【ベトナム進出日系企業トップ×ICONIC】ベトナムでは、どんな人材が求められているのか、「CA ADVANCE VIETNAM CO., LTD. – 代表取締役社長 平川様」にお話をおうかがいしました。
品質は、日本よりいいくらいです。
安倉: 本日はお時間をありがとうございます!まず最初に、御社が日本でされていることと、ベトナムでされていることを教えていただければと思います。
平川:基本的には日本でやっていることとベトナムでやっていることは、ほとんど同じです。親会社であるサイバーエージェントのオペレーション部門を全てCA Advanceでやっています。大きく分けて、広告の運用とメディアの運用です。
広告の運用というのは“運用型広告”と言われているもので、テレビとかは配信してしまえばそれ以上更新できませんが、インターネットはインタラクティブなので効果を見て改善をしていくという裏側を全てやっています。
メディアの運用に関しては、カスタマーサポートや公序良俗に反するような画像が投稿されていないかなどの監視、そしてデバックですね。ゲームを作ってデバックするなど、開発も一部行っています。
安倉: 日本には何名くらいの社員がいらっしゃいますか?
平川:日本でだいたい750名くらいですかね。
安倉: ベトナムでは何名になりました?
平川:ベトナムは今、約200名ですね。
安倉: 1年で200名!すごいですね。CA Advanceさんの特徴として日本語ができる人材を集めている印象がありますが、その200名は日本語をある程度話せる人材ですか?
平川:そうです。もっと増やしていきたいと思っています。日本の漫画を大量に500冊くらい持ってきたり、日本語の先生を雇って講座を開催したり。日本に興味を持ってくれている人にとって、魅力のある職場作りをしていこうと考えています。
安倉: 実際にその200名くらいの中で、いわゆるN2、日本語が中・上級以上の人は何割くらいですか?
平川:半分くらいですかね。もう半分はN3で日本語を勉強し始めたくらいのレベルです。
安倉: 日本語での広告運用であったり、レポート作成であったり、皆さん結構できますか?
平川:全然できますね。
安倉: それはフォーマットがしっかりしていて、システムに入力していく感じだからですか?
平川:基本的にはツールでやることは全てツールでやって、できないことを人間がやっています。ツールで6、7割完成させて、それをアウトプットしたものを人間がちょっと加工して。
とはいえ、営業とのメールのやり取りとか、電話とかテレビ会議が頻繁にあるので、日本語はかなり使っていると思います。
安倉: すごいですね。ベトナムにいらっしゃってちょうど1年ということですが、この1年間はいかがでしたか?
平川:一言で言うと、上手くいっているとは思います。当初、3つの課題を想定していました。まず語学面で、日本人と上手くやれるのか。次に営業とコミュニケーション取れるのかという品質面。最後は、まだ未知数なところはありますが、定着です。この3つが課題なんですが、前者の2つはクリアできています。
安倉: 品質も担保できているんですね。
平川:むしろ沖縄より良いくらいです。
安倉: それはすごいですね!品質が沖縄よりも良い理由は何だとお考えですか?
平川:沖縄で培ったノウハウをまるまる持ってきたというのが、もしかしたら小さな成功要因かもしれませんが、大きな理由はカルチャー作りですかね。
安倉: カルチャー作り、というのは具体的にどのような?
平川:採用する際は、ほぼキャラクターで決めました。これが上手くいったと思っています。特に日本語能力が高いとか、エクセルスキルが高いというのは全く無視して「一緒に働きたい」と思う人だけを集めて、カルチャーを作ってきたのが良かったのかもしれません。
安倉: なるほど。すごく興味深いですね。言語依存する部分も多少はあるじゃないですか、日本の仕事なので。それでも品質を担保できているのは、そういうカルチャーが背景にあるんですね。
日本のディレクターや営業とやり取りする時には、日本語がかなり上手な人が一次受けをしているのですか?
平川:しないです。直でやってます。日本語が喋れないと、彼らは満足しないので。
安倉: いわゆるスタッフレベルの方も直接されているのですか?
