上の費用の支払
④退職金
⑤賞与
⑥規則で定められるその他の給付

労働者の給与が月額RM4,000を超えている場合には、RM4,000を基準として社会保険料及び給付額が算出されます。

 
2 第一カテゴリについては使用者・労働者双方に負担分があり、第二カテゴリについては使用者にのみ負担分があります。
使用者は、第一カテゴリの労働者については労働者の負担分を賃金から徴収し、使用者自身の負担分と併せて納付し、第二カテゴリの労働者については使用者自身の負担分のみを納付する必要があります。納付の期限は、毎月15日までとなっています。
使用者は自己の負担分を労働者の賃金から徴収したり、労働者に対し使用者負担分の求償を求めたりすることはできません。
労働者の負担分の未納分を納付した使用者は、納付の直近6か月間に納付期限が到来していた部分に限り、労働者の負担分を労働者の賃金から徴収をすることができます。

 

4. 給付

1 障害年金(Invalidity Pension)
医療委員会から(永続的な)就労不能との認定を受けた被保険者に対する定期給付です。

2 障害手当(Disablement Benefit)
業務上の負傷・疾病に起因する障害(Disable)を受けた被保険者に対する定期給付です。この手当には、以下の種類があります。
・一時障害手当
・永続的部分障害手当
・永続的全部障害手当

3 遺族手当
業務上の負傷・疾病の結果死亡した被保険者の遺族に対する定期給付です。

4 リハビリテーション給付
身体的・職業的リハビリテーションのための施設が提供されます。

5 葬儀手当
業務上の負傷・疾病により被保険者が死亡した場合、次の受給権を有する近親者に総額RM2,000が支払われます。
次の受給権者がいない場合、葬儀費用を支出した者に対して給付がされます。この場合、実際の支出額又はRM2,000のうちいずれか低い額が給付されます。

6 継続看護手当
障害年金又は永続的全部障害手当の受給権を有する労働者は、その不能の程度が著しく他者の継続的な看護を必要とする場合、それぞれの給付の40%に相当する継続看護手当を受給することができます。

7 医療手当
業務上の負傷・疾病を受けた労働者への治療費等の給付です。

8 遺族年金
障害年金の受給中に亡くなった労働者等の遺族に対して支払われる定期給付です。

 

5. 解雇の制限等

使用者は、労働者が一時障害手当を受給している期間中は、労働者を解雇又は罰することができません。また、同期間中になされた解雇、減給に関する通知は無効であり効力を有しません。

 

6. 外国人労働者

外国人労働者も、2019年1月1日より加入義務の対象となりました。しかしながら、家事労働者たる外国人労働者は未だ同法による保護の対象外とされています。外国人労働者は障害年金制度の対象にはならないため、第二カテゴリに分類され、使用者のみが社会保険料を負担することとなります(ただし、12か月以上の期間マレーシアに居住することが認められている等の一定の条件を満たす場合には外国人労働者も障害年金制度の対象となりえます)。

外国人労働者は、以下の給付につき受給権を有します。
①医療給付
②一時障害手当
③永続的部分障害手当・永続的全部障害手当
④遺族手当
⑤葬儀費用(給付額に関する制約があります)
⑥継続看護費用
⑦リハビリテーション(一定のリハビリテーション施設の利用、教育給付に関する適用除外があります) 

なお、従業員補償令(外国人従業員補償制度)(WORKMEN’S COMPENSATION(FOREIGN WORKERS’ COMPENSATION SCHEME)(INSURANCE)ORDER 2005)に基づいて既に労働者補償制度に加入している労働者については、同保険証券の有効期間の満了日または2019年12月31日かいずれか早い日まで本法律の適用が除外されます。

 

7. 通勤災害について

1 以下の場合には、移動中に起きた事故も業務上発生した(arise out of, and in the course of his employment)ものとみなされ、労働者社会保険制度に基づく給付の対象となりえます。
①居住地又は滞在地と職場との間の経路上で生じた場合
②業務と直接関連する理由での移動中に生じた場合
③職場と正式な休憩時間中に食事をとる場所との間の移動中に生じた場合

2 ①のうち「居住地又は滞在地」という要件については、社宅から毎日出勤をしていた従業員が旧正月を祝うために長期休暇をとり実家に帰省し休暇明けに実家から職場へ向かう途中に交通事故に遭ったという事例において、「居住地又は滞在地」は、毎日の出勤をその場所から行っている等職場と関連性を持った場所でなければならないという理由から、同事例における実家は「居住地又は滞在地」にあたらないと判断した裁判例があります。

 
 
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マレーシア弁護士と共に、会社設立手続き、各種ライセンス取得手続き、雇用契約書や就業規則の作成等の労務関連、売買契約書等の各種契約書の作成、法規制の調査、意見書の作成、DD等のM&A関連、訴訟・紛争案件、不動産譲渡手続き、商標登録等の知的財産権関連等、幅広い法務関連サービスを提供している。多くの日系企業と顧問契約を締結している。 また、ヤンゴン(SAGA ASIA Consulting Co., Ltd.)、バンコク(TNY Legal Co., Ltd)、大阪・東京(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所)、テルアビブ(TNY Consulting (Israel) CO., LTD.)にも関連事務所を有する。

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