【連載⑬】就業規則の大解剖~タイの経理現場から~

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「タイの経理現場から」シリーズ、連載13回目となります。
長らくのテーマとして取り上げてきた就業規則についてのトピックも今回でいよいよ完結します。

▼過去の記事はこちらをご覧ください。
但野和博(外部ライター)の記事一覧
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タイの規律違反処罰、苦情申告・意見提案、身分喪失、補償金

目次
第8章 規律及び規律違反に対する処罰
8.1 出勤に際しての規定
8.2 行動に関する規定
8.3 規律違反に対する処罰
第9章 苦情の申告及び意見の提案
9.1 苦情の申告
9.2 意見の提案
第10章 従業員としての身分の喪失
10.1 死亡
10.2 辞職
10.3 定年退職
10.4 解雇
第11章 従業員としての身分を喪失した際の補償金

 
早速ながらお気づきでしょうか?これまで、前回の第7章などは何回にも分けて取り扱ってきましたが、今回は4章分まとめて最後まで取り扱います。というのも、内容がほぼ労働法に沿ったものになることと、実務上はそれほど遭遇しないことも多いため、紙幅が少なくて済むからです。
とはいえ、労使で揉めそうなとき、あるいは揉めたときにもっとも規範にすべき章が含まれもおりますので、最後までご参考になれるようにご案内します。

 

タイの出勤・行動規定はトラブル回避のために記載

その規範の中心となるのが早速この第8章 規律及び規律違反に対する処罰からになります。
まず出勤に際しての規定とありますが、大げさな項目名になってますが、中身はどうということはなく、遅刻をしないとか、会社の利益に貢献するとか、業務を誠実に行うとか、勤務時間中は私用なことはしないなど、おおよそ社会人であれば当然というべき事項が列記してあるのが通常です。後日、なにか問題を生じたときの大前提として盛り込んであるくらいに考えてもらえれば良いでしょう。

その次の行動に関する規定も同じような内容で、勤務中は飲酒しないとか、窃盗しないとか、武器を携行しないとかなどです。ちょっと変わったところだと、自分や他者の給与を公開しないといった記載もあったりします。以前も触れたと思いますが、公開はしないまでも結構スタッフ同士での給与情報の共有もありえるので、抑止力にはあまりならないかもですが、紛争時の備えとして入っていることもあります。

 

タイの規律違反処罰は、運用のルールにやや躊躇する事も

そして規律違反に対する処罰。これが当然重要になってくるのですが、主に処罰の種類と定義、それに該当する行為、組織上の誰が決定するかなどが具体的に定められています。
おおよそ次の4種類が処罰の主なものになります。

・口頭での注意、警告等
・書面での注意、警告等
・無給の自宅待機命令
・補償金を支払わない解雇
ご覧のとおり軽いものから重いものまでありますが、これらはタイでも法律上有効で、典型的な処罰内容として扱われます。

実際の運用の場面として遭遇する可能性が高いのが、書面による警告書です。イエローカードのような扱いで、例えば警告書が3枚出ると、レッドカードとして雇用契約の解除に至るなどといったことも、ある一定のルールに従えば行使可能です。この点は通常労働者を保護する性質の強いタイの労働法においては珍しく、会社側が保護される数少ないケースともなりえますが、一方で厳格な運用が求められます。規定に定めた上で、運用ルール上も被雇用者に周知し、警告書を出すときも社内の誰もが内容がわかるように掲示することなどといった運用に従わなければいけません。なかなか心情的にやりにくい運用になっているため、簡単には発動しにくいルールでしょう。

自宅待機命令はそれほどありませんが、会社側としてもっとも考慮すべきは補償金なしの解雇でしょう。補償金は最終章にも出てきますし、他のトピックでも触れたとおり、通常の取り扱い上は被雇用者にとっては自主退職以外で退職する際の、退職金に近い扱いのものです。この章では賞罰という項目の中での定義でもあり、さすがに悪質な事例までも労働法は保護するものではないということで、会社に損害を与えた場合などには補償金なしで適用できることとして定められています。

ちなみに、無断欠勤で3日連続した場合もこの中に含まれております。実は当社でも、かつて採用してすぐに来なくなってしまったスタッフに適合したこともあります。簡単に解雇することが雇用者として難しい中では、数少ない合法的な解雇理由となっております。

 

解雇されたい従業員もいる!?タイの意外な退職事情

そして次は第9章 苦情の申告及び意見の提案です。
タイトルは重々しいのですが、これは内部通報制度でも何でもなく、単純に困った相談事があった場合や有益な提案のある場合は、直属の上司にまず相談して、さらにその上司が上長に必要に応じて相談しましょう。という割と平和的な内容のものです。
ある意味当たり前のことが書いてあるので、これ自体が問題になるケースは稀でしょう。

