【マレーシア法務ブログ】第9回:職場における安全性の確保

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TNYグループのマレーシア事務所の弁護士の荻原です。今回は職場における安全性の確保に関わる法制度について解説していきます。

 

1. 労働安全健康法(Occupational Safety and Health Act 1994)

1 概要
労働安全健康法(OCCUPATIONAL SAFETY&HEALTH ACT 1994)は、職場における人の安全、健康、福祉の確保を目的とする法律です。同法は、同法別表1が定める以下の事業に対して適用されます。

① 製造業
② 採掘・採石業
③ 建設業
④ 農業、林業、漁業
⑤ 公益事業
 a. 電気
 b. ガス
 c. 水
 d. 衛生サービス
⑥ 運送業、倉庫業、通信事業
⑦ 卸売・小売
⑧ ホテル・レストラン
⑨ 金融、保険、不動産、事業サービス
⑩ 公的サービス・法定機関

 
2 適用対象
使用者が直接雇用している労働者のほか、その使用者が監督する職場で働く下請業者の被用者等も労働者に含まれます。

 
3 雇用主の義務
全ての使用者は雇用する全ての労働者に対し、職場の安全、健康及び福祉を確実なものとしなければならないものとされています。この使用者の義務には、以下のような内容が含まれます。

① 安全であるように職場における設備又はシステムを提供・維持する
② 設備及び物資の使用、運用、取扱い、貯蔵及び輸送の安全性を確保する
③ 安全性を確保するために必要な情報、指示、訓練及び監督を提供する
④ 職場及び職場への出退勤の方法を安全なものとする
⑤ 労働者の福祉のために適切な設備を確保する

5人以上の労働者を有する使用者は、労働者の職場における安全及び健康に関する一般指針を作成し、労働者に対し周知しなければなりません。

また、いかなる雇用主も、以下の理由によってその労働者に対する解雇や役職の不利益変更等の行為をとることはできません。

① 安全性を欠く又は健康を害すると考える問題について苦情を申し立てた
② 安全・健康委員会の構成員である
③ 安全・健康委員会としての役割を果たした

雇用主は、職場で発生した又は発生する可能性のある事故、危険な出来事、職務上の中毒又は職務上の疾病を最寄りの労働安全健康局に通知しなければなりません。

また、危険物質を扱う事業については、労働安全健康規則(重大な産業事故の危険性の統制)(「Occupational Safety and Health (Control of Industrial Major Accident Hazards) Regulation 1996」)がより厳格な規制を定めています。 

 
4 安全・健康担当官及び安全・健康委員会
(1) 安全・健康担当官
労働安全健康命令(安全・健康担当官)(Occupational Safety and Health (Safety and Health Officer) Order 1997)により、以下の事業を行う使用者は安全・健康担当官を雇用しなければならないとされています(④から⑨については、100名以上の労働者を雇用する場合に適用されます)。

① プロジェクトの契約価格の合計がRM20,000,000を超えるビルの運営事業
② プロジェクトの総契約価格がRM20,000,000を超える作業またはエンジニアリング建設事業
③ 最も多いときで100名以上の労働者を雇用する造船事業
④ ガスの処理又は石油化学事業
⑤ 化学及び関連事業
⑥ ボイラー及び圧力容器の製造業
⑦ 金属産業(缶詰作業、刻印作業、打抜作業、裁断作業、混合作業)
⑧ 木工事業(切断作業、設計、成形作業、やすりがけ作業、皮むき作業若しくはこれらの組み合わせ)
⑨ セメント製造業
⑩ 上記以外の事業であって500名以上の労働者を雇用するもの
 
(2) 安全・健康委員会
40名以上の労働者を雇用する使用者又は労働安全健康局長の指示を受けた使用者は、安全・健康委員会を設置することが義務付けられます。安全・健康委員会は、以下のような役割を有します。

