TNYグループのマレーシア事務所の弁護士の荻原と下田です。今回は登録されていない商標の保護について解説していきます。
第1 周知商標
ある商標が周知商標として認められる場合、その商標はマレーシアにおいて登録がされていなかったとしても一定の保護を受けることができます。
1.周知商標の定義
周知商標とは、マレーシアにおいて周知されており、以下の者に属する商標をいうものとされています。
a. 協定国の国民
b. 協定国に住所若しくは現実の工業上又は商業上の営業所を有する者
このうち、他の商標の登録申請日又は申請に関して主張されている優先日において周知商標に該当していた商標は、当該他の商標との関係において先行商標として扱われます。
2.差止請求
周知商標の所有者は、以下の場合には、その周知商標と同一又は類似した商標の使用を差し止める権利を有するものとされています。
a. 同一又は類似の商品又はサービスについて商標が使用され、その使用が混乱を引き起こす可能性が高い場合
b. 何らかの商品又はサービスについて商標が使用され、その使用がそれらの商品又はサービスと周知商標の所有者とのつながりを示しており、周知商標の所有者の利益を害する可能性が高い場合
もっとも、周知商標の所有者がマレーシアにおけるその商標の使用を5年以上にわたり黙認していた場合、原則としてこの差止請求権は行使できなくなることに注意が必要です。
3.登録の無効宣言
(1)周知商標と同一又は類似の商標がマレーシアにおいて登録されている場合、周知商標の所有者は一定の要件のもとその登録の無効宣言を裁判所に申し立てることができます。
ただし、一定の例外事由がある場合を除き、登録日から5年が経過すると商標登録の有効性が確定しその有効性を争うことができなくなることには注意が必要です。
(2)先行商標に該当する周知商標と同一の商標が当該周知商標が使用されている商品又はサービスと同一の商品又はサービスについて商標登録されている場合、その登録により権利を侵害されていることを立証することで、周知商標の所有者はその登録の無効宣言を裁判所に求めることができます。
(3) a.先行商標に該当する周知商標と同一の商標が当該周知商標が使用されている商品又はサービスと類似の商品又はサービスについて商標登録されている場合及びb.先行商標に該当する周知商標と類似の商標が当該周知商標が使用されている商品又はサービスと同一又は類似の商品又はサービスについて商標登録されている場合、その登録により権利を侵害されていること及びその登録が公衆に混乱を生じさせる可能性があることを立証することで、周知商標の所有者はその登録の無効宣言を裁判所に求めることができます。
(4)周知商標と同一又は類似の商標が当該周知商標が使用されている商品又はサービスとは異なる(同一でなく類似もしていない)商品又はサービスについて商標登録されている場合、周知商標の所有者は以下の事実があることを立証しその登録の無効宣言を裁判所に求めることができます。
a. 商品又はサービスについての登録商標の使用が、それらの商品又はサービスと周知商標の所有者とのつながりを示すものであること
b. 登録商標の使用が公衆に混乱を生じさせる可能性があること
c. 登録商標の使用により周知商標の所有者の利益が損なわれる可能性があること
第2 詐称通用
1.詐称通用とは自分の商品等を他人の商品と偽って通用させる行為をいいます。マレーシアを含む英米法系の国は、詐称通用により営業上の評価又はのれんを害されるおそれがある者に対して差止等の判例法上の救済を与えています。
詐称通用に関する救済制度は他人が築き上げた評価又はのれんが盗用されることの阻止を目的としており商標の保護を直接の目的とするものではありませんが、要件・効果の面で商標侵害に関する救済制度と重なり合う部分があります。また、2019年商標法は、詐称通用にあたることを商標の登録拒絶事由として定めています(第13回をご参照ください)。
2.マレーシアにおける近時の裁判例の多くは、詐称通用を理由とする請求が認められるための要件として、以下の3つを要求しています。
① 請求者がマレーシア国内においてその標章が使用される事業について評価又はのれんを有していること
② 侵害者の行為により、公衆がその商品又はサービスを請求者の商品又はサービスであると混同又は誤認するおそれがあること
③ 侵害者の行為が、請求者の評価又はのれんに損害を与える可能性があること
第3 防護商標制度の廃止
商標登録は、その商標を使用する商品又はサービスを指定して登録するため、指定されていない商品又はサービスへの商標の使用については保護を受けられないのが原則です。
1976年商標法は、登録商標所有者に対して、当該登録商標が周知性を獲得していることを条件として、自身が商標を使用していない又は使用を予定していない商品又はサービスについても防護商標登録という特殊な商標登録をして保護を受けることを認めていました。
2019年商標法はこの制度を廃止していますが、「第1 周知商標」の「2.差止請求」b及び「3.登録の無効宣言」で述べたとおり、周知商標の所有者は自身が商標を使用していない商品又はサービスについても他者の商標の使用を制限することができます。
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