平川:はい。うちは200人中リーダーは7人しかいません。彼らは業務フォローではなくて完全にマネジメントを行っています。面談も担当してもらっています。
安倉: 完全にマネージャーですね。
平川:そうです。そういったマネジメントスタイルってベトナムには存在しないじゃないですか。
安倉: 無いですね。僕も初めて聞きました。
平川:工場の品質管理みたいなアウトプットの中にミスが無いかのチェックをする、というのはよく聞きますが、それ以外のマネジメントまで行うマネジメント職っていないですよね。それを構築しようと試みています。
コミュニケーションの質の高さが、オペレーションの質を上げる。
安倉: N3くらいの人材でもコミュニケーションはなんとかなりますか?
平川:なんとかなりますね。ベトナムに拠点を作ると経営判断をしたからには、日本側もそこは寄り添わないといけないというスタンスでやっているので。沖縄よりもコミュニケーション取りづらくなったなんて文句言ってないで、そこはやろうよと。
安倉: なるほど。では、品質が担保できているというのは具体的にどのようなことでしょうか?
平川:要求以上のものはなかなか出てきませんが、要求通りのものはほぼ出てきますね。ミスも月に1件あるか無いかくらいです。
安倉: ミスも少ない。
平川:理由は色々とあります。マルチでやっていたものを完全にラインで固定してるので、専門性が高まってミスが無くなったというのはあるとは思います。
安倉: すごく興味深いですね。
平川:最近よく色々な会社さんから話を聞かせてほしいとご連絡をいただきますが、僕が「ベトナムは良いですよ!」と言うと、疑われますね。「本当ですか?」みたいな。
コミュニケーションの質の高さがオペレーションの質を上げると思っているので、コミュニケーションは非常に大事にしています。なので、一番最初のキックオフでは、沖縄にいる40名を全員ベトナムに連れてきました。全員で100名弱でホテル借りてキックオフして、クオーターの目標を決めました。
安倉: 沖縄の40名というのは、どういう役割の人たちですか?
平川:広告部隊のメンバーですね。その後の下半期は沖縄のマネージャーだけ来てもらって、こちらのメンバー全員とキックオフをやって、個人の目標を決めたりチームの目標を決めたりしました。
安倉: 目標ってどういう目標なんですか?数ですか?質ですか?
平川:両方ですね。営業みたいに完全に数値化しているんです。全てポイント化してあります。そのポイントと、日本からの移管件数など4・5個くらいKPIはあります。
安倉: 売り上げみたいになるんですね。
平川:そうです。ミスしたらポイントが引かれるとか。
安倉: なるほど。マネジメントですね、本当に。
平川:最近はベトナム人でもできるようになってきたので、一部の人は日本人のサポート無しで
安倉: すごいな。日本語がこれだけできる人を200名集めるって、ほとんどの人達から無理だと言われませんでしたか?
平川:言われましたね。10社以上の担当者の方から100名でも無理ですと言われたんですけど、「いや、やるんです」と言ってやりましたね。
安倉: それで、実際に集められたわけですもんね。
平川:半分くらいはかじってる程度なんですけど、なんとかなります。
安倉: 300名くらいまで一旦増やしていく感じですか?
平川:3月末までの計画ではまだ220~230名ですが、どんどん増やしていくつもりです。
広告も今後海外、インバウンド、アウトバウンドをやっていく予定なので、そういった仕事は増えていきますね。
安倉: 広告のインバウンド、アウトバウンドとはどういうことですか?
平川:今は世界中にゲームの会社がありますよね、北欧とかにも結構あるんです。代理店がそれらの会社に対して「日本でもそのゲームを展開しませんか」と提案をして、日本にあれだけの広告を出稿してるんです。
そのように海外の会社に「日本で出稿しませんか」というのがインバウンド。海外展開したい日本の企業に対して「現地で広告バイイングしますよ」というのがアウトバウンドです。
安倉: 代理店ですね。
平川:そこをやろうと思っています。セールス部隊もいますので。海外に対して配信するのはうちで全部一括でやるという感じですかね。今、台湾でもやってますし。
安倉: これからベトナムでもインターネット代理店業も進めていこうと思われているのですね。なぜそのように思われたんですか?
平川:我々は、日本の運用型広告市場では圧倒的ナンバー1です。運用型広告はちゃんとした運用ノウハウが大事なので、日本で培ったものを世界に出していく。我々の運用力は世界でもナンバー1ということを証明したいと思っています。
「あそこには勝てない」と言われる会社にならなければならない。
安倉: なるほど。まだ未知数だとおっしゃっていた、3つ目の課題の“定着”ですが、苦戦されていますか?
