【タイ労働法コラム】第9回:タイの退職金・解雇補償金に関するルール

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GVA法律事務所・タイオフィス代表の藤江です。
本コラムでは、タイの労務管理について、日本との違いを踏まえた上で、法的に解説していきます。今回は、タイの退職金・解雇補償金に関するルールについて解説します。

 

タイに退職金制度は無い?似て非なる解雇補償金制度

まず、一般的に日本で「退職金」というと、一定の間勤務継続した人が、退職する際に、(多くの場合は)その貢献に応じて、まとまった金銭を支給される制度を言います。退職金の支給は、会社の義務ではなく、どのような基準で支給するか、どのような対象に支給するかも、原則として会社が比較的自由に設計することができます。

しかし、タイでは、そのような退職金制度は一般的ではありません。タイにおいて一般的なのは、それとは似て非なる「解雇補償金」という制度です。解雇補償金は、会社が従業員を解雇する際に、会社が支払う一定の金銭のことをいい、労働者の権利を保護するための大切な制度だと考えられています。

実は、日本の退職金と、タイの解雇補償金は、よく混同されてしまうことがあります。実際、タイで「退職金」という表現が使われている場合でも、それは日本式の退職金ではなく、「解雇補償金」のことを意味すると理解しておく方が良いでしょう。

 

タイの解雇補償金は、定年退職者にも支払う

解雇補償金は、日本とは違って、勤続年数に応じていくら支払うかが、法律で明記されています。下の表をご覧ください。

勤務期間 解雇補償金の額
120日以上1年未満 最終賃金の30日分
1年以上3年未満 最終賃金の90日分
3年以上6年未満 最終賃金の180日分
6年以上10年未満 最終賃金の240日分
10年以上20年未満 最終賃金の300日分
20年以上 最終賃金の400日分

 
「解雇補償金」ですから、その名のとおり、解雇する際に支払うものだということは明確です。それでも退職金と混同されるのは、タイでは、「定年退職」の場合にも、解雇補償金を支払わなければならないとされているからかも知れません。

日本では、定年退職と解雇は異なる概念です。従業員の認識としても、定年退職をすることと、解雇されることには、大きな隔たりがあるように思います。しかしタイでは、「定年退職も会社都合の退職として解雇と同様」と考えられているため、定年退職=解雇として、会社は、上記の解雇補償金を支払う義務を負います。

 

タイでは再雇用による解雇補償金の発生に留意

なお、これに関連して、定年後に継続雇用する場合には注意が必要です。タイにも定年退職後に雇用を延長する文化(その多くは有期雇用)がありますが、よくよく考えると、実は一度退職してから再雇用という形にするか、これまでの雇用期間を延長するかという2つの選択肢があります。

どちらも同じように見えますが、雇用期間の延長の場合は、従前の雇用がそのまま延長されるということになるため、一度も定年退職が発生していません。他方、再雇用の場合は、一度退職してから、再度新しい雇用契約を締結するわけですから、定年退職が一回発生していることになります。

繰り返しになりますが、定年退職はタイでは解雇と同視され、解雇補償金の支払いが必要です。そのため、この例でいえば、「一度定年退職してから、再雇用」という形を採用する場合は、まず定年退職に伴って解雇補償金を支払わなければならず、その後の再雇用についても、2度目の解雇補償金が発生する余地があります。

 

タイの制度をよく理解し、二重払いにならないよう確認を

なお、タイ式の解雇補償金と、日本式の退職金制度を並存させているケースも想定されますが、日本式の退職金は、タイの解雇補償金と全く異なるものですから、両制度の違いを就業規則や雇用契約において明確にしておかないと、退職金と解雇補償金を二重で支払うことになる可能性があることには注意が必要です。

言語の異なるタイでは混同してしまいやすい退職金と解雇補償金ですが、両制度の違いをよく理解し、二重払いなどの不測事態が生じないようにご留意ください。

 
 
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GVA法律事務所パートナー
タイオフィス代表・日本国弁護士:藤江 大輔
Contact: info@gvathai.com
URL: https://gvalaw.jp/global/3361

日本国弁護士

日本国弁護士

ICONIC

09年京都大学法学部卒業。11年に京都大学法科大学院を修了後、同年司法試験に合格。司法研修後、GVA法律事務所に入所し、15年には教育系スタートアップ企業の執行役員に就任。16年にGVA法律事務所パートナーに就任し、現在は同所タイオフィスの代表を務める。

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