【タイ労働法コラム】第4回:タイにおける振休・代休

記事をシェアする

GVA法律事務所・タイオフィス代表の藤江です。
本コラムでは、タイの労務管理について日本との違いを踏まえた上で、法的に解説していきます。第4回目の今回は、日本では多用されている振休・代休制度について取り上げたいと思います。

 

1. 日本における振休・代休制度

日本では多くの企業が振休・代休の制度を活用していますが、振休と代休の違いや手続きについて正確に理解しないまま運用されているケースも多いため、まずは日本における振休・代休制度について確認したいと思います。

振替休日とは、事前に休日と定められていた日を労働日とし、そのかわりに他の労働日を休日とすることをいいます。これにより、休日と定められた日が「労働日」となり、振り替えられた日が「休日」となります。一方で代休とは、もともと休日と定められていた日に労働が行われた場合に、事後的にその代償として、以後の特定の「労働日」の労働を免除して「休日」とすることをいいます。

振休と代休の違いは、以下の2点です。

1点目は、代替の休日を指定するタイミングです。
振休の場合は、労働者が休日労働をする前に、会社が、あらかじめ別の日(本来の労働日)を休日にして、本来の休日を労働日とする旨を指定する必要があります。このように、事前に労働日と休日を振り替えて(交換して)おくことから、振替休日と呼びます。一方で代休は、労働者が休日労働をした後に、休日に働いてくれた分、別の日(本来の労働日)を休ませるというものです。したがって、休日労働後に会社が別の労働日を休日にする旨を指定して休ませたとしても、振休にはなりません。

2点目は、休日労働割増賃金の有無です。
振休の場合は、あらかじめ本来の休日と労働日を交換しておくので、もともと休日であった日に労働したとしても、その日はすでに労働日となっているため、休日労働には当たりません。したがって、休日労働割増賃金は発生しません。ただし、本来休日であった日に労働した結果、週の総労働時間が40時間を超えた場合には、その超えた部分につき時間外労働割増賃金が発生する点には注意が必要です。
一方で代休の場合は、本来の休日に労働をした後に、事後的に別の日を休日として休ませるだけなので、休日労働を行った事実は変わりません。したがって、休日労働割増賃金が発生します。

このような振休や代休制度を活用することで、会社は月の賃金額の増加による負担を抑制することができます。すなわち、いずれも本来の休日に労働させた分、その日の労働に対する賃金は増えますが、他の日を休ませることによって、休ませた日の賃金の支払義務を免れることができるため、プラマイゼロ(又は休日労働割増賃金分のみの増額)とすることができるのです。

 

2. タイにおける振休・代休制度

では、タイでも同様の制度があるのでしょうか。実はタイでは、振替休日や代休といった制度はありません。タイは日本と違って、労働日だけでなく休日に対しても賃金を支払うという考え方が基本にあります(労働者保護法第56条第1号、第2号)。したがって、本来の休日に労働させた分の賃金は増加しますが、代わりに他の日を休ませたとしても、休ませた日の賃金額は減少しません。したがって、本来の休日に労働させた場合には、休日労働として休日労働割増賃金の支払義務が発生し、他の労働日に休ませることによって、プラマイゼロとすることはできません。

ただし、ホテル事業や運輸業など省令で指定される一定の業種に限り、祝祭日に労働させる必要があるときは、休日労働を支払うか、別の日に振替休日を付与するかを労働者との間で合意することができるとされています(労働者保護法第29条第3項)。

また、本来の休日に労働させた分の賃金の増加を避けるという点に限れば、労働者との間で、特定の週の週休日を別の日にする旨を合意することで、休日労働ではなく通常の労働日の労働とすることは可能と考えられます。ただし、週休日と週休日の間は6日以下でなければならないため(労働者保護法第28条第1項)、その後にまた固定で週休日を定める場合には、もう1日休日を付与しなければならず、やや迂遠となってしまう点に注意が必要です。

例えば、毎週日曜を週休日としている会社において、従業員と合意することにより、ある週の週休日を土曜日とした場合、その週の日曜に労働しても休日労働にはなりません。ただし、週休日とした土曜日から6日以内に次の週休日を付与する必要があるため、次の週の月曜も週休日とし、さらに同じ週の日曜日を週休日として、その後は毎週日曜日を週休日としていくといった形になります。この場合、週休日が1日増えることになりますが、その分の給与額が減るわけではありませんが、休日労働による月給額の増加は防ぐことができます。

 

3. 最後に

このように、タイでは振替休日・代休といった制度がそもそも労働者保護法上設けられていないため、休日労働をさせる場合の休日労働割増賃金の発生による賃金増加を防ぐことは原則できないという点に注意する必要があります。この点を踏まえた上で、どのように週休日を設定するか等について、十分に検討していただければと思います。

 
 
<本記事に関するお問い合わせはこちら>

GVA法律事務所パートナー
タイオフィス代表・日本国弁護士:藤江 大輔
Contact: info@gvathai.com
URL: https://gvalaw.jp/global/3361

日本国弁護士

日本国弁護士

ICONIC

09年京都大学法学部卒業。11年に京都大学法科大学院を修了後、同年司法試験に合格。司法研修後、GVA法律事務所に入所し、15年には教育系スタートアップ企業の執行役員に就任。16年にGVA法律事務所パートナーに就任し、現在は同所タイオフィスの代表を務める。

記事をシェアする

関連する記事