【連載③】税務調査の実例から見る給与負担按分とは~タイの経理現場から~

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本シリーズではこれまで、タイにおける日本人駐在員の給与取り扱いのキーとなる源泉処理とグロスアップ、それから所得の合算についてご案内してきました。
今回は給与負担按分について、当局による税務調査の実例も交えて解説したいと思います。

 

給与負担按分とは

給与負担按分のここで言う「按分」の帰属先とは、親会社である日本法人と、関係会社や子会社であるタイ現地法人と定義します。駐在員の給与という費用負担を、日本側にするかタイ側にするか、法人税の観点から見た税金の取り扱いが今回のテーマになります。

実際の経理処理場では、個人所得税の対応に問題がなくても、法人税に関して税務調査で指摘を受けるケースがあり、会社がリスクを追う場面も多々あります。本質的には各国の徴税権奪い合いのようなところもありますが、こういった小難しい話はさておき、いくつかの実例を踏まえて想定した数字を基に説明します。

 

調整金の扱いは「収益性」か、「損金性」か?

【事例1:日本法人が出向負担金等の形で負担するケース】
◎駐在員Aさんの給与(支給額面で想定)
・タイ法人から直接支給する給与額:200,000バーツ
・日本法人から直接支給する給与額:100,000バーツ(日本所属による社会保険や留守宅手当等)
・賞与分は上記に毎月按分の上、本人に支給
・日本法人からタイ法人に対して支払う負担額:50,000バーツ

◎考え方の前提
・額面で300,000バーツという金額を所与のものとし、そこからタイ法人の事業内容や事業規模、経済格差的なものを考慮し、タイ法人で負担すべき比率を日本:タイ=5:5とする。それを元に額面300,000バーツをこの比率で調整するとそれぞれ150,000バーツとなり、タイ法人が当初負担している200,000バーツは負担超過しているため、差額の50,000バーツを日本法人からタイ法人に支払い負担するというもの。

◎処理方法
・タイ法人から日本法人へ出向負担金という名目で請求書を発行し、経理処理上は給与の戻入で対応。
・給与としての取り扱いになることから上記にはタイ側で非課税処理(VAT負担なし)。

 
一見これらは何の問題もない処理に見えますが、実際には税務署から指摘を受け、追徴対象もしくは繰越損失の取り崩しという審判を受けた事例です。指摘内容は下記のとおりです。

・日本人の給与としてタイ法人が負担する金額は外観上はあくまでも300,000バーツであり過大である。給与として日本法人と調整している分は単なる調整金であるため収益性のあるものとして取り扱う。よって調整金相当の50,000バーツについては損金性(税務処理場費用にできること。会計上は費用になっても税務上費用にならないものがあるため、税務用語として区別して使われている)を認めない。
給与費用精算時の非課税処理に基づいて、受け入れ側であるタイ法人ではVAT計上をしていないが、本来は上記のとおり損金性のものではなく、収益性のものとなるため、VAT課税取引として認識すべきである。

このケースは、過年度までの累積分として過去3年分が否認されたために、該当分の税務上の累積損失の取り崩しという判断を受けてしまったのです。さすがにVATは重い負担になると判断したのか、あるいは半年近くに渡る税務当局との交渉という粘りもあってか、そこは免れましたが、いずれにせよ会社側にはなかなか受け入れがたい結果でした。

(ちなみにタイの税法上、最終的には税務調査官の判断に拠るところが権限として明記されているため、最終的な決定には従わざるを得ません。制度上は不服申立ても可能ですが、外資系企業では勝ち目はないと思われます。)

 
以降の取り扱いとしては、負担比率と同じ額になるように、本人に直接支給する額を一致させて処理することになりました。日本からの補填という形の処理自体がなくなるからです。この場合、タイ当地での生活コストなど、個人の責任で対応してもらう必要はありますが、背に腹は変えられません。

もうひとつ付け加えると、このケースでは個人所得税は日本から支給されている分も合算して、毎月グロスアップして納付していたにも関わらず、上記のような指摘を受けました。しかし、今回対応した税務当局は法人部門であって個人所得税部門とは違うため、そうした忖度は一切しないとのことでした。

 

負担額を「損金性あり」と認識させるテクニック

もう1件、上記とは本質的には違うものの、似たような事例をご紹介します。

【事例2:日本法人が情報提供料等の形で負担するケース】
◎駐在員Bさんの給与
・タイ法人から直接支給する給与額:50,000バーツ
・日本法人から直接支給する給与額:150,000バーツ(日本所属による社会保険や留守宅手当等)
・賞与分は別途支払い月に日本でまとめて支給
・日本法人からタイ法人に対して支払う情報提供料:50,000バーツ

◎考え方の前提
・額面で50,000バーツという日本人がタイで受け取るべき最低限の金額(通達等により国籍によって異なる)をタイで本人に支給。それとは別途、日本においても見合い分を支給。但し、タイ法人の事業内容や事業規模を考慮し、タイ法人で負担すべき金額を少しでも軽減させる結果になるよう、別途情報提供を目的とする契約を日本とタイの法人間で締結し、50,000バーツを日本法人からタイ法人に支払い負担。結果的に日本人の給与負担分と相殺効果があるというもの。

◎処理方法
・タイ法人から日本法人へ、契約ベースにて情報提供料の名目で請求書を発行し、経理処理上は収益計上する。
・始めから収益項目としての取扱になることから、上記にはタイ側で課税処理(VAT負担あり)。

タイ法人における給与負担額もさることながら、タイ法人が軌道にのって安定的に利益が出るまでは、法人全体の負担額を抑えたいというよくあるケースです。しかし、何事も行き過ぎると脱税行為にも捉えられかねないため、実態のある名目にしつつ、金額もほどほどにしておくべきでしょう。

情報提供料というのはまだギリギリのところですが、それでもタイ法人からしかるべき日本法人への役務提供の証票(経理・税務上、帳簿の裏付けとなる元の書類のこと)として、どんな情報を提供したか等の議事録やメモ、提供したレポートは残しておいた方が良いでしょう。一般的にはタイの市場レポート、同業他社の動向などといった営業上知っていておかしくない範囲になるため、金額的に大きくする項目ではないというのがミソです。

上記はどんな項目にせよ、税務当局からすれば売上に直接関係のない費用は損金性なしとされるリスクがあるため、やはり留意は必要です。
ちなみに、こちらのケースも当然ながら、個人所得税はタイの居住者として、日本支給分と合算してタイにて納付していることは言うまでもありません。

 
以上、給与負担按分について、日本法人がタイ法人に対して負担するという2つの事例を取り上げました。次回はその逆で、タイ法人が日本法人に対して負担する事例をご紹介します。

<本記事に関するお問い合わせはこちら>
Accounting Porter Co., Ltd.
Web:http://aporter.co.th/

但野和博

ICONIC

Accounting Porter Co., Ltd.にてManaging Directorを勤めています。弊社は日本からの進出や会計サービス全般をタイ国で提供して6年経つ会計事務所です。代表である私が日本で2社の上場会社のCFO通算6年の経験を活かして親身なサービスを提供できるよう心がけております。 これまで累計100社以上のお客様からご相談いただいた様々な実例もあり、本コラムではそんな実例の中からタイで就業するあるいは就業を想定した方向けに駐在員、現地採用の方を問わずお役に立てる情報をお届けしようと思います。 内容としては身近な給与などの取扱いから、経理処理、はたまたそれらをひっくるめたタイの日系企業で身近に起きたことなど雑感的なところも交えながら、気軽に読めるようなトーンで展開していきますのでどうぞよろしくおねがいします。

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