【マレーシア法務ブログ】第21回:マドリッド協定議定書に基づく国際登録

TNYグループの荻原と下田です。今回はマドリッド制度を利用した商標の国際登録制度について解説していきます。

 

第1 概要

商標の保護を受けるための手続はそれぞれの国ごとに行うことが原則ですが、複数の国における手続を一括で行えるようにすることを目的としてマドリッド協定議定書(標章の国際登録に関するマドリッド協定の1989年6月27日にマドリッドで採択された議定書、Protocol Relating to the Madrid Agreement Concerning the International Registration of Marks Adopted at Madrid on June 27, 1989)が採択されています。

マレーシア政府もマドリッド協定議定書を批准しており、2019年12月27日よりマレーシアを指定対象に含む国際登録の申請が可能となっています。

 

第2 登録手続

1.登録手続全体の流れ
マドリッド協定議定書が定める制度(マドリッド制度)を利用する場合、出願人が本国官庁に対し国際登録の出願をし、本国官庁から送付を受けたWIPO(世界知的所有権機関、World Intellectual Property Organization)国際事務局が方式審査をしたうえで国際登録出願において領域指定された国の担当官庁に通知をし、各国の担当官庁が当該商標に保護を与えるか否か及び保護を与える範囲について実体審査をするという手続の流れになります 

2.本国官庁への出願
本国官庁に国際登録出願書を提出します。国際登録の出願に際して使用できる言語は、英語、フランス語又はスペイン語のうち本国官庁が指定した言語であり、日本の特許庁を本国官庁とする場合には英語を使用することとなります。

なお、国際登録の出願の前提として、本国において当該商標の登録(以下「基礎登録」)があること又は当該商標の登録の出願(以下「基礎出願」)をしていることが必要となります。

3.WIPO国際事務局による方式審査
本国官庁から国際登録出願書の送付を受けたWIPO国際事務局は方式審査をした後、国際登録簿に商標を国際登録します。WIPO国際事務局は国際登録がなされた旨の公報を発行し、領域指定された国の担当官庁に通知をします。

4.各国の担当官庁による実体審査
WIPO国際事務局から通知を受けた各国の担当官庁は、各国の法令に従い実体審査を行い、国際登録された商標に各国内での保護を与えるか否かを決定します。

WIPO国際事務局から通知を受けてから1年(国により18か月)経過後は保護を拒絶する旨の返答をすることができないものとされているため、各国の担当官庁は同期間内に判断をする必要があります。もっとも、以下の条件のもと、異議申立の結果として18か月間の期間経過後に拒絶の返答をすることを認める制度を採用することができるものとされています。マレーシアもこの制度を採用しています。
① 18か月の期間の経過後に異議申立がされる可能性のあることを当該期間の満了前にWIPOに通知すること
② 異議申立に基づく拒絶の返答を異議申立期間の満了の時から1か月以内、かつ、いかなる場合においても、当該異議申立期間の開始日から7か月以内に行うこと

 

第3 マドリッド制度を利用するメリット・デメリット

1.メリット
(1)手続の簡便さ
1つの出願手続で複数の国における商標の保護を申請できるため、手続が簡便であるというメリットがあります。また、使用する言語も英語、フランス語又はスペイン語のいずれか1つで済むこと点でも、煩雑さを免れることができます。

(2)管理の容易性
商標の保護を要する国が全てマドリッド協定議定書の批准国である場合には、国際登録簿を通じて商標を一元管理することができます。また、商標の保護を求める国を新しく増やす場合も、領域指定の対象国を事後的に指定することで同国での商標申請に代えることができます。

(3)コストの削減
英語、フランス語又はスペイン語のいずれか1つの言語で準備を進められるため各国言語への翻訳をする必要がなく、費用・時間が削減できます。また、各国での実体審査が滞りなく進む場合にはそれぞれの国で代理人を雇う必要もなく、その点でも費用が削減できます。

 
2.デメリット
(1)領域指定の対象国
マドリッド協定議定書(又はマドリッド協定)を批准していない国については、マドリッド制度を利用した国際登録出願において領域指定をすることができません。そのため、商標の保護を求める国の中に批准をしていない国が多く含まれるような場合には、商標の一元管理ができずかえって商標の管理が煩瑣になることがあります。

(2)名義人、商標及び対象の同一性
マドリッド制度を利用して国際登録の出願をする場合、出願名義人が基礎出願又は基礎登録の名義人と完全に同一でなければなりません。そのため、商標登録の名義人を各国の子会社にする等して国ごとに使い分けることはできなくなります。

また、出願に用いる商標は基礎出願又は基礎登録と同一のものでなければならないものとされています。そのため、基礎登録の対象となっている日本語で構成された商標をアルファベット表記にして国際登録出願の対象としようとする場合、別途アルファベット表記での基礎登録が必要となります。

出願する商品・サービスも基礎出願又は基礎登録と同一又はその範囲内でなければならないため、基礎出願又は基礎登録において対象とする商品又はサービスを広くとる必要が生じることがあります。なお、各国の担当官庁が出願された商品又はサービスの一部についてのみ保護を認めることが可能であるため、その結果として国ごとに保護を受けられる商品又はサービスの範囲に差が生じる可能性があります。

(3)セントラルアタックの危険性
「第4 セントラルアタック」をご参照ください。

 

第4 セントラルアタック

国際登録はその登録がされてから5年経過後は基礎登録又は基礎出願から独立した登録になるものとされています。他方、それまでの間は基礎登録又は基礎出願に従属し、基礎登録が取り消され又は基礎出願の拒絶が確定した場合には国際登録は取り消され、領域指定をした各国の保護も受けることができなくなるものとされています(セントラルアタック)。

もっとも、当該国際登録の名義人であった者が領域指定されていた国の担当官庁に対し同一の商標ついて登録の出願をしたときは、一定の要件を満たすことを条件に、出願日等の点で優遇を受けることができるものとされています(トランスフォーメーション)。

 
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