【連載⑫】就業規則の大解剖~タイの経理現場から~

記事をシェアする

「タイの経理現場から」シリーズ、連載12回目となります。

▼過去の記事はこちらをご覧ください。
但野和博(外部ライター)の記事一覧
https://iconicjob.jp/blog/author/tadano/

 

タイの福利厚生と権利

前回の一服的なコラムをはさみ、前々回に続いて就業規則の後半部のメインパートを今回も紹介していきます。引き続きタイならではの特色がある内容にあふれていますので、そのあたりの具体的な事例を交えながら取り上げていきます。

目次
第7章 福利厚生と権利

7.4 賞与/報奨金(Incentive)
7.5 職能給(CPD/CPA License)
7.6 生命保険、損害保険、医療保険
~7.10まで(7.7以降は次回以降の取扱)

 
今回も前々回に続いてこのコラムのテーマの中心である第7章福利厚生と権利を取り上げていきます。よく耳に聞こえてくる話でもあり、タイのみならず東南アジア諸国で共通するところも多いと思います。

 

賞与支給の義務は無い?タイの賞与事情と支給相場

早速ながら今回最初に取り上げるのは賞与です。これは皆さんが一番関心のあるところでしょう。
賞与については法律上支給が義務付けられていないので、会社側としては通常は原則支給なしで雇用契約を交わし、就業規則上も原則支給しないとすることが多いです。一度でも支給を確約めいたことを記載すると労働法上不利な変更は認められないため、会社側としては義務を負うことになってしまうためです。
ですので、賞与支給をうたっている企業は相当優良な企業と言っても良いでしょう。
規定上は支給なしの場合でも支給の判断、拠り所を記載しておくほうが無難です。経営者の判断や取締役の判断かなどの記載です。

実際には賞与が出ると決まっているわけでなくても、採用面談時には過去、あるいは直近で賞与の支給実績があるかどうかは会社側から言うこともありますし、面接応募者の方から質問してみるのも特にタブーでもなく普通にやり取りします。
その中で具体的な支給月数など立ち入って聞くことも特に問題ありません。相場的にはこれはタイならではだと思いますが自動車関連産業の業況に左右されることが大きいです。いわゆるその業界で言うところのTier1, 2などのアッパーカテゴリーとそれ以下では大きく差が開くということもよく聞く話です。

私が聞いたことのある過去最大のところでは5, 6年くらい前になりますが、アッパークラスで10ヶ月分程度、たまたま当社のクライアントさんがカテゴリーは不明ですが、中位から下位カテゴリーくらいでも6ヶ月分でした。当時の状況としてこのくらい出さないと従業員がやはり他社に転職してしまうリスクが高いとの判断でした。
自動車関連産業以外でサービス業などは正直そこまで多くはなく、せいぜい3ヶ月分で、1ヶ月分というところも未だに多いです。

 

賞与支給のタイミングと給与明細のカラクリ

そうそう、賞与の支給回数ですが、日本では夏・冬と2回のところが通常かと思いますが、年1回の12月支給が多いです。たまに旧正月の4月中旬のソンクラーン休み前に寸志的に支給するようなことも聞きますが、日系でそこまで対応しているところは聞いたことがありませんし、あったとしても本当に帰省手当的なものだろうと推察します。

それから、支給月数の対象となる支給額は通常は基本給となります。そのため、日系が得意とするようないろいろな手当に細分化されている給与テーブルがきちんと用意されていたりします。
基本給の額が月給に占める割合が結構少なかったりするのは、実はこんな事情が隠されているかもしれません。ですので、支給額の構成などもよく見ておいたほうが良いでしょう。

 

給与調整が目的?タイの職能給事情

そして次に職能給です。これは上記前段の続き的な要素もありますが、雇用側の思惑としては、福利厚生として報いるという建前的なものと別に給与総額の調整項目として基本給を下げるという機能も実のところあったりします。もちろん全ての会社が当てはまるというわけでもなく、単純に福利厚生としてのものもあり、どんなことに対する職能給かという内容のほうが重要でしょう。

例えば、当社の場合は会計事務所なので、CPA(公認会計士)やCPD(経理士…日本語での適切な対訳がなく税理士に近いがそこまでのレベルではない税務申告に署名する資格)といったものが純粋に職能給として規定しているものです。
日系で一番多いのが、やはり語学手当でしょうか。英語だったらTOEICやTOEFLのスコア、日本語だったら日本語検定の級数などによって段階別に手当額のテーブルに当てはめて支給するというケースがこれにあたるでしょう。

