【タイ労働法コラム】第8回:タイの異動・配置転換に関するルール

GVA法律事務所・タイオフィス代表の藤江です。
本コラムでは、タイの労務管理について、日本との違いを踏まえた上で、法的に解説していきます。今回はタイの就業場所変更や、配置転換に関するルールについて解説します。

タイでは会社の移転先が遠いと、解雇補償金の支払いが必要?

最初に、会社自体の所在地が変わることに伴う就業場所変更について説明しておきます。会社運営において移転はつきものですが、タイの場合には、法律上、従業員に対する特別な配慮が必要になる場合があります。

具体的には、「事業所の移転によって従業員またはその家族の生活に重大な影響が生じる場合、会社は、移転日の30日前までにその旨を通知しなければならず、従業員はその通知を受けた日から30日以内に退職する権利を有する」とされおり、場合によっては従業員が退職してしまう可能性があるのです(労働者保護法120条)。しかも、この場合は、従業員が自ら退職を志願したとしても、法定の解雇補償金の支払いが必要になるとされています。つまり、この退職は、実質的には解雇と同じ扱いになるわけです。

「従業員またはその家族の生活に重大な影響が生じる場合」とは、端的に言えば、家からの距離が遠くなってしまって、通勤に大きな支障が出る場合と考えてまず差し支えないでしょう。もっとも、わずかな影響ではなく、「重大な」という限定がかけられていることは大事なポイントで、裁判例には、旧事務所から新事務所まで約10km 程度の距離で会社が移転した場合に、従業員や家族に与える影響が重大ではないとして、解雇補償金支払の請求を認めなかったものがあります。

 

タイでの労働条件の変更は、同意を取るのが原則

次に、会社の所在地は変わらないものの、会社の都合で従業員を異動させる場合について説明します。タイは、従業員の待遇を不利益に変更する場合は、従業員の個別の同意が必要になるのが原則です。そして、ここで言う「待遇の変更」には、福利厚生の変更も含まれると解され、給料減額などの場面に限定されないことをまず頭に入れておきましょう。

では、例えば、チェーン展開している小売業で、従業員に対して、勤務店舗の変更を命じることはできるのでしょうか(就業場所の変更)。また、営業部の人員として採用した従業員に対して、適性を勘案して、全く別の部署、例えば人事部への異動を命じることはできるのでしょうか(職務内容の変更)。さらに、仮に従業員がこのような命令を拒んだ場合には、会社はどのような措置を講じることができるのでしょうか?

 

異動命令は可。ただし契約書には明記を

これに対する見解は一様ではありませんが、過去の最高裁の裁判例では、①職務命令の理由が正当なものであって、②異動後の職位が現在を下回らないものであり、かつ③異動後の給与・福利厚生が現在を下回らないものである場合には、会社は、従業員に対する異動を命じることができ、従業員がこれを拒否した場合には解雇等の措置をとることが出来るとされています。

上記の考え方は、複数の裁判例で踏襲されています。それでも、会社としては、上記の3要件を満たせばいつでも異動を命じられると考えるのは、ややリスクのある考え方だと理解しておくべきでしょう。会社と従業員の関係は、雇用契約によって規定されるのが原則です。異動をスムーズに実行し、トラブルを防止する観点からは、雇用契約書または就業規則において、会社が異動を命じる場合があることを明記しておくことをお勧めします。

 
 
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タイオフィス代表・日本国弁護士:藤江 大輔
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日本国弁護士

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ICONIC

09年京都大学法学部卒業。11年に京都大学法科大学院を修了後、同年司法試験に合格。司法研修後、GVA法律事務所に入所し、15年には教育系スタートアップ企業の執行役員に就任。16年にGVA法律事務所パートナーに就任し、現在は同所タイオフィスの代表を務める。

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