それよりも第10章 従業員としての身分の喪失のほうはしっかりと押さえておきたいところです。
従業員でなくなる定義となり、死亡は言わずもがなですが、辞職とは希望退職のことです。どの会社も通常30日以上前までの申告が多いので、現職の方をリクルーティングする場合は、入社できるのがだいたい1ヶ月先以上となるので、採用側は注意が必要です。応募側も規定をよくよく確認しておかないと、辞職を却下する根拠にもなりえますので同じく注意が必要です。

定年退職ですが、以前は公務員の55歳定年に合わせて55歳が多かったのですが、最近は法律も一部改定され60歳まで定めることができるようになりました。55歳は日本の感覚からは相当早い気がしますが、タイも高齢化社会に入ってきているので、就業年齢が徐々に伸びていくのだと思います。

解雇は文字どおり解雇ですが、実は上記の辞職の定義と運用上は区別が難しく、被雇用者が退職にあたって、国が補償する一定期間の労働補償手当のようなものがあるのですが、それを受給したいがために、あえて解雇にしてほしいと雇用側に依頼されることもあります。日本だと解雇となると履歴書上も汚れるイメージがありますが、ローカルスタッフにとってはそれよりも手当を受給できるほうが重要、というところがタイらしいところでもあります。

 

タイでは補償金の支払いを想定した事業拡大・移転・合併を!

そしていよいよ最後の章、第11章 従業員としての身分を喪失した際の補償金まで辿り着きました。
日系企業の多くの会社に馴染みのない、法律で強制的に支払いが義務付けられている退職金のような扱いの内容です。もちろん本来の趣旨としては、文字通りこれまで出てきたような解雇時の補償金という性質なのですが、実際には後日の労使紛争を避けるために、勤続年数に応じた退職金の性質として払うことも多く、以前も記載のとおりなぜか監査法人もそういった実情も踏まえ、会計上の退職給付引当金として決算上取り込むことを要請することも多いという、摩訶不思議な補償金です。

内容は圧倒的に被雇用者のためのもので、つい数ヶ月前に改定されて、これまでの最大300日分の支給から400日分と大幅に支給額が増えました。もっとも、この400日分というのは20年以上の勤務者に対してなので、そうそうまだ該当者がいる会社はないでしょうが、上記の会計上の話にも関係しますが、会社側はある程度業容が大きくなるにつれ、業績上も考えておかないといけない問題でしょう。

また、こちらも改正されたばかりですが、事務所移転時には30日前までに被雇用者に通知義務があると同時に、移転による通勤などにより生活に重大な支障をきたす場合は、被雇用者側からの申し出があった場合、会社はこちらの解雇補償金を適用して支払う義務があります。これもなかなか会社側にとっては厳しい内容ですが、自宅から通えるという理由が転職や就職理由になりえるという背景からすると、仕方がないのかもしれません。
そうそう、この改正で合併などによる雇用主の変更に、被雇用者の同意が必要となるとなっているので、M&Aなどを検討している方はかなり注意が必要です。雇用契約を新たに結び直す必要があると読めるからです。

長らくこのテーマでのお付き合いありがとうございました。次回からはまた趣向を変えて、新しいテーマを息抜きコラムも交えながら続けていきますので、引き続き宜しくおねがいします。
(取り上げてほしいテーマなどもあれば、是非Iconicまでご連絡ください)

 
<本記事に関するお問い合わせはこちら>
Accounting Porter Co., Ltd.
Web:http://aporter.co.th/

タイ在住歴7年・累計100社以上のご相談に対応

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Accounting Porter Co., Ltd.にてManaging Directorを勤めています。弊社は日本からの進出や会計サービス全般をタイ国で提供して6年経つ会計事務所です。代表である私が日本で2社の上場会社のCFO通算6年の経験を活かして親身なサービスを提供できるよう心がけております。 これまで累計100社以上のお客様からご相談いただいた様々な実例もあり、本コラムではそんな実例の中からタイで就業するあるいは就業を想定した方向けに駐在員、現地採用の方を問わずお役に立てる情報をお届けしようと思います。 内容としては身近な給与などの取扱いから、経理処理、はたまたそれらをひっくるめたタイの日系企業で身近に起きたことなど雑感的なところも交えながら、気軽に読めるようなトーンで展開していきますのでどうぞよろしくおねがいします。

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