それ以外ももちろん、その会社の業界特性に沿った資格手当などもありますし、場合によっては特に資格などなくても営業スタッフに適用する営業手当なるものもあります。ここまで来ると営業でなくてもどんな職種でも手当が付けられるような気もしてしまいますが、まあ、そういうことです。

就業規則上もこれら手当は雇用契約に盛り込むのは必須として、可能な限り会社として定義しておくべきものとして記載しておくべきでしょう。雇用契約上にあって、就業規則上ないものは、単純に新たに設置した手当で次回改定時に追加されるか、でなければひょっとしたら先程の調整項目的なものかもしれません。

 

タイの民間医療保険、加入条件や加入時期、社員への効果は?

続いて保険関係項目です。最近、日系では導入することが多くなってきました。前々回の社会保険の項目でも記載したとおり、タイでは公的な医療保障制度が脆弱なため実際には会社が加入する民間の医療保険のほうがはるかに充実しているので、このような民間医療に入っている会社は応募者からしたら入社基準の一つにもなるくらいです。

ただし、会社契約としては団体保険扱いになるので通常は5名以上からの契約になるので、少なくとも5名以上対象者がいる会社ということになり、立ち上げ時の日系の会社でちょうどギリギリといったところです。とはいえ、日本人駐在員の場合は本社が日本のほうで別契約で特別扱いするケースもあるので、その場合はスタッフが4名だとまだ加入できなかったりするため創業当初から準備するのは大変です。そのため、営業開始して1年くらい経ってから検討するところが多いと見受けられます。

日本の某損害保険会社さんなどの大手もサービス提供していますし、担当者も日本人だったりするので相談もしやすいです。ローカルスタッフ基準で言うと一人あたり年間8千バーツ程度の保険料(福利厚生として会社負担のみ)で、年間複数回分の通院医療費や入院代、手術代などもカバーできるものなので、大病院であればキャッシュレス対応も可能などと何かと便利なのでスタッフにも大変喜ばれます。
場合によっては駐在員のみは日本の基準からもう少し高めの保険に入ることもあります。経験上、同じような保障内容なら日本で入るよりもタイ現地で直接契約したほうがリーズナブルな気がします。

 

帰国時に便利!日本国内で適用になることも

またあまり知られていませんが、キャッシュレスの適用にはなりませんが、保険対象として全世界適用となっていることが多いです。駐在員が日本に一時帰国した際にも日本の医療機関で適用ができるということです。もっとも駐在員の場合はそもそも日本の本社で厚生年金・社会保険ともに加入したままでしょうから、日本にいたときの健康保険証がそのまま使えるケースが通常ですので、利用する必要はないと思います。現地で起業した方や一時帰省中の現地採用の方などは知っておいて損はないかと思います。

というわけで、この民間保険は日系でも全ての法人が用意しているというわけでもないので、現地採用での応募者としてこの制度の有無は割と大きなチェックポイントになるかもしれません。

 
今回も福利厚生について紹介してまいりました。会社側の意図も結構交えながらの紹介とさせていただいたのですが、いかがでしたでしょうか。
次回でこの福利厚生の章はようやく完了できそうですので、もう少しお付き合いください。

 
<本記事に関するお問い合わせはこちら>
Accounting Porter Co., Ltd.
Web:http://aporter.co.th/

タイ在住歴7年・累計100社以上のご相談に対応

タイ在住歴7年・累計100社以上のご相談に対応

ICONIC

Accounting Porter Co., Ltd.にてManaging Directorを勤めています。弊社は日本からの進出や会計サービス全般をタイ国で提供して6年経つ会計事務所です。代表である私が日本で2社の上場会社のCFO通算6年の経験を活かして親身なサービスを提供できるよう心がけております。 これまで累計100社以上のお客様からご相談いただいた様々な実例もあり、本コラムではそんな実例の中からタイで就業するあるいは就業を想定した方向けに駐在員、現地採用の方を問わずお役に立てる情報をお届けしようと思います。 内容としては身近な給与などの取扱いから、経理処理、はたまたそれらをひっくるめたタイの日系企業で身近に起きたことなど雑感的なところも交えながら、気軽に読めるようなトーンで展開していきますのでどうぞよろしくおねがいします。

記事をシェアする

関連する記事