【マレーシア法務ブログ】第8回:社会保障制度③

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TNYグループのマレーシア事務所の弁護士の下田です。今回は雇用保険制度(EIS: Employment Insurance System)及び人材資源開発基金制度(HRDF: Human Resources Development Fund)について解説していきます。

 

1. 雇用保険(EIS)

1 概要
2017年に雇用保険制度法(Employment Insurance System Act 2017)が制定され、雇用保険制度が導入されました。同制度は、失業中の労働者の収入の填補及び再就職プログラムの提供を目的としています。

2 適用対象
この法律は1人以上の労働者を雇用している全ての事業について適用されます。もっとも概要以下の類型の該当する者は労働者から除外されています(除外要件の詳細については雇用保険制度法別表1をご確認ください。)。

① 日雇労働者(Casual Worker)
② 家事労働者
③ 土地から鉱物又は農作物を採取し、その対価を支払う者
④ 刑務所、精神病院等に拘禁されている者
⑤ 連邦政府など公的部門で就労する者
⑥ 18歳未満又は60歳以上の労働者
⑦ 57歳以上の者で57歳に達するよりも前に雇用保険料の支払いを課されていなかった者
⑧ 外国人(ただし12か月以上の期間マレーシアに居住することが認められている等の一定の条件を満たす場合には外国人労働者も障害年金制度の対象となりえます)

3 雇用保険料
使用者及び労働者の双方が、労働者の月給額に応じた標準月額の0.2%を拠出します。基準となる月給額はRM4,000が上限とされており、実際の月給額がRM4,000を上回っていたとしても保険料はRM4,000を基準に算出され、同制度に基づく給付も月給RM4,000を基準に算出されます。賃金の定義は、労働者社会保障法に準じます。
使用者は、労働者の負担分を賃金から徴収し、自身の負担分と併せて毎月15日までにSOCSOに納付をしなければなりません。

4 受給
(1) 受給事由
労働者が雇用契約終了時に実際に給付を受けられるかどうかは、雇用契約の終了事由によります。

ア 労働者は、以下の場合は給付を受けることができません。
① 自主的に退職をした場合
② 期間の満了により契約が終了した場合
③ 特定の仕事又はプロジェクトの完成を目的とする雇用契約が目的の達成により終了した場合
④ 雇用契約を終了させる旨の双方の合意が成立し、かつ、労働者に何らの義務も課されていない場合
⑤ 定年退職の場合
⑥ 不正行為を理由に解雇をされた場合

イ もっとも、以下の場合は、上記①の「自主的に退職をした場合」に含まれません。
ⅰ 早期退職制度(Voluntary Separation Scheme(VSS))に基づき離職した場合
ⅱ みなし解雇(Constructive Dismissal)を理由として離職した場合
ⅲ 労働者又はその家族に対する脅迫、若しくはセクシャル・ハラスメントを理由として離職した場合
ⅳ 通常の仕事の範囲外にある危険性の高い仕事を命じられたことを理由として離職した場合
ⅴ 自然災害、暴動により事業所を閉鎖すること、若しくは火災、ガス漏れ又はこれに類似する危険な状態により安全性を確保できないことを理由に退職を求められた場合

(2) 受給手続
給付の申請は、離職から60日以内に行わなければなりません。

(3) 給付内容
同法に基づく給付の概要は以下のとおりです。給付の詳細は失業期間等に応じて多岐にわたるため、詳細については雇用保険法別表3及び4を参照ご参照ください。

① 求職手当:以下の基準に基づき、最大で6か月間給付を受けることができます。給付を受けられる月数は、雇用保険料を支払った月数等よって異なります(同法別表4参照)
1か月目:標準月額の80%
2か月目:標準月額の50%
3か月目:標準月額の40%
4か月目:標準月額の40%
5か月目:標準月額の30%
6か月目:標準月額の30%

