インドネシアで日本語学校を設立し、運営しているサトと申します。わたしは日本の会社に6年ほど勤めたあと、インドネシアで10年以上にわたって日本語教育に携わってきました。
その中で、日本とインドネシアとでは仕事に対する意識が違うことを痛感。当初は戸惑うことも多かったものの、さまざまな気づきを得て、今ではストレスをうまく避けられるようになったと思っております。
この記事では、わたしが経験から学んだ「インドネシアの方と仕事をするに当たって気をつけるべきポイント」を5つ紹介します。
いずれもインドネシアの教育機関での仕事を通じて感じたことですが、企業で働く中でも参考にしていただける点があると思います。
共通して言えるのは、「日本と違うことを受け入れて(受け入れられなくても)善処するのが得策」ということです。
1点ずつ見ていきましょう。
1. 「遅刻はするもの」と考える
まず、従業員は「遅刻をするもの」と考えることです。その前提で、遅刻する人がいても仕事が回る体制を整えるのがよいのではないかと思います。
わたしが、ある職場を離れる際に送別会をしてもらったことがあります。その際、「サト先生はいつも時間通りに教室に来ていて驚いた」というコメントが絶えませんでした。インドネシア人の先生方は(いつもではないにしても)時間を守らなかったということでしょう。教員の会議も毎月ありましたが、開始時間に全員が揃ったことはありませんでした。
「時間をあまり気にかけていないから」と言えばそれまでですが、なぜ気にかけていないのでしょうか。理由は2つあると思っています。
まず1点目は、遅刻しても本人の評価に響かないということです。いちおう教員は指紋認証で出席を取っていましたが、「最低でも週に3回は大学に来るように」というような規定しかありませんでした。企業だと規定はもっと厳格だと思われるので、ここまでひどくないことを祈ります……。
2点目は、物理的な理由です。公共交通機関はあるものの、そして時刻表まであるものの、何時に来て何時に着くかは神のみぞ知る領域。ほぼ全員が自分の車かバイク(最近ではオンラインタクシーなど)を利用していました。渋滞や洪水もあるので、思い通りの時間に来るのは難しい事情もあります。
※ジャカルタのMRTなどは時間通りに運行していますが、まだまだ限られた範囲しかカバーしていません。
というわけで、繰り返しになりますが、遅刻する従業員がいることを想定した上で仕事が回るようにしておくのが吉かもしれません。すこし余裕を持って人員を確保しておく、優先順位を決めておくなど、いろいろ手はあると思います。
2. プライベート重視の姿勢を尊重する
次に、従業員がプライベートを重視する姿勢に理解を示して尊重することです。
わたしが日本の会社に勤めていたとき、インドネシアに駐在中の日本人からこんな話を聞きました。「定時になったらみんなさっさと帰る。もう、気持ちよいぐらい」と。また、遅くまで残業していたら、同じく居残りしていたインドネシア人の幹部に「人生楽しみましょうよ」とも言われたんだとか。
この会社には、インドネシアの大手財閥の資本が入っていて、幹部は財閥から派遣されていました。その幹部が、働き方改革のお手本となるような発言をしていたわけですね。
お店などに行っても、仕事と関係なさそうな用事でスマホをいじっている店員さんが多いことに気づくかと思います。
「自分は夜遅くまで残業しているのに……」とか「勤務時間中にプライベートの用事でヘラヘラしやがって」と思う気持ちも分からないでもありません。
でも、インドネシアの方からすれば、まさに「人生楽しみましょうよ」という気持ちだと思います。少なくとも、その姿勢は尊重し、少なくとも「自分だけがんばっている」とは思わないようにしましょう。
3. 理由の説明は「言い訳」ではなく「礼儀」と捉える
3点目は、遅刻やミスなどの理由の説明を「言い訳」ではなく「礼儀」と捉えることです。
インドネシアでは、遅刻やミスなどをすると謝らず、理由をめちゃくちゃ説明してくるケースがかなり見られます。わたしには当初、言い訳にしか聞こえず「ひとこと謝ってくれればそれでいいのに」と腹を立てることもしばしばでした。
