【連載⑧】就業規則の大解剖~タイの経理現場から~

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「タイの経理現場から」シリーズ、連載8回目となります。

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タイの賃金、時間外勤務手当、休日手当

就業規則もようやく中盤に差し掛かり、より核心的なパートに入ってきました。今回からはかなり現場からの事例も交えてお届けすることになり、実際の就業規則の目次構成ではちょうど真ん中くらいにあたる全11章構成中の第5章として、賃金関係のことについて取り上げていきます。

目次
第5章 賃金、時間外勤務手当、休日勤務手当及び休日時間外勤務手当
5.1 賃金の支払い及び賃金の受け取り
5.2 賃金の算定
5.3 賃金の昇給率と昇給率の改定
5.4 時間外勤務手当と休日勤務手当の計算方法

 

前回は勤務時間などについてでしたが、今回の第5章は賃金、時間外勤務手当、休日勤務手当及び休日時間外手当とあるように、実際の算定方法や手当などそれぞれの懐事情に関係するところが盛り込まれています。ある意味雇用者も被雇用者も一番関心の深いところになりますので、注意深く説明していきます。そのために本章については、より具体的な事例もいくつか取り上げる形になるので、この1章分を説明するのに今回の紙面をかけてご案内していきます。皆様もじっくりお付き合いください。

 

タイでの給与の支払日は日本と同じ

早速に支払いという言葉がありますが、これはもちろん会社側からみた給与の支払いを指しますし、受け取りというのは従業員からみた給与の受け取りのことです。それぞれの立場から内容が記載されていることからも、労働債権と債務の両面の性質がこんなところに現れています。

ここではいつ給与が支払われるかをずばり定義する箇所になっています。末日が多いですが、25日なども日系の会社ならたまにあります。まれに10日というのもありますが、これはあまり従業員受けしません。いずれも該当日が休日にあたる場合は前営業日というのが通常です。この感覚は日本と同じと考えて良さそうです。

 

締め日は給与支払い日の1週間前を目安に

また、規定上には通常盛り込まなくても良いレベルですが、実務上重要なこととしては締め日の設定をいつにするかです。末締めの同日払いや20日締めの同日払いなどのことです。このことは入社時においても退職時においても特に重要なのは言うまでもありません。例えば2月1日に入社した新人がいるとして、20日締め末日払いであれば、最初の月の給与は日割りして20日分が末日に支払われるという算段です。末日締めであれば全額支払われます。

このとき、同時にこの後にも出てくるOT(OverTimeCharge:残業代)の取扱いも一緒に決めておく必要があります。20日締めであれば、通常OTも同日の20日に締めて月末に計算して計上するのが通常です。但し、末日締め末日支払いといった場合は、同日にOTを締めて計算することは現実的ではないので、通常はOTのみ翌月支払いとします。

個人的な感覚では、給与支払日の5~10日くらい前に締め日を設定する会社が多いように思えます。実務上もそのくらいであれば、会社としての会計上の給与の日割り分取り込みなども、規模によっては期末にも計上しないことも多いので、人事担当者や経理担当者、あるいは会計事務所といったところでの給与計算の時間にも余裕ができるので広く受け入れられています。

 

前払い金の持ち出しに留意

一方でこれもたまにありますが、月末締めで当月25日払いといったケースです。これは日本での親会社がそのように対応している場合に、処理を統一してというときが主な理由で採用されたりします。この場合のリスクとしてはタイならではですが、前払いの日数分が発生するため給与支払日後から締め日の間に急遽退職するケースの場合、本人から返金を受けることが難しい局面もあることです。こういった場合に備えて保証人などつけていればまだ良いのですが、最悪の場合連絡が途絶えるケースもあるので留意が必要です。

長くなってしまいましたが、これら締め日のことは労働契約書にうたうことがむしろ多いので、被雇用者側の立場の場合はそこでしっかり確認するようにしましょう。

 

