【タイ労働法コラム】第6回:労働者保護法の主な改正ポイント

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GVA法律事務所・タイオフィス代表の藤江です。
本コラムでは、タイの労務管理について、日本との違いを踏まえた上で、法的に解説していきます。今年の5月5日に、改正労働者保護法が施行されました。そこで、前回と今回の2回に分けて、改正労働者保護法の主な改正ポイントについて取り上げたいと思います。

1. 改正の趣旨

まずは、改正の趣旨を再度確認したいと思います。
今回の改正は、既存の労働者保護法の規定の中で現代の労働環境に即していない部分の改定、また、国際標準に合わせて労働者保護のレベルをさらに引き上げることを目的として行われました。労働者保護のレベルを高めるということは、企業側にとっては規制が厳しくなることを意味しています。
もともとタイの労働者保護法は、日本の労働法と同じように、労働者保護の観点から企業側に厳格な規制の遵守を求める傾向にありましたが、今回の改正により、いくつかの点に関してさらに企業側に求められる水準が引き上げられましたので、改正後の法規制に従った労務管理を行えるよう、よく理解しておく必要があります。

 

2. 改正の主なポイント

今回の改正の中でも、特に重要な点をいくつかご紹介します。
前回は、日常の労務管理の中でも特に影響が大きいBusiness Leave、Maternity Leave、解雇補償金について取り上げました。

 
(1) 解雇時の賃金支払時期
今回、雇用主による解雇時の賃金支払時期についても改正されています。
通常、雇用主が従業員を解雇するにあたっては、懲戒解雇に該当しない限り、17条2項または3項に基づき、一賃金期間以上前に通知するか、または一賃金期間前に通知した場合の解雇予定日までに支払うべき賃金相当額(解雇予告手当)を支払う必要があります。
そして、その賃金の支払時期については、解雇日から3日以内に支払わなければならないという規定が定められています(70条2項)。

しかし、一賃金期間以上前の通知を行って解雇する場合と、解雇予告手当を支払って事前通知なく解雇する場合の双方とも、解雇日から3日以内に支払えばいいのかが明確ではありませんでした。
今回の改正により、雇用主が17条2項に基づく事前通知なく従業員を解雇する場合には、解雇言渡しの日から17条2項に基づく本来の解雇の効力発生日までの期間に対する賃金に相当する金額を、解雇言渡日に支払わなければならない旨の規定が追加されました(17/1条)。

これにより、以下の通り、賃金の支払時期が明確化されました。
一賃金期間以上前の通知を行う場合(17条2項の場合):
解雇日から3日以内に支払わなければならない(70条2項)

解雇予告手当を支払って事前通知なく従業員を解雇する場合(17条3項の場合):
解雇言渡日に支払わなければならない(17/1条)

 
(2) 雇用主の変更(M&A等)の手続き
M&A等により雇用主に変更が生じる場合について、LPAでは、従業員は前の雇用主に対して有していたあらゆる権利を継続して有し、また新たな雇用主は、従業員に対し前の雇用主が有していた権利および義務を全て引き継がなければならないと規定されています(13条)。

改正法では、上記に加え、新たな雇用主は、従業員を継続して雇用するためには、従業員から同意を得なければならない旨が追加されました。そして、同意が得られない場合には、従前の雇用主による解雇となりますので、118条に従い、解雇補償金の支払義務を負うこととなります。

したがって、M&A等を行う場合には、買収手続きにおいて、買手が従業員から同意を取得することができるように対応しておく必要があります。

 
(3) 事業所の移転に伴う義務と手続き
雇用主が事業所を移転する場合について、従業員やその家族の通常の生活に重要な影響が及ぶ場合、雇用主は、事業所移転の30日以上前に労働者に通知する義務が課されています。
改正法では、この事前通知の内容及び方法について、当該事業所の見えやすい場所において、いつ、どこに移転するのかという情報を含む通知を行わなければならないという規定が追加されました(120条1項)。

また、移転後も引き続き雇用されることを希望しない従業員について、移転の通知日または移転日(雇用主が通知を行わなかった場合)から30日以内に、雇用主に対し、その旨通知すべき義務が追加されました(120条3項)。この場合、当該従業員は移転日をもって雇用を終了させることができ、特別解雇補償金を受け取ることができることとなります。

さらに、上記の場合に、雇用主が当該従業員の雇用を希望しない理由について異議がある場合、雇用主側から労働福祉委員会に異議を申し立てることができる旨追加されました。これまでは、雇用主が特別解雇補償金等を支払わない場合に、従業員側が申し立てることができるのみでしたが、今回の改正で、雇用主側からの申立も可能となりました。労働福祉委員会の審査により、従業員が特別解雇補償金等を受け取る権利を有しないと判断された場合、雇用主は、特別解雇補償金等の支払い義務を免れることとなります。

 

3. 最後に

上記3点は、日頃の労務管理に直結する点ではありませんが、M&Aによる雇用主の変更やオフィス移転の場合の手続きなど、企業をある程度長期的に経営していく中で十分に生じる可能性のある場面についての義務内容や手続きにつき改正がなされていますので、就業規則の改定など、新法にしっかりと対応していく必要があります。

 
 
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GVA法律事務所パートナー
タイオフィス代表・日本国弁護士:藤江 大輔
Contact: info@gvathai.com
URL: https://gvalaw.jp/global/3361

日本国弁護士

日本国弁護士

ICONIC

09年京都大学法学部卒業。11年に京都大学法科大学院を修了後、同年司法試験に合格。司法研修後、GVA法律事務所に入所し、15年には教育系スタートアップ企業の執行役員に就任。16年にGVA法律事務所パートナーに就任し、現在は同所タイオフィスの代表を務める。

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