2014年のオープン以来、トリップアドバイザーのホーチミンレストラン部門で1位継続中の、「暗闇レストラン (Dining in the dark) 」。その名の通り、暗闇の中で食事ができるというエンターテイメント要素のある、変り種レストランについて、ご紹介します。
半年ぶり2回目のホーチミン訪問である日本の友人Nちゃんの夕食リクエストは、「ベトナム料理じゃないけど日本では味わえないもの」という観点から、現時点で日本にはまだ存在していない「暗闇レストラン」の”Noir”。
場所は、ハイバーチュン通りのパン屋さん「Tous les jours」脇のヘム(小道)を一番奥まで進んだところです。
暗い小道の一番奥という立地も合わさって、ミステリアスな佇まいの外観。
暗めで静かなロビー。ここでまず、ウェルカムドリンク(アルコール有と無の選択可能)をいただきながら、食事のメニューを選択します。
メニューはすべてコースになっており、西洋料理(560,000VND / 約2,737円)、アジア料理(480,000VND / 約2,346円)、ベジタリアン料理(420,000VND / 約2,053円)の3種類から選択可能。苦手な食べ物やアレルギーがある際は、ここで一緒に伝えます。
その後、暗闇の中での食器の取扱い練習も兼ねて、簡単なパズルゲームを体験。アイマスク着用で視覚をシャットアウトの上、手の感覚だけで図形を当てはめていきます。
これが意外に難しいのですが、慎重派の私は、丁寧に指先で図形の形をなぞりながらゆっくりと時間をかけることで、無事にクリア。Nちゃんは私の半分ぐらいの時間で終わったとはしゃいでましたが、先にアイマスクを取って悲鳴をあげていたのが聞こえてきたので、どうやら、結構間違って入れていたようです。
暗闇ダイニングの案内をしてくれるのは、盲目のスタッフ。私達の担当は、Duongさんという若い男性でしたが、なんと流暢な日本語での案内。彼の肩に掴まって進み、真っ暗な席へと案内されます。
入口から座席までは扉があるわけでもなく、布で仕切られた空間を1~2回曲がっただけなのですが、内部には真っ暗闇が広がっており、そのあまりの深さに度肝を抜かれます。今までの経験では、どれだけ暗いといっても、目を凝らせば多少は物が見えたり、段々と目が慣れてきたりしたものですが、ここまで完全な「暗闇」を長時間体感するというのは、人生初の出来事です。
まずは前菜。正方形のプレートに、4つのお椀が乗っていて、右上から時計回りに食べるよう指示されます。食器がどこにあるか、飲み物がどこにあるかもすべて手探りなのでヒヤヒヤなのですが、食べ初めて分かった一番の恐怖ポイントは、「食べる時にこぼすのではないか」という現実的な問題。私服のときならいざ知らず、この時の我々は借り物レンタルアオザイ着用中。これだけこぼしやすい環境に、これだけこぼしてはいけない服装でわざわざ訪れた己の予測能力の低さを、ここでようやく思い知ります。
前菜は、スープ2種?に、冷たいサラダ?和え物?のようなものが2種?というラインナップでしたが、これほど「?」を多用せざるを得ない点でお分かりの通り、何を食べているのか、私には、ほぼ推測できませんでした。見えないからわからないというよりは、味覚の乏しさ故に味の感じ取りができなかったというのが残念な事実です。
次にメイン。白身魚? と豆腐煮? と野菜炒め?と牛肉?というラインナップでしたが、これほど「?」を多用せざるを得ないほど 以 下 同 文 。
そして最後はデザート3種。アイス?ムース?餅?というラインナップでしたが 以 下 同 文 。
食事の後は、ロビー2階席に案内され、実際の料理の写真を見ながら答え合わせ。
日頃から、基本的に何を食べても「おいしい!」と感じる自分の、圧倒的な舌の貧しさを実感させられる結果となりました。
Nちゃんは、自信満々で予想を立てていたものが大方間違っていてギャーギャー言ってましたが、ほとんど「?」状態で予想すら立てられなかった私の方が明らかに感覚として劣っているので、そんな彼女をからかうこともできず、意気消沈する羽目に。
ただ、一つ言えるのは、「アジア料理」を選んだ際、「味だけで食材を予想する」という楽しみ方の難易度は格段に上がります。なぜなら、「予想する」どころか、今までの人生で初めて食べるような食材が平気で投入されていたりするからです。「これはなんだろう」と必死で感覚を研ぎ澄まさせたというのに、答え合わせで、その食べ物の存在自体を知らなかったという事実に触れた時の脱力感はなかなかのものですので、「予想」の楽しみ方をしたい方には、馴染み深い西洋料理コースをオススメいたします。
ちなみに、神経を尖らせて挑んだだけのことはあり、幸い、アオザイへ食事をこぼす事はありませんでしたが、皆さんも念のため、私服でも、白い服は着ていかない方がいいと思います。
実は「食事」としてよりも「体験」として、このお店には深く感銘を受けました。
完全な闇の中で動くことの困難さを体感すると同時に、今回給仕してくださった方のような視覚障害の皆さんの、今までは知ることもできなかった生き方の一端を学ばせていただいたように思います。それと同時に自分自身の感覚とも向き合うことができ、非常に新鮮な驚きに満ちた、貴重な経験をすることができました。
ベトナムでは、視覚障害の方々の95%が、就く仕事を見つけることができずにいるそうです。そういった方々の雇用支援という一面も持ち合わせた暗闇レストラン「Noir」、日本では味わえない不可思議空間を、是非ホーチミンにてお楽しみください!
※今回のお店:Noir. Dining in the Dark (178 Hai Ba Trung . District 1)
料金について、コース代金には、別途5%のサービスチャージと10%の消費税+ドリンク代がかかるため、アジア料理の場合、お一人の予算は700,000VND (約3.422円)ほどです。