その後、「インドネシアでは理由を説明するのが礼儀」とどこかで聞き、衝撃を受けることになります。この説が正しいかどうかは判断できないのですが、「説明」に怒りを感じない努力をするようになりました。言い訳に聞こえても、心を「無」にして聞く感じです。どれだけ嘘くさい内容であっても、本当かどうかの判断はしない……。これでストレスは8割減(推定)。腹を立てるだけ損です。結果を残せない従業員は、そのうち淘汰されると信じつつ、「無」になる努力をしてみましょう。
4. 報告を待つよりフォローする
4点目に、仕事の進捗については積極的にフォローすることです。経験上、インドネシアで仕事をしていても、進捗の報告をしてくれるケースはありません。
インドネシアで長く働いている日本の方が、わたしの学生たちに会ってくれたことがあります。そのときに、日本の方がわたしの学生(Aさん)にこう聞きました。
「たとえばAさんがわたしの会社で働いているとします。わたしはAさんに、別の部署のBさんに物を渡すようお願いしました。でも、Bさんはいませんでした。Bさんがいなかったこと、わたしに報告しますか?」と。すると、学生はみんな首を横に振っていました。
実際、仕事の依頼のときに「進捗があったら教えてください」「結果がわかったら報告してください」と伝えておいても、実行してくれることはほぼゼロ……。
昔はやきもきしていましたが、今まで仕事で付き合ってきたインドネシアの方は、おおむね同じでした。社会人経験が長くても短くても関係なし。やはり、進捗を報告する習慣がないようです。
今では、時間を空けてフォローする仕組み、フォローするべき仕事を忘れないようにする仕組みが大切だと思っています。ここ数年、わたしは「Trello」というオンラインのプロジェクト管理ツールを使うことで、ストレスがかなり減りました。同じ悩みがあるなら、方法やツールを再考してみるとよいかもしれません。
5. 社外イベント参加は関係づくりのためと理解する
最後に、従業員が社外イベントに参加するのは、関係づくりの目的もあると考えましょう。
インドネシアの大学で働いていたときにびっくりしたことは数え切れないぐらいあります。そのうちのひとつが、授業があっても外部のセミナーや記念式典などを優先するのが普通だったこと。それもかなりの頻度(ほぼ毎週)で……。
授業は振替やレポートでカバーしていたものの、わたしは内心、「大切な授業を休みにしてまで行くほどのものか」と思っていました。
ただ先生方の様子を見ていると、「前回はわたしが出席したから、今回はお願い」などと話していて、あまり乗り気ではない様子でした。誰でもよいけど、誰かが行かないとまずい。どちらかと言うと、主催者側との人間関係を重視しているように見えたのです。
企業でも、従業員が社外イベントに呼ばれるケースはあるはず。関係づくりも兼ねた「業務」と捉えて、気持ちよく送り出すのがよいのではないかと思います。
まとめ
この記事では、わたしが経験から学んだ「インドネシアの方と仕事をするに当たって気をつけるべきポイント」を5つ紹介しました。注意すべきことは、次の5点でしたね。
- 「遅刻はするもの」と考える
- プライベート重視の姿勢を尊重する
- 理由の説明は「言い訳」ではなく「礼儀」と捉える
- 報告を待つよりフォローアップする
- 社外イベント参加は関係づくりのためと理解する
いちばん言いたいのは、「日本と違うことを受け入れて(受け入れられなくても)善処するのが得策」ということです。
日本のやり方・自分のやり方と違うことに目くじらを立てて注意し、波風を立てるだけの価値があるのかどうか。ある程度はスルーして気持ちよく働いてもらい、できる範囲で手を打ち、結果的に利益を最大化できればそれでよいのではないか……最近はそう考えるようになってきました。
わたしはインドネシアの企業に勤めたことはないのですが、ご参考になれば幸いです。
※当記事の筆者はインドネシア生活や一時帰国に関する情報満載の
インドネシアで学校設立・運営 Sato
サトと申します。大学時代にインドネシア語を専攻し、