【連載④】日本人の駐在員・現地採用者の給与の取り扱いについて~タイの経理現場から~

前回までのところで、給与の取扱のキーワードの最後のキーワードである給与負担按分について、日本法人がタイ法人分を負担するという事例として2つ取り上げました。今回はその逆としてタイ法人が日本法人分を負担するという観点でご案内したいと思います。

 

負担按分が発生する前提を理解

さて、いきなり本題に入る前にそもそもこのどちらがどちらかの分を負担するという考え方の前提を整理したほうが頭に入るかもしれないので、ここで少し整理してみます。
なぜ負担按分が発生するのかというところで言うと、駐在員の身分が日本法人に籍を置きながらも現地法人で労働役務を提供していることにより、日本とタイの両国から給料が出されているという事情があるためです。

但し、よく混同しがちにもなりますが、これまでのキーワードで解説してきた個人所得税の算出上は全世界所得が原則なので、どちらからどれだけ給与が出ていようが、所得税の計算上は負担按分という概念はありません。あくまでも法人の経理・税務上どちらの法人にどれだけ負担させるかという話であることもまず頭に入れておいたほうが良いでしょう。

 

税務調査上の指摘ポイントはタイ・日本で異なる

究極的には各国の税源の奪い合いという大きなフレームの中で、日本とタイの間での税務事情や各社個別の事情なども勘案しながら決めていくことになるのが、この負担按分を決めるときの要諦と言えるでしょう。

例えば過去の日本での税務調査で海外駐在員の給与として本社で負担している額が過度に多いと指摘を受け否認されたことがあるため、タイ法人になるべく負担してもらうなどといったケースもあれば、前回の事例にもあったようなタイ法人がまだ立ち上がり時期で人件費負担を少しでも少なくしたいなどといった事情もあり、様々なケースがあるはずです。

そのような各社各様の事情の中で、適正な負担按分をどのようにするかということが、特に税務上の取扱い上重要になってきます。もちろんそれだけでなく、現地駐在員で責任者のポジションの方などは現地法人の利益などにも直結するところでもあり、本社と利益相反で対立軸にもなるトピックとしてなかなかセンシティブなところでもあるので理解しておいたほうが良いのは言うまでもありません。

 

所得税納付のタイミングと金額に注意

前置きが長くなりましたが、ここでようやくタイ法人が日本法人分を負担するという事例を紹介していくことにします。

【事例3:タイ法人が日本の厚生年金分や所得税のグロスアップ負担分などを負担するケース】
◎駐在員Aさんの給与(支給額面で想定)
・タイ法人から直接支給する給与額:100,000バーツ
・日本法人から直接支給する給与額:150,000円(日本所属による社会保険や留守宅手当等)
・賞与分は6月と12月に本人の日本口座に円建てで支給
・タイ法人から日本法人に対して支払う負担額:年間で300,000バーツ

◎考え方の前提
・額面でタイで支給されている100,000バーツに対しての所得税のみを毎月タイで納付し、タイ支給分のみをタイ法人で給与費用として計上。日本支給分は日本法人で駐在員に対する福利厚生扱いとして費用処理。但し、グロスアップして増加した所得税分300,000バーツについては日本法人がタイ法人に請求するというもの。

◎処理方法
・日本で支給されている150,000円と賞与として受け取る日本円分の所得に対する所得税300,000バーツはタイにおける年度末の個人所得税の確定申告時にまとめて日本法人から本人口座に送金し本人がまとめて納付することで対応。

上記の事例は前回の2つの事例よりも一般的なものとして、多くの日系企業が採用しています。日本支給分の所得税を月単位か年単位かの納付でタイミングが異なることもあり、上記は話をシンプルにするために年単位に想定していますが法律上はどちらにしないといけないとまでは規定されておらず会社の任意選択となっているのが実態です。

この事例で当社が経験したタイ側での税務調査上指摘を受けたのは、担当官の裁量で月単位で納付してほしいと言われたことはありましたが、強制ではなく推奨という形で処罰の対象ではありませんでした。但し、企業会計上適正な期間損益にこだわるのであればもちろんグロスアップ計算したもので毎月納付し、計上していくほうが良いでしょう。

 
その他としては下記に留意しておくと良いです。 
・日本の税務上の観点から指摘を受けやすいのは、過度に日本法人が負担しすぎると関連会社に対する利益供与等で否認を受けることがあります。
・賞与分も忘れずに合算所得として算出する必要があることと、赴任時と帰任時は賞与対象期間の赴任期間に応じて算出する。
・帰任時には中間申告のような形で個人所得税として帰任前までにタイで納付を完了しておく必要がある。タイ側では年度末の個人確定申告書さえ申告納付すれば問題ないものの、日本の税法上の通達が出ており帰任後に日本側が負担する上記事例で言うところの300,000バーツ分については否認される可能性がある(但し、上記事例ではその分はタイ法人に最終的に負担請求しているので免れると思われる)。

 
いかがでしたでしょうか?タイに限らず、上記のように精算されている日系企業は実際多いと感じます。
駐在員給与についてはセンシティブなところでもあるので、これまでのトピックワードを元に日本側の人事部門の方も含めてやりとりを蜜にすることがかなり重要です。最初の制度設計が大きいのですが、海外進出が初めてのクライアントさんなどで不慣れだとどうしても後々問題になること自体を想定されていないため処理に問題のある場合がありますのでぜひ専門家に相談してみてください。

さて、これまでトピックワードを中心に日本人の給与の取扱について事例なども交えながらご紹介してきましたが、タイトルにもあるとおり駐在員・現地採用者という観点からの考察を次回は展開したいと思います。これまでのトピックですと主に駐在員の取扱がどちらかというと中心でしたので、次回は現地採用されている日本人にスポットを当てた内容をご紹介していきます。

 
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Web:http://aporter.co.th/

タイ在住歴8年・累計100社以上のご相談に対応

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Accounting Porter Co., Ltd.にてManaging Directorを勤めています。弊社は日本からの進出や会計サービス全般をタイ国で提供して6年経つ会計事務所です。代表である私が日本で2社の上場会社のCFO通算6年の経験を活かして親身なサービスを提供できるよう心がけております。 これまで累計100社以上のお客様からご相談いただいた様々な実例もあり、本コラムではそんな実例の中からタイで就業するあるいは就業を想定した方向けに駐在員、現地採用の方を問わずお役に立てる情報をお届けしようと思います。 内容としては身近な給与などの取扱いから、経理処理、はたまたそれらをひっくるめたタイの日系企業で身近に起きたことなど雑感的なところも交えながら、気軽に読めるようなトーンで展開していきますのでどうぞよろしくおねがいします。

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