2019年ベトナム知的財産法改正案の重要改正ポイントについて

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1. 本改正の目的

今年の4月、知的財産法についての改正案が公開されました。今回の改正は、今年の1月に環太平洋連携協定(TPP11、CPTPP。以下、「CPTPP」といいます)が発行したことを受けて、現行の知的財産法とCPTPPの内容の整合性を高めることを目的としています。

まだ改正案の段階ですので、今後修正される可能性もあること、施行日はまだ未定であることについてご留意ください。

 

2. 変更がなされた主な分野

今回の改正案で大きな変更が加えられているのは下記の3つの分野です。
・発明
・商標
・知的財産権の保護

以下、各分野ごとに順番に説明します。

 

3. 変更分野についての各論

 

発明

現行の知的財産法に比べて、発明の新規性の喪失に関する例外事由(以下、「例外事由」という場合があります)が拡充されています。
現行法の60条3項が修正され、4項が新たに追加されています。変更されている内容は以下の通りです。

1)現行法では、発明の新規性に関する例外事由は、
① 86条に規定する登録を受ける権利を有する者(以下、「登録権利者」といいます)の許可なしに他人に公開された場合
② 登録権利者により科学的提示の形態で公開された場合
③ 登録権利者によりベトナム国内博覧会又は公式若しくは公認の国際博覧会において提示された場合

となっていましたが、改正案では、登録権利者、又は登録権利者から直接的若しくは間接的に発明等に関する情報を入手した者により公開された場合も新規性を欠くとはみなされないとしています。

すなわち、登録権利者、又は登録権利者から情報を得たものによる発明の公開については全て新規性を欠くとはみなさないとすることによって、新規性の喪失に関する例外事由を拡充しています。また、現行法では、前記例外事由①~③に該当する場合には、6か月以内に発明出願登録を行わなければなりませんでしたが、改正案では、12か月の間発明出願登録を行うことができます。

2)また、改正案では同条に4項が追加され、公的機関が一般公開した登録申請若しくは保護証において公表された発明には適用されないとしています(後述のように同項には但書があります)。

 

商標

1)電子出願に関する規定の追加
商標登録の電子出願に関する規定が追加されました(89条3項)。もっとも、現行法下においても前記電子出願に関する規定こそないものの、既にオンライン電子出願システムが存在し、同システムは2017年から運用が開始されています。

2)商標使用権
①商標権使用の継続
136条2項が修正され、商標権者から商標使用権の移転を受けた者による商標の使用も商標権者の商標使用行為である、とみなされることになりました。この規定により、商標権者が5年間商標権を使用しなかったとしても、契約により商標権を使用する者があれば、商標権の消滅を免れることができます。

②第三者対抗要件
現行法においては、商標使用権移転契約を第三者に対抗する為には登録が必要されていましたが(現行法148条2項)、改正案では登録は不要とされました(改正案148条3項但書)。

 

知的財産の保護

1)濫用的訴権の行使に対する制裁
改正案では、198条に新たに4項と5項が追加されています。

①改正案4項
改正案の4項では、知的財産権に関する訴訟において、裁判所が被告による権利侵害がないと認めた場合、原告は被告に対して当該訴訟に要した弁護士費用の支払いを裁判所に求めることができるとされています。

②改正案5項
改正案の5項では、他人の知的財産に関する保護手続きの濫用的権利行使によって損害を被った組織・個人は、手続を濫用した者に対して、損害賠償請求を求めることができるとされています。

2)損害賠償請求額の算定方法
205条1項に新たな号が加えられ、損害賠償請求の算定方法として、法律の規定に基づくその他の計算方法を用いることができると明示されました。

 

4. 一覧表

前記の現行法と改正案の相違点について簡単な一覧表を作成しましたので、ご参照ください。なお、改正案89条3項(電子出願に関する規定)は、同項の定めが実務的に既に運用されているので、記載を省略しています。また、下記表内の訳文はあくまで参考訳ですので、正確な内容を把握したい場合は現行法・改正案ともに原文をご確認下さい。

PDFデータはこちらをご覧ください。
2019年ベトナム知的財産法改正案の重要改正ポイントについて


 

5. まとめ

 
現在ベトナムにおける知的財産権の保護は、中国等の国と比べてもかなり遅れた状況にあります。本件改正案は、CPTPPとの整合性を高めることを目的とするものですので、仮に改正案が施行されたとしても、ベトナムにおいてどの程度知的財産権の保護が促進されるかは不透明といわざるを得ません。もっとも、今後ベトナムが発展を続けるためには、知的財産権保護は避けて通れない課題です。本件改正案の発表を機に、知的財産権の保護に関する議論が進めば日系企業にとってはプラスになりますので、議論が深化していくことを期待します。

 
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日本国弁護士・ベトナム外国弁護士

日本国弁護士・ベトナム外国弁護士

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CAST LAW VIETNAM 代表、弁護士法人キャスト・パートナー。日本国弁護士(大阪弁護士会所属)、ベトナム外国弁護士。 2011年から弁護士法人キャストに参画し、2013年から中国上海、2014年からベトナムへ赴任。2015年より弁護士法人キャストホーチミン支店長、2017年より現職。ベトナムを拠点に、在ベトナム日系企業に対して進出法務、M&A、労務、知的財産、税関および不動産などの分野で幅広いサポートを行う。著書に『メコン諸国の不動産法』(大成出版社、2017年、共著)、『これからのベトナムビジネス』(東方通信社、2016年、共著)など。

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