① 労働者の安全・健康を確実なものとするためにとられている措置の見直し
② 安全・健康に対するリスクとして注意を引く事項の調査
③ 解決できない事項に関する労働安全健康局長による職場の調査の要請
④ その他規則で定められた役割

 

2. 工場機械法(Factories and Machinery Act 1967)

工場機械法は、工場で働く者の安全、健康及び福祉に関する問題を統制するとともに、機械の登録・検査について規定しています。この法律は、製造業部だけでなく、建設業等も含め、重量のある機械を用いる事業であれば適用対象となる可能性があります。
同法は、一定の機械については、労働安全健康局が発行したライセンスを有する労働者でなければ操作することができない旨を定めています。また、ボイラーや火なし圧力容器、昇降機等の一定の機械については、使用前に適合証明書の発行を受ける必要があるものとされています。
また、同法は労働者の安全性に関わる事項として、工場については以下の規定が適用されるものとしています。

① 工場の基礎及び床はそれらが予定する荷重を支えるのに十分な強度を有すること。また、基礎及び床に過負荷をかけてはならない。
② 屋根は、必要な場合には、吊り荷を支えるのに十分な強度を有すること。
③ 全ての床、作業階、台、デッキ、階段、通路、通路、はしご及び階段は、人が落下する危険性を防ぐための安全な構造を有しており、倒壊の危険性を防ぐ構造上の強度を有しており、適切に維持され、合理的に実行可能な範囲において緩んだ個所を有さず滑りにくくない状態であること
④ 就労時間中誰でも仕事をする場所に安全にアクセスできることを確実にするため、合理的に実行可能な範囲でそのような手段を提供及び維持し、利用させること
⑤ 床又は作業階の全ての開口部、汚水溜め、ピット又は固定容器は、人が落下する危険性を防ぐために、フェンス等でしっかりと覆われていなければならない
⑥ 床又は作業階に保管又は積まれている全ての商品、物品及び物質が、以下のような方法で配置又は積まれていること
 ・最も安定性を確保でき、商品、物品、物質及びそれらを支えているものが 崩れ落ちる危険性を防ぐ方法
 ・十分な光の供給、適切な換気、適切な機械の操作、支障のない通路の使用、防火設備の効果的な使用・稼働を阻害しない方法

 

3. 職場での事故を巡る民事訴訟

使用者が職場における安全性を確保に関する義務を怠り、その結果労働者が負傷し損害を負った場合、労働者は使用者に対して損害の賠償を求めることができます。
もっとも、労働者社会保障法(Employees’ Social Security Act 1969)31条本文は、労働者は同法に基づき補償される雇用契約上の受傷について使用者から損害の賠償を受ける権利を有しない旨を定めています。そのため、労働者社会保障制度への加入義務が外国人労働者にまで拡大された今日においては、職場における事故を理由に労働者が使用者に対して損害の賠償を求める事例はそう多くはないように思われます。

ただし、労働者社会保障法31条但書は、同条本文の例外として、道路輸送法(Road Transport Act 1987)により使用者に第三者賠償保険加入が義務付けられている自動車の事故に起因する請求については同条本文を適用しない旨を定めています。そのため、この場合には、労働者は使用者に対して損害の賠償を求めることができます。

 
 
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マレーシア弁護士と共に、会社設立手続き、各種ライセンス取得手続き、雇用契約書や就業規則の作成等の労務関連、売買契約書等の各種契約書の作成、法規制の調査、意見書の作成、DD等のM&A関連、訴訟・紛争案件、不動産譲渡手続き、商標登録等の知的財産権関連等、幅広い法務関連サービスを提供している。多くの日系企業と顧問契約を締結している。 また、ヤンゴン(SAGA ASIA Consulting Co., Ltd.)、バンコク(TNY Legal Co., Ltd)、大阪・東京(弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所)、テルアビブ(TNY Consulting (Israel) CO., LTD.)にも関連事務所を有する。

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