平川:だいたい入社して2週間くらいで辞める人もいたりしますね。本音はなかなか言わないので、そこのマネジメントも基本的にベトナム人に任せています。
安倉: もう任せて。
平川:ベトナム人同士だとそれなりに出てくるんですよ。「これは日本人には言わないで」みたいな感じで。でも、リーダー陣とは握れてるので報告してくれるんです。年4回査定やっていますが、そこでわかりやすく成果を可視化するなど工夫をしています。良い人は上げる、ダメな人は上げない、というのを。
安倉: 年4回って結構マネジメントコストかかりますね。
平川:大変ですよ。目標設定も大変ですし、面談も大変ですが、そこはきちんと取り組んでいます。
安倉: 今後のベトナムでの事業展開は、マーケットも取りに行くという感じですか?
平川:そうですね。それもそうなんですが、一言で言うとやっぱり、ベトナムで1番の会社を作りたいです。
安倉: 業界とかも全部取っ払って。
平川:誰がどういう基準で良い会社って言うかはわからないのですが、少なくとも自分たちは「我々は1番の会社で仕事をしてる」って思えるような会社にしていかなくちゃいけないと思っています。
それには数字的な実績も必要ですし、規模もある程度必要かもしれない。社内制度は全部整えていって、少なくとも日系企業さんからは「あそこには勝てないよ」と言われるくらいの会社にならないと出てきた意味は無いかなと思っています。
アジアでナンバー1を獲り、世界に出る。
平川:広告のマーケットは本気で取りに行くつもりです。沖縄でも1番を獲らなくちゃいけないですし、ホーチミンでも1番を獲らなくちゃいけないので、結構大変です。
安倉: 大変ですよね。
平川:人を育てなければならないですし、そもそも、明確にこれをやれば1番というのが無いので、そこからみんなで話し合って決めていかなければならないですしね。
「運用型の会社としてアジアでナンバー1を獲りに行こう」という話は現場のメンバーにしています。そして、「アジアでナンバー1を獲ったら世界に行こう」って。
安倉: 夢がありますね。
リーダータイプの育成が今後の課題。
安倉: 今までベトナムの良い点の話だったと思うんですが、これは結構厳しいなとか感じたことありますか?
平川:やっぱりリーダー経験がある人が少ない点ですね。漠然とでも「リーダーとはこういうものだ」というイメージがあればいいのですが、やっぱりさっきお話した工場のラインの品質チェックぐらいが彼らにとってのリーダーという概念なので、リーダー人材が枯渇してるのは感じます。
我々は全くそんな気は無いんですが、雇い側と雇われ側で変な壁が出来てしまっていて。僕らは全くそんなことなく、同じ目線でフラットに考えているのですが、勝手にそういうのがあったりとか。でもそれくらいですかね。それ以外は、無いです。
安倉: コミュニケーションは、日本側に噛み砕いて喋ってほしいというのを伝えている感じですか?
平川:はい。一回顔を合わせればそんなに問題はないですね。シチュエーションがだいたい半分くらい解決してくれるじゃないですか。このシチュエーションだったらこういうことを言ってるというのがあるので。なので、結構日本にも行ってもらっています。今現在も5人くらい沖縄に行っています。
安倉: 沖縄にどれくらいの期間いらっしゃるんですか?
平川:長い人で3ヶ月とかですね。
安倉: コストかかりますよね。
平川:そうなんですけど、やっぱり懇親会費も然り、コミュニケーションをすごく大事にしているので、そこには惜しまない方針にしています。
安倉: 投資ということですよね。
平川:そうです。やっぱり、会ったことがない人と仕事するって結構きついじゃないですか。人となりがわからないし、どういう人かわからないと意図が絶対伝わらないので。
なんなら「東京行って飯食ってこい」ぐらいな感じですね。沖縄は結構それをやってます。出張申請が上がってきて何かと聞いたら「懇親会がある」って。それでその後の仕事が上手くいくんだったら、それでいいでしょうと思っています。
逆に他の企業の皆さんは、どんなことに困ってらっしゃいますか?
