インドネシア首都移転まとめ〜「ヌサンタラ」の由来は?移転の理由・スケジュールや市民の反応なども解説

インドネシアが首都移転を進めています。移転先はカリマンタン島の「ヌサンタラ」で、ジャカルタから直線距離で1200kmほど。

 

首都移転が決まった当初は木々が生い茂るジャングルでしたが、2024年現在、建設が急ピッチで進んでいます。

 

この記事ではインドネシアの新首都「ヌサンタラ」の由来や首都移転の理由・スケジュール、移転に対する反応などを紹介します。

 

新首都名「ヌサンタラ」の由来

「ヌサンタラ」という町は、以前からあったわけではありません。首都移転をきっかけに、新たについた名前です。

 

とはいえ「ヌサンタラ」は普通名詞でもあり、インドネシア語大辞典によると「インドネシア(の島々)全体」ぐらいの意味。「インドネシア」の言い換え表現として目にすることが多く、個人的には詩的で壮大な響きがあるように感じています。

 

首都をジャカルタから移転する理由

では、そもそもなぜジャカルタから首都を移転する必要があるのでしょうか。ごく簡単に解説します。

 

CNN Indonesiaの記事によると、インドネシアのジョコ大統領は、2019年4月に移転について次の理由を挙げていました。

  1. 人口過密
  2. 環境問題
  3. 渋滞
  4. 洪水

 

大統領によると、4点とも(ジャカルタのある)ジャワ島の問題であるとのこと。同島にインドネシアの人口の57%が集中しているほか、水質汚染など環境問題の深刻さも指摘していました。渋滞もジャカルタだけの問題ではないとし、雨季が来るたびに起きるジャカルタの洪水にも触れています。

 

わたしもジャカルタに住んでいたとき、渋滞や洪水を身近に感じていました。

 

通常なら15分もかからない道でも、渋滞がひどいと1時間(もしくはそれ以上)かかることもザラ。もっとひどい目にあった方もいるでしょう。遅れないようにと余裕を持ちすぎて出発した結果、到着が早くなりすぎて時間を持て余すのも「あるある」でした。

 

またジャカルタで2階建ての家にホームステイをしていたとき、洪水がひどいときは1階がすべて水に浸かるレベルだったと聞いて驚いたのを覚えています。JICA公式サイトによると、ジャカルタは地盤沈下が進み、面積の60%以上が海抜ゼロメートル以下になっているとか。

 

このように、目に見えない形でも目に見える形でも悪影響が及んでいることが、首都移転に乗り出した理由と言えるでしょう。

 

首都の移転先がカリマンタン島に決まった理由

では、なぜ移転先がカリマンタン島になったのでしょう。インドネシア通信情報省の公式サイトによると、理由は次の5つです。

  1. 自然災害が少ない
  2. インドネシアのほぼ中央に位置している
  3. 主要都市と近い
  4. インフラが比較的整っている
  5. 政府所有の土地がある

 

個人的にも、1から3については納得しています。4と5は判断材料がなく、「そうなんですね」と言うしかありません。以下、1から3について少し補足します。

 

自然災害について

1点目の「自然災害」については、わたしも(余計なお世話ですが)気になっていました。移転先がカリマンタン島になると聞いて、真っ先に思い浮かんだのが「煙害」です。わたしもスマトラ島に住んでいたときに苦しめられました。

 

スマトラで撮った写真を2枚お見せしましょう。

上の画像はふだんの様子です。

 

でも、煙害がひどいときは視界が真っ白に。

画像は特にひどいときで、「白」を通り越して「黄色」になってしまっています。

 

カリマンタン島では特に「パランカラヤ」という町はしょっちゅう煙害に見舞われているイメージです。でも、現地メディアが2023年10月に報じたニュースを見ると、「パランカラヤ」で煙害がひどいときも、「ヌサンタラ」は平常運転だったそうです。よく考えたらカリマンタン島は日本より広いので、同じ島でも状況が違うのにもうなずけます。さらに、NHKの記事によると地震も少ないとのこと。少なくとも煙害と地震についてはリスクが低いようです。

 

ちなみに「パランカラヤ」は、以前の大統領が首都移転先の候補地にしていました。

 

地理的要因について


2点目と3点目は
地理的要因ですね。

上の画像のとおり、カリマンタン島はインドネシアの真ん中ぐらいに位置しています。

 

また、カリマンタンの主要都市である「バリックパパン」や「サマリンダ」と近いことも地図でわかります。

 

「バリックパパン」はカリマンタン島で最大の経済規模を誇り、「サマリンダ」は同じくカリマンタン島で最も人口が多い都市です。ちなみにこの2都市は、インドネシアで住みやすい都市の1位・2位を争っています。

 

「ヌサンタラ」が首都移転先になった理由として、少なくとも1点目から3点目までは納得できるのではないでしょうか。

 

首都移転のスケジュール

そんな「ヌサンタラ」への移転は、2024年に本格的にスタートしました。ポシャるのではないかと思っていただけに、「本当に動き出したか」と驚いたのが正直なところです。

 

2024年8月17日の独立記念式典は、「ヌサンタラ」に建設中の大統領府で行いたいと大統領もはりきっています。ちなみに、CNN Indonesiaの記事(2023年3月)の記事には、工事が始まる前と2024年2月撮影の衛星写真が並んでいて、開発が進んでいるのが一目瞭然です。また読売新聞オンラインの記事(2023年10月)によると、新大統領府は4割が完成しているとのことでした。もう後戻りできないところまで来ているかもしれません。

