【タイ労働法コラム】第14回:労働時間について

GVA法律事務所・タイオフィス代表の藤江です。本コラムでは、タイの労務管理について、日本との違いを踏まえた上で、法的に解説していきます。今回は、日々の労務管理において必ず知っておく必要がある労働時間に関するルールについて解説します。

 

タイにおける労働時間の原則は?

日本では、原則として、労働時間は1日8時間以下、かつ週40時間以下とされています。
一方、タイにおいては、以下のように定められています(労働者保護法23条1項、27条1項)。

1日の労働時間 原則8時間以下
1週の労働時間 原則48時間以下
休憩 1日に連続して5時間労働させた後、1時間以上の休憩を付与

サービス業や製造業、事務職等の一定の業種については、雇用契約等で合意すれば、週48時間の範囲内で1日あたりの労働時間を8時間以上に設定することが可能であり、このような合意に基づく8時間を超える部分についても、時間外労働割増賃金は発生しないと解釈されています。

例えば、雇用契約で、1日の所定労働時間を9時間と定めた場合であっても、土日が休みであれば週45時間となるため、各労働日の8時間を超えて9時間までの部分については、割増賃金は発生しません。

また、日本と同じように所定労働時間を8時間と定めている場合も、都度会社と従業員との間で合意すれば、実際の労働時間が8時間未満の日の余った時間を、他の日の労働時間に加算することができ(同法23条1項)、その加算部分については、時間外労働割増賃金は発生しないと解釈されています。

例えば、月曜日の実際の労働時間が7時間だったので、会社と従業員との間で合意して、余った1時間を火曜日の労働時間に加算し、火曜日は9時間働くこととした場合、火曜日の8時間を超えて9時間までの部分について、割増賃金は発生しないということです。ただし、このような労働時間の付替えについては1日9時間が上限とされているため、注意が必要です。

【1日の労働時間】

原則 8時間以下
例外1 サービス業、製造業等の一定の業種では、労使間の合意により、8時間を超えてもOK(週48時間を超えない範囲内)
例外2 労使間の合意により、実際の労働時間が8時間未満の日の余った時間を、他の日の労働時間に加算できる(1日9時間が上限)

 

残業に関する基本ルール

日本では、会社と従業員は一般的に36協定と呼ばれる残業等に関する協定を取り交わしており、この協定によって、会社は、一定の範囲の残業について従業員から包括的な同意を得ることが可能です。

一方、タイでは、残業等に関する包括的な同意という制度は存在しません。したがって、会社が従業員に時間外労働や休日労働をさせるためには、原則として、都度個別に事前同意を得る必要があります(同法24条1項、25条3項)。つまり、従業員には、残業命令(要求)を拒否する権利があるということを理解しておかなければなりません。もっとも、一定の場合には、個別同意が不要とされています(同法24条2項、25条1項2項)。

また、 時間外労働、休日労働、休日時間外労働の合計時間は、原則として1週36時間を超えてはならないとされていますので、この点にも注意が必要です(同法26条)。

【時間外労働・休日労働】

原則 個別の事前同意が必要
例外1 ❐ 時間外労働又は休日時間外労働
(i) 業務の性質又は形態により連続して行うことを要し、中止した場合に損害が生じる業務
(ii) 緊急の業務
(iii) 省令で定められたその他の業務
例外 ❐ 休日労働
(i) 業務の性質又は形態により連続して行うことを要し、中止した場合に損害が生じる業務
(ii) 緊急の業務
例外 ❐ 休日労働
ホテル事業、娯楽施設事業、運輸業、飲食店、クラブ、協会、医療施設関連事業その他の省令で定める事業

この他、危険の伴う業種その他の特殊な業種については、特別な規制が設けられています。

 

所定労働時間の設定には注意が必要?

ここまでは、タイの法律上定められている労働時間の上限(法定労働時間)についてのルールを見てきましたが、各会社が定める通常の労働時間(所定労働時間)についても、注意すべき点があります。

日本では、所定労働時間に関わらず、法定労働時間を超えているかどうかによって、時間外労働割増賃金が発生するかどうかが決まります。これに対して、タイでは、所定労働時間を超える労働については、たとえ法定労働時間の範囲内であっても、時間外労働割増賃金が発生します。

例えば、所定労働時間が7時間と設定されている会社の場合、日本では、法定労働時間である8時間までは、割増賃金は発生しません。一方、タイでは、7時間を超えて8時間以下の部分についても、割増賃金が発生するため、通常の時間単位賃金の1.5倍を支払う必要があります。

会社は、所定労働時間を定めるにあたっては、このような割増賃金の支払についても十分に考慮した上で決定する必要があります。

 

タイの法令に即した労働時間の設定と管理を

労働時間に関する規制は、最も基本的なルールですので、すでに知っているという方も多いかと思います。しかし、法定労働時間や、残業等の際の手続き、所定労働時間を超える労働に対する割増賃金など、日本とは制度が異なる部分がありますので、この機会に改めて確認していただければと思います。

<本記事に関するお問い合わせはこちら>

GVA法律事務所パートナー
タイオフィス代表・日本国弁護士:藤江 大輔
Contact: info@gvathai.com
URL: https://gvalaw.jp/global/3361

09年京都大学法学部卒業。11年に京都大学法科大学院を修了後、同年司法試験に合格。司法研修後、GVA法律事務所に入所し、15年には教育系スタートアップ企業の執行役員に就任。16年にGVA法律事務所パートナーに就任し、現在は同所タイオフィスの代表を務める。

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