② 早期再雇用手当:新しい仕事を見つけるまでの期間に応じて異なります

③ 賃金減少手当:最大で6か月間給付を受けることができます。給付を受けられる月数は、雇用保険料を支払った月数等よって異なります(同法別表4参照)

④ 訓練手当及び訓練費用の支払:認証された訓練につき、その費用が支給されます

 

2. 人材資源開発基金制度(HRDF)

1 概要
人的資源開発基金は、従業員、見習い、訓練生の能力の開発・訓練の促進を目的とする制度で、適用対象となる使用者から人的資源開発税を徴収する一方で、その従業員等の訓練のための経済的補助その他利益の給付を行ないます。
同基金は、当初、人的資源開発法(Human Resources Development Act 1992)に基づき設立・運営されていましたが、現在は人材開発会社法(PSMBA:Pembangunan Sumber Manusia Berhad Act 2001)に基づき運営されています。
人的資源開発会社(Pembangunan Sumber Manusia Berhad)は人材開発会社法に基づいて設立された会社法(Companies Act 2016)上の法人で、①産業界の人的資源の需要に沿った従業員の訓練・再訓練の種類・範囲の評価・決定、②労働力の促進・活性化、③経済的補助その他の利益の給付基準の作成をその役割として有しています。

2 適用対象
同制度への加入が義務付けられるのは人材開発会社法別表Ⅰ第1章記載の産業(一定規模以上の製造業、ホテル業等)における一定数以上の従業員を雇用する使用者に限られており、同別表Ⅰ第2章記載の産業における使用者の同制度への加入は任意とされています。
同制度の対象となるのは、従業員、見習い、訓練生とされています。従業員は雇用主との雇用契約(Contract of Service)に基づいて賃金のために雇用されているマレーシア人と定義されており、外国人労働者は除外されています(家事労働者も同制度の適用対象から除外されています)。見習いとは見習契約を通じて特定の分野で技術訓練を受け、雇用主の事業で働くことが予定されている者を意味し、訓練生とは雇用主の施設で実践的な訓練プログラムを受けている者を意味するものとされています。

3 人的資源開発税の納付義務等
使用者が支払うべき人的資源開発税は、基本的には従業員の給与月額の1%とされています。使用者は人的資源開発税が課された月の翌月15日までに納付をしなければならず、納付が遅れた場合には遅滞の日から起算して年10%(最低額RM5)の遅延損害金を支払わなければなりません。また、人的資源開発税及び遅延損害金の不払いは、受給資格の取消事由となります。
また、同法における使用者は従業員及びその賃金に関する資料を6年間は利用可能な状態で保管しておかなければならなりません。

4 給付内容
登録を受け人的資源開発税を納付している使用者は、その従業員の訓練の促進を目的とした経済的補助その他の利益を受けることができます。受給できる経済的補助その他の利益の一例として、以下のようなものがあります。

・訓練コースへの参加費用
・自社プログラムのための講師に支払う費用
・自社プログラムのための会場のレンタル費用
・訓練のための消費素材
・訓練生に対して支払う日々の手当
・宿泊費
・航空運賃

 
 
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TNY国際法律事務所(TNY Consulting (Malaysia) SDN.BHD.)
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日本国弁護士:下田幸輝
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マレーシア弁護士と共に、会社設立手続き、各種ライセンス取得手続き、雇用契約書や就業規則の作成等の労務関連、売買契約書等の各種契約書の作成、法規制の調査、意見書の作成、DD等のM&A関連、訴訟・紛争案件、不動産譲渡手続き、商標登録等の知的財産権関連等、幅広い法務関連サービスを提供している。多くの日系企業と顧問契約を締結している。 また、ヤンゴン(SAGA ASIA Consulting Co., Ltd.)、バンコク(TNY Legal Co., Ltd)、大阪・東京(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所)、テルアビブ(TNY Consulting (Israel) CO., LTD.)にも関連事務所を有する。

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