こんにちは、ホーチミン市在住のベトナム人Hanです。
皆さんはベトナムに世界トップクラスの美味しい料理が数多くあることをご存じでしょうか?
これらの料理が多くの人に愛されるようになるまで、長い年月をかけて改良が積み重ねられてきました。
どのベトナム料理にも、それぞれの歴史的な物語が存在します。
ベトナム料理を味わうとき、「この料理の起源は何だろう?」「なぜこのような組み合わせになったのだろう?」と気になったことはありませんか?
今回は、観光客に特に人気のあるベトナム料理を5つ選び、それらの興味深い誕生秘話をご紹介します!
1. バインミー(Bánh mì)
バインミーは19世紀末、フランス植民地時代にインドシナへもたらされました。
19世紀当時のバインミーは一般的なフランスパンのような細長いパンが用いられていましたが、ベトナムの人々が、仕事の合間に食べやすく、持ち運びしやすい短くサクサクとしたパンへと進化させました。
その後、ホーチミンに位置するとあるお店が、当時流行していた"パンにレバーペーストをつける"食べ方をアレンジし、パテなどの具材に加え、チャールア(ベトナム風ハム)、香草や特製ソースを組み合わせ、ベトナム独自のサンドイッチであるバインミーを生み出したと言われています。
現在では、シュウマイ入りバインミー(バインミー・シウマイ: Bánh mì xíu mại)、卵入りバインミー(バインミー・チュン: Bánh mì trứng)、ベジタリアンバインミー(バインミー・チャイ: Bánh mì chay)など、さまざまなバリエーションが登場しています。
また、「バインミー(Bánh mì)」という言葉は、もともとフランス語の"pain de mie"(柔らかい餡のパン)に由来します。ベトナムに伝わった後、独自の発展を遂げ、「バインミー」というベトナム語として定着しました。そして、2011年には「Bánh mì」という単語がオックスフォード英語辞典に登録され、ベトナムを代表する料理として世界に認められました。
2. フォー(Phở)
ベトナムの代表的な料理として、フォー(Phở)は欠かせません。
フォーのやわらかい麺と香り高いスープが絶妙に調和し、一口食べると、あっさりとした味わいの中にほのかなコクとスパイスの香りが広がります。
フォーはベトナム食文化の象徴ともいえる料理ですが、その起源については諸説あり、はっきりとした説は定まっていません。一部の資料では、フォーはナムディン省やハノイで生まれたとされています。一方で、広東料理の「牛肉粉」という料理が起源だという説もあります。その他にも、フォーは20世紀の初めに誕生し、その前身は「シャオボー(xáo bò)」という料理だったという伝承もあります。
ハノイ発祥説の一例として、当時、家畜が重要な労働資源であったため、ベトナム料理では牛肉はあまり使用されることがありませんでした。ところが、19世紀にフランスがベトナム全土を植民地にしたことでフランス人が流入し、彼らは母国でステーキを食べる習慣があったため、ベトナムの地でも食事にステーキを取り入れていました。
これによってフランス人が食べ残した牛骨や肉ガラが多く残ってしまいました。ベトナム人は当時庶民の間で食べられていた水牛を使った麺のスープを、その水牛の具を牛肉に置き換え、屋台で提供したようです。やがて、多くの店がこれに倣い、水牛の代わりに肉牛を使った「シャオボー(Xáo bò)」へと移行し、それがフォー誕生のきっかけになったといわれています。
3. ゴイ・クオン(Gỏi cuốn)
ゴイ・クオンはCNNにより「世界の美食50選」に選出されています。
ゴイ・クオンはライスペーパーで香草、エビ、肉などを包んだ料理で、火や油を一切使用しません。そのためこの料理は、ダイエット中の人にも大変人気を集めています。そのまま食べても美味しいですが、ピーナッツソースをつけて食べることで、味わいがより一層引き立ちます。
ゴイ・クオン(Gỏi cuốn)の名前の由来について、「ゴイ(Gỏi)」は一般的に、新鮮な食材を使ったサラダのような料理を指します。例えばゴイ・デュ・プ(パパイヤサラダ)やゴイ・トム(エビのサラダ)などがあります。一方、「クオン(Cuốn)」は、ライスペーパーで材料を包み、きれいな筒状の形にまとめることを意味します。
多くの資料では、ゴイ・クオンはベトナム東南部の平野で出現されたと記録されています。この地域は新鮮な食材が豊富であり、南部の人々はそれらを活用して、暑い気候の中でも食べやすく、さっぱりとした料理を生み出しました。
4. コムタム(Cơm tấm)
コムタムは、ベトナムの庶民的な料理の一つで、現在では世界的に有名な料理になりました。
グルメ専門サイト「テイストアトラス(Taste Atlas)」が2024年に発表した世界の米料理トップ100では、ベトナムの日常に欠かせない3つの料理が選ばれ、コムタムもその一つとして注目されています。
コムタムは、サイゴンの貧しい労働者たちが生み出した料理です。フランス植民地時代、米を運ぶ仕事をしていた作業員たちは、船のターミナル近くの水路の端で働き、仕事の後に床に落ちた割れた米粒を集めて調理して食べていました。最初は香味油と魚醤をかけて食べていましたが、その後、さまざまな材料が加わり、より魅力的な料理に進化しました。
コムタムの「タム(tấm)」は、砕けた米粒を指し、それを豚肉、豚皮、蒸し焼きした卵、香味油、魚醤と一緒に食べます。柔らかい米粒と他の料理の香りが混ざり合い、一口食べればやみつきになります。現在では、コムタムはベトナムの代表的なストリートフードのひとつとなり、ベトナムのどの地域でも簡単に楽しむことができます。
5. バインセオ(Bánh xèo)
最後に紹介するのはバインセオです。
この料理は、ベトナムの中部と南部を代表する料理です。
バインセオは、魚醤や香草と一緒に食べることで、脂っこさを和らげ、さっぱりした味わいを楽しむことができます。中部のバインセオはやや小さめで、南部のものは大きく、ココナッツミルクが使われています。
バインセオのルーツは、チャム族やクメール族の料理から影響を受けた可能性があると言われています。米粉を使い、鉄のフライパンで調理する方法が、彼らの伝統的な料理と似ているからです。しかし、その後バインセオは改良され、黄金色でサクサクした食感のパンケーキとなり、エビ、豚肉、緑豆、もやしなどが中に詰められています。
「バインセオ」という名前は、「セオセオ(xèo xèo)」というのが唐揚げ音を表しており、それにちなんで名付けられたと言われています。
覚えやすい名前ですね!
まとめ
いかがでしたでしょうか?
紹介した料理の中で、実際に食べたことがあるものはありますか?
ベトナム料理は、単なる食文化にとどまらず、ベトナム民族の歴史的な転換点と深く結びついています。もしベトナムを訪れる機会があれば、ぜひこれらの料理の背景にある物語を知りながら、その味を楽しんでみてください。
あっさりとした味わいのものから、濃いめの味付けのものまで、さまざまな料理があるので、きっとあなたの好みにぴったりの一品が見つかるはずです!