【タイ労働法コラム】第12回:普通とは違う?特別な解雇補償金について

GVA法律事務所・タイオフィス代表の藤江です。本コラムでは、タイの労務管理について、日本との違いを踏まえた上で、法的に解説していきます。今回は少し耳慣れない用語である「特別解雇補償金」という制度について解説します。

 

特別解雇補償金とは?

本コラムでは、これまでも度々、タイの労務では「解雇補償金」が必要な場合があると述べてきました。解雇補償金とは、「使用者が、労働者に対し支給することに合意しているその他の金銭とは別に、解雇に際し、使用者が労働者に支払う金銭」と定義されていて、会社が従業員を解雇するときに支払わなければならない補償金です(詳しくは「第9回:タイの退職金・解雇補償金に関するルール」参照)。

これに対して「特別解雇補償金」は、「この法律(=労働者保護法)に定める特別な理由による雇用契約の終了に際し、使用者が労働者に支払う金銭」とだけ定義されています。つまり、労働者保護法が定められた場合にのみ、特別に支払う補償金であることがわかります。特別解雇補償金は、上で述べた解雇補償金は異なる種類のものです。

 

特別解雇補償金を支払うべき場合とは?

労働者保護法上、特別解雇補償金を支払うべきとされている場合は、2つあります。1つ目が①事業所移転に伴って従業員が退職する場合、2つ目が②技術革新に伴って従業員が退職する場合です。

まず、①事業所移転に伴って従業員が退職する場合について説明します。労働者保護法120条によれば、事業所を移転させる場合、会社は、移転日の30日以上前に従業員に通知しなればならないとされています。そして、この通知を受領した従業員は、事業所の移転によって、自ら又は自らの家族の生活に重大な影響を生じる場合、通知の受領日から30日以内に自ら雇用契約を終了する権利があるとされます。

特別解雇補償金が要求されるのは、この権利によって従業員が退職する場合で、その金額は「解雇補償金以上の金額」であると定められています。また、これとは別に、会社が従業員に対する通知を怠った場合も、特別解雇補償金の支払い義務があるとされています。この通知を怠った事による特別解雇補償金の金額は、「賃金30日分」であると定められています(2種類の特別解雇補償金が定められていることに注意して下さい)。

この場面では、事業所の移転を決めたのは会社側ですが、退職を申し出でいるのは従業員側です。会社側から雇用を終了させているわけではないので、解雇には当たらず、解雇補償金は支払われません。しかし、移転によって生活に支障が出るから退職せざるを得ないという状況が想定されていますから、これに代わって、特別解雇補償金が付与されることになっているわけです。

なお、この会社→従業員への通知については、2019年5月から施行された法改正によって少しルールが明確化されています。改正法では、この事前通知について、事業所の見えやすい場所で、いつ、どこに移転するのかという情報を含む通知を行わなければならない、という規定が追加されました。また、従業員→会社への通知についてもルールが追加され、退職したい従業員側は、移転の通知日から30日以内に、会社に対して継続雇用を希望しない旨を通知しなければならない、という規定が追加されました(詳しくは「第6回:労働者保護法の主な改正ポイント」参照)

 

技術革新に伴う退職の場合とは?

次に、②技術革新に伴って従業員が退職する場合について説明します。労働者保護法121条によれば、機械の導入、機械又は技術の変更に伴って、会社が業務プロセスを改善したことによって、従業員数を減らす必要がある場合、会社は、雇用終了日の60日前に、従業員と労働監督官に対して、雇用終了日、理由、対象となる従業員の氏名を通知しなければならないとされています。

この事前通知を行わなかった場合、会社は、最終賃金の60日分の賃金額に相当する額の特別解雇補償金を支払わなければなりません(通知を行わなかった場合だけでなく、通知が遅れた場合も同様)。なお、この事前通知は、従業員に対するものだけではなく、労働監督官に対しても行わなければならない点にも注意して下さい。

さらに、勤続年数が6年以上の従業員との雇用を上記の理由で終了させる場合、会社は、通常の解雇補償金に加えて、勤続年数1年について最終賃金の15日分(=半月分)の賃金に相当する額の特別解雇補償金を支払わなければならないとされています。ここでも2種類の特別解雇補償金が定められていることに注意して下さい。

ここで従業員を退職させる直接の理由は、業務プロセスにおける技術革新であって、従業員の行為に非があるというわけではありません。そのため、労働者保護法は、退職する従業員に対して特別な手当を定めているというわけです。

 

特別解雇補償金は特殊なケースではない

今回は、特別解雇補償金が要求される2つのケースを解説しましたが、事業所の移転や業務プロセス改善による人員削減は、決して特殊なケースというわけではありません。むしろどんな企業にも起こりうる、身近なものとして認識しておく必要があります。

また、いずれの場面でも、従業員や労働監督官への通知など、手続上の義務が定められていますので、事務所移転や、業務プロセス改善を計画する場合には、円滑な進行ができるよう、付随して生じる通知や特別解雇補償金についても併せてご検討下さい。

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GVA法律事務所パートナー
タイオフィス代表・日本国弁護士:藤江 大輔
Contact: info@gvathai.com
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日本国弁護士

日本国弁護士

ICONIC

09年京都大学法学部卒業。11年に京都大学法科大学院を修了後、同年司法試験に合格。司法研修後、GVA法律事務所に入所し、15年には教育系スタートアップ企業の執行役員に就任。16年にGVA法律事務所パートナーに就任し、現在は同所タイオフィスの代表を務める。

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