【ミャンマー法務ブログ】第20回:労働紛争解決法第2次改正法

第1.はじめに

2019年6月3日、労働紛争解決法第2次改正法(以下、「改正法」という。)が成立した。同法は労働紛争の解決方法や職場調整委員会などについて規定した重要な法律であり、労働者の定義や職場調整委員会の構成などの重要な点が改正されたため、本稿において解説を行う。

 

第2.定義の変更

「労働者」、「使用者」、「ストライキ」、「権利に関する紛争」などの定義について以下のとおり変更された。

労働者とは、自身の身体的及び知的能力を用いて作業をし、報酬を受け取る者をいう。さらに、仮採用者及び労働者、労働争議中に雇用関係が終了又は解雇された者も含む。ただし、政府役人、軍人、ミャンマー警察官及び国軍の統制下にある武装組織に所属する者は含まれない。この点、従来、労働者の定義においては「日雇労働者、短期労働者、農業労働者、家事労働者、政府職員、訓練生を含む経済活動又は生活のために労働を行う者」とされていたが、本改正により、更に幅広い者が対象に含まれることとなった。

使用者とは、事業における労働力を得る目的で労働者への賃金支払い義務を有する者をいう。企業がミャンマー会社法に基づき設立された場合、これは使用者の後見人、法廷代理人、委任代理人、事業を管理する指導者及び取締役を含む。

ストライキとは、一部又は全部の労働者又は関連する職場の労働組合の決定によって作業の停止、作業やその継続を集団で拒否すること、怠業、紛争により生じる社会的又は職業的問題に関連した生産又はサービスを低下させる意図をもって行う集団行動をいう。これは、労働者の生活又は健康に突然かつ重大な危害を加えると信じる合理的根拠がある場合に、職場を離脱する権利を含むものではない。
権利に関する紛争とは、労働法に含まれる使用者と労働者の権利に関する紛争をいう。

 

第3.期限

労働者、労働組織又は使用者が、職場調整委員会に対し、苦情を申立てた場合、職場調整委員会は申立を受領した日から公休日を除く5日以内に解決しなければならないとされていた。改正法により、これが7日以内に解決しなければならないと改正されたが、公休日を含むのか否かは明らかでない。

 

第4.調停機関における調停

職場調整委員会によって解決されない場合には、苦情を調停機関に申し立てることができるとされていた。これが以下のように改正された。
(a) 紛争が解決された場合、労働者及び使用者は集団契約を締結し、その集団契約を調停機関に通知しなければならない。
(b) 調停機関での調停を望む場合には、労働者又は使用者は、調停機関に対し、当該紛争について調停を申し立てることができる。
(c) 集団契約の不履行が発生した場合、不満がある労働者は、調停機関に対し、調停を申し立てることができる。
(d) 集団契約の契約期間は1年間である。

 

第5.職場調整委員会の委員

30名以上の労働者を雇用する使用者は、職場調整委員会を設置しなければならない。職場調整委員会の委員の人数は、労働組織が存在するか否かによって、異なっている。そして、改正法によって、労働組織が存在する企業も存在しない企業も、委員の数が以下のとおり増員された。

1.労働組織がある場合
労働組織が設置されている場合には、各組織から2名の代表及びこれと同数の使用者代表から構成されなければならないとされていた。しかし、改正法では、各組織から3名の代表者及びこれと同数の使用者代表から委員を選出する必要がある。

例えば、会社Aには、労働組織Bと労働組織Cがあると仮定する。この場合、会社Aの職場調整委員会は、B及びCからそれぞれ3名ずつ合計6名が選出されなければならない。そして、使用者からは、6名が選出されなければならない。したがって、会社Aの職場調整委員会の委員の総数は、12名となる。

2.労働組織がない場合
従来、労働組織が設置されていない場合には、労働者が選挙により選出した労働者代表 2 名及び使用者代表 2 名で構成されなければならないとされていた。この点、改正法によって、労働者が選出した労働者代表3名及び使用者代表3名を選出する必要があると変更された。

3.労働者が30名未満の企業
労働者が、30名未満であるために職場調整委員会が設置されていない場合、従前どおり使用者が労働者の苦情について対応しなければならない点はそのままである。しかし、労働者が、使用者に対し、苦情を申し立てた場合、従前、使用者は、公休日を除いて5日以内に当該紛争を解決しなければならないとされていた。この点、改正法により、使用者は7日以内に解決しなければならないと改正された。

4.委員の任期
職場調整委員会の委員の任期が1年から2年に延長された。

 

第6.まとめ

上記以外の改正点としては、改正法37条以下において罰金額が高額化され、より罰則が強化された。

以上のとおり、改正法は、委員の数や期限などの改正が多く、制度の根本を変更するものではない。しかし、改正法が制定されたということは、今後、労働者が30名以上いる企業に対し、職場調整委員会を設置しているか否かの調査が入る可能性も否定できない。したがって、この機会に今一度、社内での職場調整委員会の設置状況や稼働状況を確認するのが望ましいと解される。

 
 
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