 

ただ、移転が全て完了するのは2045年の見込み。さらにジョコ大統領の任期は2024年10月までです。

 

選挙の結果、プラボウォ氏が次期大統領に就任するのがほぼ確実と見られており、同氏は今の路線を引き継ぐと言っています。

 

とは言え、その任期も最長で2034年まで。計画通りに移転できるのか、途中で計画中止に追い込まれるのか。答え合わせを楽しみに待ちたいと思います。

 

新首都の都市計画


「ヌサンタラ」は、「スマートシティー」をコンセプトにしているだけあって、都市計画に最新技術を積極的に取り入れています。100ページを超える政府資料にも、たとえば次のようなワードがズラリ。

  1. IoT
  2. 自動運転
  3. スマートグリッド
  4. スマート廃棄物管理(ごみ処理)
  5. スマート排水管理
  6. スマート森林火災モニタリング

 

ジャカルタの渋滞や河川の汚染はもちろん、インドネシア各地が抱える問題を最新技術で解決しようという意図が見える気がします。

 

わたしが住んでいたスマトラの町でも、ごみ処理が滞ったり、停電が頻発したり、森林火災による煙害が起こったりしていたので……。

 

実現するかどうかは見通せないものの、個人的には政府資料を見ているだけで心が踊ります。

 

ゼロからの街づくりだからこそ、新しい技術を導入しやすいメリットもあるかもしれません。

 

首都移転に対する反応

ところで、首都移転に対する反応はどうなのでしょうか。市民と専門家の反応を調べてみました。

 

1.首都移転に対する市民の反応


CNN Indonesiaの記事(2023年7月)では、2社の調査会社による調査結果が紹介されています。表にまとめると、次のとおりです。

 会社名  リリース日  賛成  反対
 Indostrategic  2023年7月14日  40.1%  57.3%
 LSI Denny JA  2023年7月10日  47.3%  43.7%


日本のメディアでは「57%が反対」というのを目にしましたが、調査はそれだけではないようです。

 

2つの調査のうち、「Indostrategic」による調査については調査方法から反対の理由まで詳しい情報があるため、さらに詳細を見てみましょう。

 

調査は2023年6月にインドネシアの全38州で行われ、回答数は1,400でした。

 

反対が6割近くを占めたこの調査によると、反対の理由としていちばん多かったのは金銭的なものでした。NHKの記事(2023年8月)によれば、移転費用は総額4兆4000億円の見込み。そのうち、インドネシアが負担するのは2割程度で、残り8割は投資でまかなう計画です。

 

8割を投資に頼る計画がうまくいくかどうかは議論の余地がありますが、仮に2割の負担でも8800億円もかかる計算になります。このお金を他のことに使ったほうがいいというのが、反対意見の約半数(46.2%)を占めていました。

 

他の理由は「急いで移転する必要がない」(16.5%)、「ジャカルタは今も首都にふさわしい」(8.2%)と続いています。

 

賛成の理由は同記事では触れられておらず、元になった調査自体を探してみたものの見つかりませんでした……。

 

とにかく2つの調査から分かるのは、少なくとも、賛成・反対のどちらかが圧倒的多数を占めているわけではないこと。意見が割れているということです。

 

2.首都移転に対する専門家の反応


専門家からも首都移転に懐疑的な声が寄せられています。

 

読売新聞オンラインの記事(2023年10月)によると、経済金融開発研究所のタウヒド・アフマド氏が次のとおり指摘しているとのこと。

国家予算から2割しか捻出しない計画は現実的でない。民間の投資決定には時間がかかる。将来、国家予算の割合を増やす必要が生じる。

 

また、CNBCの記事(2023年8月)ではストックホルム環境研究所の研究員であるArcher氏も、たとえば次の点について懸念を表明しています。

  1. ジャカルタは洪水などの問題を抱えたままで、同地に残る人たちの投資を誰が行うか
  2. ジャカルタの人口集中を解決するだけのキャパシティーが「ヌサンタラ」にあるか
  3. 「100%再生可能エネルギー」を掲げているがカリマンタンのGDPの35%を占める石炭産業はどうするのか

 

首都移転は大規模プロジェクトなだけに、想定される問題も様々ですね……。

 

市民や専門家の声がどこまで聞き入れられるのか、注目していきたいと思います。

 

まとめ

この記事では、インドネシアの新首都「ヌサンタラ」の由来や首都移転の理由・スケジュール、移転に対する反応などを紹介しました。

 

首都移転が始まり、大統領府はすでに建設が始まった段階ですが、まだまだ長い道のりです。さらに市民や専門家からもさまざまな意見が上がっています。

 

この首都移転によって分断などが進むことなく、どう転んでもインドネシアにとっていい方向に進むことを祈るばかりです。

 

※当記事の筆者はインドネシア生活や一時帰国に関する情報満載の「さとたす」というサイトを運営しています。

 


 

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インドネシアで学校設立・運営

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Sato

サトと申します。大学時代にインドネシア語を専攻し、留学も経験。大卒後は日本の企業に就職し、6年ほど勤めました。現在、インドネシアでの日本語教育に携わって10年以上になります。よろしくお願いいたします。

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