【解説】ベトナムにおける外資によるM&Aの活況と注意点

記事をシェアする

昨今、日系企業を始めとする外資系企業のベトナム進出が加速するなかで、現地企業に対する「M&A(合弁・買収)」が活況を見せています。現地の資本獲得やライセンス取得などの課題を乗り越え、新たな市場を切り開く上で欠かせないM&Aですが、一方で、新規法人設立との違いや海外M&Aならではのメリット・デメリットを把握しておく必要があります。
本記事では、ベトナムにおけるM&Aの実態とともに、特に留意しておくべき点について、新規法人設立との違いを比較しながらお伝えします。

<目次>
① ベトナムにおける外国投資とM&A
② ベトナムにおける会社設立とM&A相談の実情
③ ベトナムでのM&Aで特に留意したい事項
(1) ベトナム側出資者との合弁企業にしたい場合でも、新規設立とすることが多い
(2) M&Aをする際はDDをしっかりと実施し、慎重な検討が必要となる
(3) M&Aが時間短縮になるとは限らない
(4) 合弁企業になる場合の合弁契約の重要性
④ おわりに

① ベトナムにおける外国投資とM&A

ベトナム計画投資省外国投資局によれば、ベトナムで2017年に認可された新規外国直接投資、追加の外国直接投資および外資によるベトナム企業への出資・株式取得の合計額は、総額358億8,380万ドル(約4兆円)で、前年から約44%の伸びを記録しました。外国投資が順調に伸びているベトナムへの国・ 地域別の投資元として、日本は2017年、韓国やシンガポールをおさえ4年ぶりに1位になり、投資総額は91億1,190万ドル、前年の約3.5倍となりました。

<2017年の外国直接投資額の上位国>

出典:FIA

外資によるベトナム企業への出資・株式取得は、新規投資金額・追加投資金額より少ないものの約62億ドルあり、日本からも約5億ドル弱が出資・株式取得の形態で投資がなされています。これは既存のベトナム企業に対する外国からの出資が、外国からの投資全体の20%近くあり、M&Aによる外国投資が非常に盛んになっていることを示しています。同外国投資局の発表によれば、M&Aによる外国投資額が2016年の約2倍になっているというデータもあります。

② ベトナムにおける会社設立とM&A相談の実情

ベトナムでは、外国企業が既存のベトナム企業のM&Aを実行する方法として、株式会社の株式または有限責任会社の出資持分の取得という方法を取るケースがほとんどです。資産譲渡の形式で詳細な契約が必要とされたり、手続きが煩雑だったりすることがありますし、ベトナムでの合併や会社分割は法的・税務的に非常に煩雑で、検討するものの選択されないケースが多いからです。
そのため、日本企業がベトナム進出を検討する場合も、現地法人を新規設立するか、既存の企業の株式・持分取得によるM&Aを行うかが検討されることになります。

<M&Aと新規設立のメリットとデメリット>

③ ベトナムでのM&Aで特に留意したい事項

このように、既存のベトナム企業を買収することで大きく成長している日系企業も多いのですが、その際には表に記載したメリット・デメリットのほか、以下の点にご注意ください。

(1) ベトナム側出資者との合弁企業にしたい場合でも、新規設立とすることが多い

上述のとおり既存企業をそのまま買収することで、既存の法務・税務上のリスクを引き継ぎます。一方で、新規に合弁会社を設立すれば、そのリスクはなくなります。ベトナム側と合弁企業を営みたい場合でも、新規に合弁会社を設立し、土地や設備などは現物出資をするということも可能です。

(2) M&Aをする際はDDをしっかりと実施し、慎重な検討が必要となる

ベトナムでは既存のローカル企業の管理が杜撰な場合も多いです。それらを日系が買収し外資企業となれば、税務調査やその他の当局側の管理が厳しくなる場面も多いため、リスクが顕在化しやすくなります。デュー・デリジェンス(DD)によって法務・会計・税務の調査をしっかりすることが必要です。

(3) M&Aが時間短縮になるとは限らない

M&Aを検討する企業からは、M&Aのほうがライセンスを取りやすい、事業開始のタイミングが早くなる、といった話を聞くことが多いです。例えば、ライセンスが一地域につき一つに限られている業種でM&Aでないとライセンスが取れない場合や、工場を買収して工場の建屋の建築期間を短縮したいという場合であれば、この理由も合理性があります。
もっとも、外資になる場合は、M&Aも新規設立もライセンスについての審査が入るため、ライセンス取得の難易度に大きな違いはありません。

また、以下に記載のとおり、M&Aは条件交渉やDDを慎重に行う分、一般的には新規設立よりもM&Aの方が完了までに時間を要することが多いです。

<M&A、新規設立に係る手続きに要する時間>

(4) 合弁企業になる場合の合弁契約の重要性

これはM&Aに限らず新規設立の場合も同様ですが、ベトナム側との合弁企業となる場合、現状の関係性は良好でも将来意見が分かれることや、事業がうまくいかず清算・撤退を考える場合もあります。また、将来的に技術だけを取得されたり、意思決定できずデッドロックとなったりするケースが散見されるため、合弁契約・定款を初期にしっかり作ることが非常に重要となります。事業開始を急ぎ過ぎる余り、この点がおろそかにならないよう注意が必要です。

④ おわりに

ベトナムへの投資拡大に伴い、M&Aという選択肢が重要になってきていることは確かです。ベトナムの人口は9000万人を超えてGDPも増加しており、これまでのように日本の親会社との取引が重要だったフェーズから、ベトナム市場を狙うフェーズにどんどん移行してきています。今後はベトナム企業の基盤を引き継いで、一緒に市場開拓していく場面もより増えるでしょう。できる限り進出時点でトラブルを回避し、ビジネスに集中できる環境を整えるため、今回述べたM&Aをする場合の注意事項も踏まえて検討する必要があります。

画像:全て筆者作成
<本記事に関するお問い合わせはこちら>
CAST LAW VIETNAM
Web:http://cast-group.biz/
Mail:info-v@cast-law.com

工藤拓人

ICONIC

CAST LAW VIETNAM 代表、弁護士法人キャスト・パートナー。日本国弁護士(大阪弁護士会所属)、ベトナム外国弁護士。 2011年から弁護士法人キャストに参画し、2013年から中国上海、2014年からベトナムへ赴任。2015年より弁護士法人キャストホーチミン支店長、2017年より現職。ベトナムを拠点に、在ベトナム日系企業に対して進出法務、M&A、労務、知的財産、税関および不動産などの分野で幅広いサポートを行う。著書に『メコン諸国の不動産法』(大成出版社、2017年、共著)、『これからのベトナムビジネス』(東方通信社、2016年、共著)など。

記事をシェアする

関連する記事