【連載⑫】就業規則の大解剖~タイの経理現場から~

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「タイの経理現場から」シリーズ、連載12回目となります。
就業規則の後半部のメインパートである第7章も今回で完結となります。今回もタイらしい内容でお届けします。

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タイの福利厚生と権利

目次
第7章 福利厚生と権利

7.7 年次健康診断
7.8 親睦会及び年次社員旅行
7.9 出張時の宿泊費、食費及び諸費用
7.10 研修

 
前回までの2回と今回にわたり、全3回にもなるこの第7章 福利厚生と権利ですが、残りの章がより労働法に沿ったような少しお硬い内容に寄っていることと比べると、タイの事情を反映した特殊な内容だけにむしろとっつきやすいテーマだろうと思います。ということで、今回あと少しだけこちらのテーマにお付き合いください。

 

タイの健康診断は必須ではなく、あくまでアプローチ要素?

早速ながら、今回のトップバッターは健康診断です。
これまでのトピックの中でも随所で触れたことがあるかもしれませんが、日本であれば定期健康診断ということで、会社としては所属業界の加盟するような健康保険組合などを利用して、年に1回は義務付けているところが多いことでしょう。
という文脈でも分かると思いますが、タイでは法律上の要請などによる義務付けもなければ、健康診断という概念自体が一般的に馴染みがないようです。いや、これはもしかしたら日本以外の諸外国ではわざわざ会社が従業員の健康管理まで主体的にすることなどないことが通常だと思えるくらいの位置づけなのかもしれません。

とはいえ、当社も含めて日系企業だとたまに目にするのがこちらの健康診断の項目でして、雇用側としては従業員の健康管理のフォローまでもが、ある意味福利厚生として提供できているというアプローチにもなります。

 

タイの健康診断にかかる費用相場

但し、これは日本のように制度として強制するというよりは、年1回会社負担額の上限を決めて、健康診断を受けた人にはその範囲で会社が負担額を提供するということが福利厚生としての実情です。実際として効果のほどはあるかというと微妙で、実は当社も日本人スタッフは活用しますが、ローカルスタッフは制度発足時の年に数人申請があった以外、それ以降は皆無です(苦笑)。というくらいのものですが、昨今のタイでは一部では健康志向が取り上げられるようにも見受けられるので、そういった志向を先取りして導入しても良いかもしれません。

金額の負担感としても1回あたり5千バーツもあれば十分です。日本人駐在員向けにはそもそも日本の本社で帰国時に加入健康保険団体で受けられるため、あまり考慮しなくて済みます。もちろん駐在員がかかるような通訳付の大病院で受ければこの金額では収まらないですが(項目数にもよりますが15,000~20,000バーツ程度)、基本的な項目レベルであればローカルスタッフにとっては十分であることと(過去の履歴上は3,4千バーツ程度)、現地採用の日本人の方にとっても少し足が出ますが(6,7千バーツ程度)、それなりに十分な内容で提供できます。

 

税務調査対策には、会社のイベント事も活用できる

次の親睦会と社員旅行ですが、こういうことが就業規則に入っていること自体が日本人としては違和感があることでしょう。ずばりこれが入っている大きな理由は、税務調査時におけるリスク軽減の施策の一つです。もちろんタイでは昭和時代よろしく古き良き社員旅行がそれなりにまだ根付いていることもあるのですが、単なる会社の慣行だけであればわざわざ規則に記載するまでもありません。会社が主体となって管理し、決して個人の遊興を満たすものではないということを示し、個人所得への課税や会社として税務上も費用として認めてもらうために、規則に記載するのです。
これは税務調査が実際に入ったときに、最初に税務署から調査協力資料として通常の財務諸表以外に依頼資料としてリクエストされることが多いことからもわかります。税務署としては就業規則をみることは一見関係なさそうですが、こういうところもチェックするのです。全てがそうとは限りませんが、このように少なくとも規程として盛り込み会社が管理していることであれば正当な理由と認識してもらいやすいのは確かです。

ちなみに、いくら規則に記載しているからと言って、常識的な範囲を超える、年複数回の社員旅行や特定の人しか参加しない旅行、頻繁な食事会などはさすがに認められないでしょう。社員旅行は年に1回。親睦会は年末年始のニューイヤーパーティーや周年祭などに限るのが一般的でしょう。

 

公務員の金額を指標に、出張費もくまなく活用!

さて、旅行ついでの流れではありませんが、次が出張時の宿泊費や食費です。ここがわざわざ記載事項になっているということは……はいそうです。先程と同じく、個人に課税されることを避けるとともに会社としても業務命令などで、業務の一貫で会社が負担している費用として計上できるようリスクヘッジしたいということです。
実はタイでは公務員向けに、国内や国外に出張したときの諸手当が公務員法のようなものとして開示されています。世間一般的な出張手当の範囲もこの金額が指標となることが多いので、通常はこの範囲内で規定します。前回は職能給を色々と紹介しましたが、出張時など個別事象の手当をこの規則で定めることももちろん有効です。

そして肝心の宿泊費や食費、これも一律で定めるものでなく、役職などに応じて常識的な範囲内で定めるとしておくことが肝要です。宿泊費や食費となるとさすがに出張先の物価などにも左右されるので金額の特定が難しくなるためです。

 

研修費も有効なものは盛り込んでおく

最後は研修です。こちらも前回の職能給に出てきたとおり、当会計事務所など専門業種にあたっては、CPD資格など専門職として職責を果たすための資格維持の要件として、一定の社外研修などが義務付けられることも多いです。それについては、会社としてはもちろん必要な最低限の資金的援助や時間的融通の支援は約束しましょう、というために設けている項目となります。

あるかわかりませんが、日本語研修や管理職研修なども会社として業務との関連性が強いと判断するのであれば、規則にこういった項目を入れておくのも手です。もちろん他の項目と同様、何事も行き過ぎはリスクを伴います。今回随所で触れたとおり、会社として税務上の費用(損金)として説明しやすいということもありますが、被雇用者たる従業員に対する所得税の課税リスクを避けるためにも、こういったことが規則に記載されているかは皆さんの所属する会社の規則などをそういった観点で確認しておいて損はないでしょう。

 
ようやく、この就業規則テーマでのコラムも終盤が見えてきました。あと1回か2回ほどになりますので、よろしくお付き合いのほどよろしくお願いします。

 
<本記事に関するお問い合わせはこちら>
Accounting Porter Co., Ltd.
Web:http://aporter.co.th/

タイ在住歴7年・累計100社以上のご相談に対応

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Accounting Porter Co., Ltd.にてManaging Directorを勤めています。弊社は日本からの進出や会計サービス全般をタイ国で提供して6年経つ会計事務所です。代表である私が日本で2社の上場会社のCFO通算6年の経験を活かして親身なサービスを提供できるよう心がけております。 これまで累計100社以上のお客様からご相談いただいた様々な実例もあり、本コラムではそんな実例の中からタイで就業するあるいは就業を想定した方向けに駐在員、現地採用の方を問わずお役に立てる情報をお届けしようと思います。 内容としては身近な給与などの取扱いから、経理処理、はたまたそれらをひっくるめたタイの日系企業で身近に起きたことなど雑感的なところも交えながら、気軽に読めるようなトーンで展開していきますのでどうぞよろしくおねがいします。

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