賃金算定は事細かに記載しなくてOK

最初の項目にだいぶ紙面を割きましたが、次の賃金の算定というのは実にシンプルです。本来はなんとか手当といった類のものが記載されてもおかしくないのですが、ここはあくまでも会社が設定する規定という立ち位置であることを理解しましょう。個別に具体的に定義しすぎると、会社側としてはかえって身動きが取れなくなることや、内容変更時に都度改定を繰り返すことも、その位置づけからするとふさわしくないため、ごく一般的な記載にとどめておくのが通常です。
例えば、国の経済状況や労働市場の賃金動向といったマクロ的なことから、役職階級や任務遂行状況、会社の状況といった記載の程度です。

 

昇給率は業界平均なども加味しながら慎重な判断を

そして次の項目としては、これも気になる昇給率です。ここにも実は上記と同じく、具体的な昇給率の目安などが記載されるわけではありません。年に何回昇給する機会があるかや、昇給の基礎として月給を対象とすることなどや、入社時からどのくらいの期間経過した人から対象とするかなどが規定されているにすぎません。会社側としては重要ですが、会社の事情や判断により昇給を検討しないこともありえるという記載も同時にあることでしょう。
もっともそう記載されているとはいえ、会社として全体の昇給を見送るというのは、財務状況が良くないなどの理由を明確に説明しないと、事業を運営するのに大いに支障をきたすことになるのは言うまでもありません。

実は多くの日系会社にとってもここは頭の痛いところで、単純にGDP成長率以上にということ以外に、やはり従業員の転職リスクを考慮すると、同業他社での昇給率や額などの情報交換が経営者同士のネットワークでかわされることも結構あるようです。当社のような会計事務所にも直接回答しずらいものの、他社での一般的な昇給額などの質問が昇給の時期になると何件かあります。規模や業種によりけりですが、ここ数年は年間で500~2,000バーツくらいの幅という感覚です。

 

最大で3倍アップ!?タイの残業代の取り扱いに要注意

さて、最後の項目まできました。時間外と休日手当です。ここが日系企業が注意しないといけないところですが、労働法上は基本的に残業は必要悪ではなく、悪という考え方です。なので、法律上定められている残業代の下限が日本よりも懲罰的に高いです。時間外が1.5倍、休日が2倍、休日の時間外だと3倍にもなります。なので、恒常的に残業が発生するような状況なら、すぐにでも追加雇用をしたほうが労働生産性としては賢明な選択ということになります。
もっとも、通常のタイスタッフも不必要に残業はしないので問題はありませんが、なかには直接雇用している運転手など基本賃金が最初から低い人などは、積極的に時間外や休日出勤を求めてくることもあります。中には渋滞事情などから本来は車を返しても問題ないのに、必ず業務終了後の飲食時にも近くに待機させて、渋滞の中時間をかけて帰宅するという駐在員がいることも、そういった事情があったりします。

実はタイの場合、バンコク都心部に住みそのまま都心部に通う人にとっては、営業上郊外の工業団地などに出向く人を除けばほぼ車自体が不要なほど公共の交通機関も発達しており、治安上も既に危険手当や格差手当が実質不要と思える状況です。そんな中、会社の格式などによっては無理にドライバーと契約しているところもあるのが実態です。 

最後はだいぶ豆知識的にもなりましたが、今回はここまでで、次回はタイならではの休日も含めた規定に入っていきます。

 
<本記事に関するお問い合わせはこちら>
Accounting Porter Co., Ltd.
Web:http://aporter.co.th/

タイ在住歴7年・累計100社以上のご相談に対応

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Accounting Porter Co., Ltd.にてManaging Directorを勤めています。弊社は日本からの進出や会計サービス全般をタイ国で提供して6年経つ会計事務所です。代表である私が日本で2社の上場会社のCFO通算6年の経験を活かして親身なサービスを提供できるよう心がけております。 これまで累計100社以上のお客様からご相談いただいた様々な実例もあり、本コラムではそんな実例の中からタイで就業するあるいは就業を想定した方向けに駐在員、現地採用の方を問わずお役に立てる情報をお届けしようと思います。 内容としては身近な給与などの取扱いから、経理処理、はたまたそれらをひっくるめたタイの日系企業で身近に起きたことなど雑感的なところも交えながら、気軽に読めるようなトーンで展開していきますのでどうぞよろしくおねがいします。

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