TNYグループのマレーシア事務所の弁護士の荻原と下田です。今回は商標の識別性について解説していきます。
第1 概論
2019年商標法において「商標」は「ある事業体の商品又はサービスを他の事業者のそれと区別することを可能とする画像として表現可能な標章」と定義されています。このことからも明らかなように、商標の役割は商標所有者と商品又はサービスとのつながりを示すことにより、商標所有者の商品又はサービスと他者の商品又はサービスとを区別することができるようにすることにあります。
そして、このような役割を果たすために必要となる、商標所有者と商品又はサービスとのつながりを示す力又は性質を「識別性」(distinctive)と呼びます。
この識別性には、当該商標が本来有する内在的な識別性(Inherently Distinctive)と使用の継続や環境等の外部的要因により獲得された事実上の識別性(Factually Distinctive)とがあるものとされています。
第2 定義
1 1976年商標法(旧商標法)
旧商標法10条は、
(a) 特別の又は独特な態様で表示される個人,会社又は企業の名称
(b) 登録出願人又はその者の事業の前主の署名
(c) 考案された語
(d) 商品又はサービスの性質又は品質に直接言及せず、かつその通常の意味に従えば地理的名称でも人の姓でもない語
の4つの類型以外の標章については、識別性を有することの証明がされない限り登録することができないものと定めていました。
2 2019年商標法
2019年商標法もまた、当該登録出願商標それ自体が識別性(際立った特徴、distinctive character)を有しないことを絶対的登録拒絶事由としたうえで、実際にその標章が使用された結果としてその標章が識別性を獲得した場合には登録拒否事由とはならないものとしています。
そのうえで、「識別性」とは、登録の範囲内での使用に関連して、
(a) 当該商標が、その所有者と業として関係する又は関係しうる商品又はサービスを、(他の)商品やサービスから区別することが可能であること、又は
(b) そのような関係が存在しない場合、若しくは当該商標が登録済であるか又は登録予定である場合、条件,補正,修正及び制限に従い、当該商標が、商品又はサービスを区別することが可能であること
を意味します。
第3 裁判例
以下では、識別性の有無が問題となった裁判例を2つ紹介します。
1 TITAN (M) SDN BHD v. THE REGISTRAR OF TRADE MARKS ([2009] 7 CLJ)
(1)事案の概要
2000年5月、XはY(商標登録官)に対して「SURE-Loc」という文字列を商標として登録申請しましたが、Yは当該商標は旧商標法10条が定める要件を満たしていないと判断しこれを認めなかったため、Xは裁判所に対し不服申立をしました。
(2)裁判所の判断
裁判所は、当該商標は旧商標法10条1項が定める上記(a)から(d)の類型にはあたらないと判断したうえで、以下の理由から当該商標は識別性を有しないと判示しました。
ア 描写的な言葉について
当該商標はXの商品を高度に描写するものであり、内在的な識別性を有しない。描写的な言葉は、一般の人々がその言葉を見たときにXの商品を連想するようになり、その言葉が副次的な意味を獲得したといえるようになるまでは識別性を有するとは認められない。
しかし、Xが提出した証拠は当該商標が付された商品の広告やその購入者への請求書だけであり、当該商標がそのような副次的な意味を獲得したことを示す十分な証拠が提出されたとは認められない。
イ シンガポールにおける商標登録について
Xは、シンガポールで商標登録したことにより当該商標は事実上の識別性を獲得したと主張する。
しかし、マレーシアにおける商標登録の可否はマレーシアの商標法に従って判断されるため、シンガポールにおいて商標登録がされているという事実は登録官を拘束するものではない。また、商標に対する保護はその性質上地域的なものであるため、Xが主張するような登録間の矛盾といった問題も生じない。
2 KOREA WALLPAPER SDN BHD v. PENDAFTAR CAP DAGANGAN ([2019] 8 CLJ)
(1)事案の概要
2012年6月、XはY(商標登録官)に対して「KOREA wallpaper」という文字列を含む図案を商標として登録申請しましたが、Yは当該商標は旧商標法10条が定める要件を満たしていないと判断しこれを認めなかったため、Xは裁判所に対し不服申立をしました。
(2)裁判所の判断
裁判所は、当該商標は旧商標法10条1項が定める上記(a)から(d)の類型にはあたらないと判断したうえで、以下の理由から当該商標は識別性を有しないと判示しました。
ア 内在的な識別性について
図案が商品自体を説明するものではなく、商標所有者とその商品とを関連付けるために発明された珍しい標章である場合にのみ内在的な識別性が認められる。Xの商品は主に韓国で生産されマレーシアに輸入された壁紙であり、当該商標は商品の生産地を示し商品について説明するものに過ぎず内在的な識別性を有するとは認められない。
イ 事実上の識別性について
事実上の識別性が認められるためには、商標が付された商品が流通し民衆がそれを容易に認識できる状態で事業が長年にわたり継続されてきたことを信用できる証拠をもって証明する必要がある。しかし、Xは2009年にPrima Habitat Sdn.Bhd.という社名で設立され、2012年6月に社名をKorea Wallpaper Sdn.Bhd.と変更したばかりであった。Xが提出した証拠類は、一般の人々が当該商標とXの商品を結び付けていたことを証明するのに十分なものではなかった。また、独立した研究者による市場調査の結果や統計結果もない。したがって、事実上の識別性について証明があったとは認められない。
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