【連載⑥】就業規則の大解剖~タイの経理現場から~

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さて、今回からテーマも変わって、表題のとおり就業規則を取り上げていきたいと思います。前回の【連載⑤】日本人の駐在員・現地採用者の給与の取り扱いについてもさわりだけですが、被雇用者たる従業員目線で、福利厚生のことについて就業規則に盛り込まれることもあるということで、その部分だけ少し掘り下げて取扱いました。

今回は雇用者たる会社側の観点も含めて、この就業規則について俯瞰しながらも深掘りしてご案内します。皆さんもご自身の立場で自分の会社の就業規則などと照らし合わせながら参考にしてみてください。

 

在タイ日系企業の就業規則事例

話を進めるにあたっては、具体的な就業規則をみながらのほうがやはりイメージが湧きやすいでしょうから、当社が実際に定めている具体的な内容を取り上げながらご案内していきましょう。
下記はその就業規則の実際の目次で、実務対応や事例などを踏まえながら解説していきます。当社の就業規則は全部で11章ありますが、今回は最初の2章分を取り上げます。

目次
組織運営における経営者の考え方
会社の倫理規定
会社の経営理念
従業員の行動指針
問題に遭遇した際のアドバイス

第1章 総則
目的

第2章 従業員の種別
2.1 試用期間にある従業員
2.2 常勤の従業員〔正社員〕
2.3 特別契約による従業員〔特別契約社員〕

 

副業禁止の概念が薄い国では、競業避止の規定が必要

早速上記を見ていくと、目次のすぐ後ろに第1章が始まる前段として、倫理規定や経営理念などがあります。
こちらについては、必ずしも就業規則に含めなければならないというものではないですが、会社として従業員に広く周知する就業規則の性質上、有益ということで入れることもあります。

具体的な内容としては、文字通り経営理念などの記載もありますが、会社側としてより重要なポイントとしては、競業避止的な行動を制限する記載を入れておくということです。社会人経験を積んでいる方ならある程度常識でも、社会人経験が浅かったり、そもそもそういった考えに馴染んでこなかったワーカーの方などにとっては、会社の利益を損ねる活動に意図せず参加していることもあります。

実際に起こり得ることとしては、取引先からの個人的なキックバックなどもそうです。日本の常識では考えられないことも起こりえるので、就業規則で広く知らしめた上で、個別の雇用契約書上も競業避止の禁止事項を加えることがより確実でしょう。日本ほど副業禁止規定など社会文化的にないことも考慮すると、副業禁止まではしないまでも、このくらいのことは入れておいても良いと思います。

上記以外では、上司に報告・相談する、敬意を示す、チームで協力するなどごく一般的なことも多く記載しています。これらは社会常識的なものが多いですが、社会常識的な尺度も国や業界、それぞれの立場で違うこともあるため、まわりくどくはなりますが、入れておくに越したことはありません。

 

タイの労働法の主旨を理解しつつ、総則作成は慎重に

そしてこれからが本章です。第1章としてはお決まりの総則です。会社(雇用者)と従業員(被雇用者)間の関係性を定義し目的を明らかにする部分です。

記載内容としては簡単に言うと、会社が定める目標などに向かって良好な関係を築き、お互い協力していくために、この就業規則を定めていきますというようなことが書かれています。これはいわゆる大義名分であって、実際のところはそれぞれの立場が不利益を被らないように、法律上有利になるように定めておくルールブックのようなものです。

前回少し取り上げたときに記載したとおり、タイでは労働法が労働者保護を主旨としているため、会社側としてはその法律よりも厳しい事を定めても無効となり、当然裁判でも勝てません。そのため、内容のほとんどは労働法からの引用や抜粋だったりもしますが、最低限会社を守るためという意味合いもあるため、例え従業員数が10名未満など少ない状況でも定めておくほうが良いです。

 
もちろん、会社の意思で労働法で定められている内容よりも緩く、つまり従業員にとって有利な内容に就業規則で定めることも可能です。ただし、一度定めてしまった内容よりも厳しくすることは難しいとされているため、ほとんどの会社が労働法をなぞった内容になっているのは、そういった事情にもよります。

会社側にとってはナンセンスですが、労働法よりも緩い内容で定めた就業規則のある箇所を、その後労働法と同じ内容に戻すことが事実上できないのです。特に有給休暇のところでこの問題はよく起こりますが、これは次回以降でまたおいおいとご案内していきましょう。
 

 

試用期間の共有は念入りに!事前通知期間もチェック

次の第2章からは、より具体的な内容に入っていきます。

従業員の種別とあります。種別というとものみたいで何やら違和感もありますが、そういうことでもなく、試用期間中の取扱や、正社員、契約社員の定義と会社内での待遇のことになります。

日本でも試用期間はあると思いますが、タイでもあります。法律上は119日まで定めることができるようになっており、この期間中であれば会社側は解雇補償金など払わずに、試用期間終了時に正式な採用を見合わせることができます。
ただし、法律上定める事前通知期間は守る必要があります。不適合として採用を見送るような場合は、会社側もすぐにお引取りしてもらいたい状況のもと、事前通知期限後になる場合などもあるため、結局1ヶ月程度相当の給与だけは支給することになることも多いです。

それから、この試用期間の日数については、採用面談時にもしっかり伝えておくことが肝要です。会社によっては90日など3ヶ月程度に定めているところも多く、中には日数を気にする面談者もいます。面談者にとってはもちろん短いに越したことはないからです。
正社員は文字通り、正社員ということでわかりやすいと思いますが、契約社員という扱いもあることに少し意外感を覚えるかもしれません。いわゆる業務委託契約上のプロジェクトに携わる立場の社員や、パートタイムといった方がこちらに該当します。

とはいえ、タイでは完全雇用社会に近い失業率1%未満という統計上の実態もあり、正社員で務めるのが通常ですので、かなりマイノリティになります。ただし、独立志向が高い人も多い国なので、会社に所属せずにフリーランスのような方達がちょうど当てはまるのが、就業規則上の契約社員ということで理解しておきましょう。

 
今回はこちらで区切らせていただき、次回以降さらに具体的な内容に入っていきます。もう少しエピソード的なところも交えながらと考えているのでこのテーマもそれなりに長くなりそうです。皆さんの実務や就職時にも参考になるようにご案内しますので引き続きよろしくお願いします。

 
<本記事に関するお問い合わせはこちら>
Accounting Porter Co., Ltd.
Web:http://aporter.co.th/

但野和博

ICONIC

Accounting Porter Co., Ltd.にてManaging Directorを勤めています。弊社は日本からの進出や会計サービス全般をタイ国で提供して6年経つ会計事務所です。代表である私が日本で2社の上場会社のCFO通算6年の経験を活かして親身なサービスを提供できるよう心がけております。 これまで累計100社以上のお客様からご相談いただいた様々な実例もあり、本コラムではそんな実例の中からタイで就業するあるいは就業を想定した方向けに駐在員、現地採用の方を問わずお役に立てる情報をお届けしようと思います。 内容としては身近な給与などの取扱いから、経理処理、はたまたそれらをひっくるめたタイの日系企業で身近に起きたことなど雑感的なところも交えながら、気軽に読めるようなトーンで展開していきますのでどうぞよろしくおねがいします。

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