【マレーシア法務ブログ】第22回:パリ条約

TNYグループの荻原と下田です。今回はパリ条約について解説していきます。

 

1.はじめに

工業所有権の保護に関するパリ条約(Convention de Paris pour la protection de la propriété industrielle)は、1883年に商標権や特許権等の工業所有権の保護を目的として作成された条約です。同条約は、内国民待遇の原則、優先権制度、商標保護独立の原則、周知商標の保護等について定めています。マレーシアも、1989年に同条約を批准しています。

なお、協定国以外の国の国民であっても、協定国内に住所又は現実かつ真正の営業所を有する場合には協定国の国民とみなされます。

 

2.内国民待遇の原則

同条約2条は、商標を含む工業所有権について、各協定国は内国民に与えている保護と同様の保護を他の協定国の国民に対して与えなければならず、自国内に住所又は営業所を有することを保護の条件としてはならないと定めています。

この規定により、各協定国は、自国内に事業所等を有するか否かに拘わらず、他の協定国の国民に対し内国民と同様の保護を与えなければならないこととなります。

なお、マレーシアの2019年商標法は「何人も」(any person)も商標登録の申請ができるものとしているため、この点では同条約が要請する範囲よりも広い範囲で保護を与えていると評価することができます。
 
パリ条約 第2条
(1)各協定国の国民は、工業所有権の保護に関し、この条約で特に定める権利を害されることなく、他の全ての協定国において、当該他の協定国の法令が内国民に対し現在与えており又は将来与えることがある利益を享受する。すなわち、協定国の国民は、各協定国の内国民に課される条件及び手続に従う限り、内国民と同一の保護を受け、かつ、自己の権利の侵害に対し内国民と同一の法律上の救済を与えられる。
(2)もっとも、各協定国の国民が工業所有権を亨有するためには、保護が請求される国に住所又は営業所を有することが条件とされることはない。
(3)司法上及び行政上の手続並びに裁判管轄権については、並びに工業所有権に関する法令上必要とされる住所の選定又は代理人の選任については、各協定国の法令の定めるところによる。

 

3.優先権制度

同条約4条は、協定国のうちいずれかにおいて商標を含む工業所有権について正規に出願をした者は、最初の出願から一定期間(商標の場合には6か月)、他の協定国において同一の工業所有権について出願をする際に優先権を主張することができるものとされています。

同条約を受けて、2019年商標法26条は、他の協定国における最初の出願の日から6か月の間はその出願者に対し優先権を付与するものとし、同期間内にマレーシアにおいて出願された商標登録の可否は最初の出願後マレーシアにおいて出願がされるまでの間になされた(他者による)商標の使用行為によって影響を受けないものと定めています。

もっとも、先行商標の調査に関連する場合を除き、出願日(登録日)は、他の協定国における最初の出願日ではなく、マレーシアにおいて実際に出願がされた日である点には注意が必要です。
 
パリ条約 第4条(抜粋)
A
(1)いずれかの協定国において正規に特許出願若しくは実用新案、意匠若しくは商標の登録出願をした者又はその承継人は、他の協定国において出願することに関し、以下に定める期間中優先権を有する。
(2)各協定国の国内法令又は協定国の間で締結された二国間若しくは多数国間の条約により正規の国内出願とされるすべての出願は、優先権を生じさせるものと認められる。
(3)正規の国内出願とは、結果のいかんを問わず、当該国に出願をした日付を確定するために十分なすべての出願をいう。

B
すなわち、A(1)に規定する期間の満了前に他の協定国においてされた後の出願は、その間に行われた行為、例えば、他の出願、当該発明の公表又は実施、当該意匠に係る物品の販売、当該商標の使用等によって不利な取扱いを受けないものとし、また、これらの行為は、第三者のいかなる権利又は使用の権能をも生じさせない。優先権の基礎となる最初の出願の日前に第三者が取得した権利に関しては、各協定国の国内法令の定めるところによる。

C
(1)A(1)に規定する優先期間は、特許及び実用新案については十二か月、意匠及び商標については六か月とする。
(2)優先期間は、最初の出願の日から開始する。出願の日は、期間に算入しない。
(3)優先期間は、その末日が保護の請求される国において法定の休日又は所轄庁が出願を受理するために開いていない日に当たるときは、その日の後の最初の就業日まで延長される。
(4)(2)にいう最初の出願と同一の対象について同一の協定国においてされた後の出願は、先の出願が、公衆の閲覧に付されないで、かつ、いかなる権利をも存続させないで、後の出願の日までに取り下げられ、放棄され又は拒絶の処分を受けたこと、及びその先の出願がまだ優先権の主張の基礎とされていないことを条件として、最初の出願とみなされ、その出願の日は、優先期間の初日とされる。この場合において、先の出願は、優先権の主張の基礎とすることができない。

 

4.商標保護独立の原則

同条約6条3項は、各協定国において正規に登録された商標は他の協定国における商標登録(出願者の本国における登録を含む)から独立したものとして扱われる旨を定めています。

そのため、ある協定国において商標登録が取消等を受けた場合であっても、他の協定国においてなされた商標登録は存続することとなります。
もっとも、各国において個別に出願をせずに、マドリッド制度(第21回をご参照ください)を通じて保護を受けている場合には、基礎登録の取消等により各国での保護も失われる点には注意が必要です。
 
パリ条約 第6条
(1)商標の登録出願及び登録の条件は、各協定国において国内法令で定める。
(2)もつとも、協定国の国民がいずれかの協定国において登録出願をした商標については、本国において登録出願、登録又は存続期間の更新がされていないことを理由として登録が拒絶され又は無効とされることはない。
(3)いずれかの協定国において正規に登録された商標は、他の協定国(本国を含む)において登録された商標から独立したものとする。

 

5.周知商標の保護

また、同条約6条の2は、協定国に対し周知商標(同条約によって利益を受ける者に帰属する商標としてその協定国内において広く認識されている商標)を保護することを求めています。マレーシアにおける周知商標の保護制度については、第19回をご参照ください。

 
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