安倉: やはり、突き詰めるとリーダーシップですね。どんな問題も、突き詰めるとリーダーになる志を持つ人が少ないということが問題だったりします。
例えばリーダータイプ、マネージャータイプっていると思うんですが、人を引っ張っていくという姿勢の人はまだまだ少ないかもしれません。
平川:ですよね。特にうちは営業会社じゃないので、その中からリーダーというと、普通よりも難易度が高いんですよね。
安倉: なるほど。リーダーになる人って主体的ですよね。「こう思うんですけど」とか、「変えてくれません?」とか、「これ買いたいんですけど」とか、勝手に上がってくるじゃないですか。
でもそうじゃない人って、待ってるんですよね。待ってる人がまだまだ多いんですよね、ベトナムは。だけど業務を任せたら、ちゃんとやってくれるので、そこの感覚がすごく不思議というか。専門職思考なんですかね。
平川:かもしれないですね。
安倉: マルチであまりやりたがらない。でも、リーダーってマルチな思考が必要じゃないですか。
平川:あと、リスクを取りたがらないんじゃないですか。リスクを取るということを経験してきていないんでしょうね。
安倉: たしかに。経験が無い分、マインドがまだ未成熟なのかもしれませんね。
会社作るくらいの覚悟が必要。
安倉: 最近は日本人でもベトナムに来て働いてみようかなとか、別にベトナムとイメージしていなくても、アジアで挑戦してみたいと思っている人が結構増えてきています。
ベトナムに来て活躍できる人とは、どういう人だと思われますか?スキルというよりも思考という部分において。
平川:安倉さんみたいに自分で会社作るくらいの人が活躍すると思いますね。そのくらい覚悟が決まってる人であれば、いけると思います。
安倉: 御社のグループの方から「ベトナムでやりたいです」と相談を受けることはあったりしますか?
平川:CA Advanceには結構いますね。家族で来たいとか、覚悟が決まっている人のほうが上手くいくような気がします。最初「ずっといます!」って言ってた人も、なんだかんだいって半年で帰っちゃったりとか、結構ありますからね。
安倉: そうですよね。それはうちも全く一緒で「俺は絶対死ぬ気でやります」と言った人でもダメな人もいっぱいいて。
平川:最初の意気込みで、覚悟決まっていればよくて、結果は別にいいと思うんですよ。1年で帰っても2年で帰っても。最初に「1年限定で行かせてください」というのは、ちょっと違うかなということですね。
安倉: それはすごく思います。結果はどうあれ、骨を埋める覚悟は持ってきてほしい。日本で普通にできてたら、どこでもやっていけるんじゃないかという感じはあります。やる気のほうが大事。
平川:わかりますね。沖縄の0からの立ち上げの時も、ベトナムの時もそうなんですが、諸先輩方に話を聞くと大体みんな文句言うじゃないですか。「沖縄のやつは使えない」とか、「ベトナム人はダメだ」とか。そういう話だったら聞かないほうがいいと思いますね。
安倉: 全く同じです、僕も。ベトナムの最初の1年間で本当につらかったと思うのはそこでした。
平川:そうなんですよね。そういう人の話を聞いてると、こういう考え方はダメなんだと、反面教師にはなりましたね。
安倉: まさにそうですね。大変なのはわかるんですけど、どこでも大変ですからね。東京のほうがもっと大変なこともあるし、大変さが違うだけだと思うんです。東南アジアに出てきてやるというだけで大変というのは違いますよね。
改めて、今後の戦略ですが、サイバーエージェントグループとしては、CA Advanceさんを起点にしてアジアを攻めていくということでしょうか?
平川:そうですね。
安倉: 日本では営業部隊がサイバーエージェントで、中身がCA Advanceということですよね。それを東南アジアでは全部やっていくという。
平川:ですね。やっぱり優秀な人が欲しいので、魅力あることをやっていく必要があると思っています。とにかく良い人を採用したいので。
安倉: 魅力的な環境を作り、良い人を採用していきたいですね。そして、日本から優秀な人達が来てくれて、ベトナム人で優秀な人達には日本に行ってほしいと思いますよね。
本日はお時間をありがとうございました。
平川:相乗効果を上げていきたいですね。こちらこそ、ありがとうございました。
<取材協力先企業>
CA ADVANCE VIETNAM Co., Ltd.
Address:TANG 21 CENTEC TOWER 72‐74 NGUYEN THI MINH KHAI,Q.3,TP.HCM
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■Interviewer
ICONIC Co., Ltd.
代表:安倉 宏明
■Writing
ICONIC Co., Ltd.
桝田 亮