タイ不動産の未来 ~GOODシナリオ~

202X年、タイは一人当たりGNI(国民総所得)2万ドルを達成し、世界銀行が定める先進国の仲間入りを果たした。「転換点は19年の米中貿易戦争でした」。そう語るのは不動産アナリストのA氏だ。

「当時、トランプ大統領の強引な政治が米中貿易戦争をもたらし、世界中が戦々恐々としていた。ただタイは密かに漁夫の利を得ていたんです」。A氏によると、中国で製造することを経営上のリスクと見なしたマイクロソフトやHP、デル、アップルといった世界大手企業の製造受託企業が、中国からタイとベトナムにサプライチェーンの大型移管を行い、製造拠点を移してしまったのだ。

サプライチェーンは一度移管すると元に戻すことは非常に難しい。この一連の騒動で、タイは製造立国としての強固なサプライチェーンをまたひとつ手に入れていたのである。サプライチェーンの移管によって外国直接投資額の増加とともに大量の工業用地が売れ、工業団地運営会社や建設会社などが活況を呈していた。

ちょうど同じタイミングでタイ政府は高速道路、高速鉄道、空港そして港湾などのインフラ整備に膨大な開発をしていた。主要3空港を結ぶ高速鉄道の開発によって、物流効率が大きく改善し、企業の生産性向上に貢献。港湾の整備により、輸出、輸入ともに物資の量が増え、アセアンの物流のハブとして世界トップの物流効率を誇るシンガポールを猛追する状況にまで成長した。

また航空網の整備は、物流の効率化のみならず多数の格安航空会社の誘致に成功した。世界中から観光客が押し寄せ、年間6,500万人がタイを訪問し 、タイは世界でも有数の観光立国の仲間入りを果たしている。ホテル産業、商業施設、旅行代理店などは右肩上がりで伸びる観光産業の成長を謳歌している。

インフラ開発で見逃してはならないのがバンコク首都圏に張り巡らされた鉄道網の成長だ。19年時点で46駅、1日の乗客数が約75万人だったが、今では124駅に増え1日あたりの乗客数は120万人を超えるようになった。

鉄道網の充実によって各駅の周辺にコンドミニアム、商業施設そしてオフィスが建設され都市機能が底上げされていった。アソークやプルンチットなどの都心部から主に北部と東部に都市圏が拡がり続け、バンコクの人口が1,000万人を突破。パリの人口1,080万人に肉薄している。

バンコクの人口増加はタイの優秀な若者が都市圏に集まってきたことと、高度外国人材の大量獲得に成功したことに起因する。高度外国人材を引き付けるためにタイ政府は個人所得税の大幅減税に打って出たのだ。特定分野に秀でた人材は個人所得税一律10%となり、シンガポールよりも魅力的になったのだ。

研究開発、先端技術、デジタルイノベーションなどタイ人が不得手な分野に高度外国人材を積極的に取り込み、自国で不足するピースをうまく外から集めた。タイ政府のバランス感覚の良さが十分に発揮された一幕だった。

その結果、英国金融大手HSBCが毎年実施する「外国人が働きたい国ランキング」でタイはトップ10入りするほどの人気国となった。外国企業の進出が続きオフィス入居率は95%以上の高水準を維持している。便利な生活を求めバンコクに人口が集中した結果、19年では売れ行き不調と言われたコンドミニアム市場が急速に回復を遂げた。

金融業で営業マネジャーとして勤めるBさんは「ボーナスもインセンティブも年々増えているので、先月投資用のコンドを追加で購入しました。頭金もボーナスで支払うことができています」とサラリと言う。Bさんは早くも3つ目の投資用コンドミニアムを物色中だ。

土地・建物の価値は下がらないという不動産神話は202X年でも継続中だ。(続く)

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