【タイ労働法コラム】第20回:就業規則及び雇用条件協約の作成

GVA法律事務所・タイオフィス代表の藤江です。本コラムでは、タイの労務管理について、日本との違いを踏まえた上で、法的に解説していきます。
今回は、就業規則や雇用条件協約で定めるべき事項について解説します。

 

就業規則の作成義務

タイの労働者保護法(以下「LPA」といいます。)では、10人以上の従業員を雇用する企業は就業規則を作成することが義務付けられており(LPA第108条)、これに違反した場合には罰金が科せられるおそれがあります(LPA第146条)。もっとも、従業員数が10人未満であっても、人事労務管理を効率化する等の観点から、就業規則を作成している企業も多いでしょう。なお、タイの労働局がウェブサイト上で就業規則の雛形を公開しており、この雛形を利用して就業規則を作成する企業も多いようです。

就業規則には、次のことについての規定が必要とされています。
 1. 労働日、所定時間、休憩時間
 2. 休日、休日取得についての事項
 3. 時間外労働と休日労働
 4. 基本給、時間外労働手当、休日労働手当、休日時間外労働手当についての支払日と支払場所
 5. 休暇、休暇取得についての事項
 6. 服務規律、懲戒
 7. 苦情の申立
 8. 解雇、解雇補償金、特別解雇補償金

LPA上、就業規則はタイ語での作成が義務付けられています。そのため、英語や日本語で就業規則を作成する場合には、併せて必ずタイ語版も作成しなければなりませんし、複数の言語で就業規則を作成する場合には、各就業規則の間で内容に齟齬が生じないよう注意が必要です。

 

就業規則の作成に際して注意すべき事項

就業規則を作成する際、従業員が遵守すべき服務規律について明確に規定しておくことが重要です。というのも、タイでは、懲戒解雇できる場合が法律上限定されています(LPA第119条)。その一つに、「使用者が文書で警告書を交付したにもかかわらず、就業規則、社内規程又は使用者の合法かつ合理的な命令に違反した場合」があり、これを根拠として懲戒解雇するケースが多いのですが、明示的に定められた服務規律に従業員が違反したケースでなければ、就業規則に違反したとはいえないとして、懲戒解雇が無効とされてしまうおそれがあります。

また、LPA上は要求されていませんが、職務発明や職務著作など知的財産の取扱いについても規定しておくべきでしょう。例えば、タイの著作権法では、従業員の著作物の著作権が、日本とは逆に、書面での別段の合意がない限り従業員に帰属し、企業はこれを公衆に伝達する権利があるにとどまります(タイ著作権法第9条)。それゆえ、知的財産をめぐるトラブル防止のため、知的財産の帰属や対価について定めておくことが望まれます。

もちろん、この知的財産の取扱いなど、就業規則での定めが要求されていない事項について、就業規則ではなく雇用契約書で個別に定めることも可能ですが、就業規則で定めておく方が便宜であると思われます。

 

雇用条件協約の作成義務

次に、タイの労働関係法(以下「LRA」といいます。)では、事業所の従業員数が20人以上となる場合、以下の事項を定めた雇用条件協約(労働条件協約)を労使間で書面により締結することが必要とされています(LRA第10条、第11条)。
 1. 労働条件
 2. 労働日、所定労働時間
 3. 賃金
 4. 福利厚生
 5. 解雇
 6. 苦情申立
 7. 雇用条件協約の改正、更新の手続

雇用条件協約の有効期限は、3年を超えない範囲内で、労使間で合意することとされていますが、仮に合意がない場合には1年とみなされます(LRA第12条)。また、有効期限満了時に新たな協約について労使間で協議されていない場合は、既存の雇用条件協約が再び1年間有効とされます(LRA12条)。

なお、仮に事業所の従業員数が20人以上であるにもかかわらず雇用条件協約が締結されていない場合、LPA上での作成が義務付けられている就業規則が雇用条件協約とみなされることとなります(LRA第10条)。

なお、雇用条件協約には、その事業場の全従業員に効力が及ぶという一般的拘束力(LRA第19条)や、従業員にとって有利なものを除き雇用条件協約に違反または矛盾する雇用契約が無効となるという効力(LRA第20条)が認められる場合があります。

 

まとめ

以上のとおり、タイの企業は、従業員数に応じて、所定の事項を定めた就業規則を作成し、雇用条件協約を締結しなければなりません。また、これらの作成・締結が義務付けらない場合でも、人事労務管理の効率化等のため、少なくとも就業規則については作成しておく方がよいでしょう。

もっとも、ひとたびこれらを作成・締結した場合には、企業はその内容に従って労務管理しなければなりませんし、企業が一方的にその変更ができるとも限らない点には注意が必要です。この、就業規則の変更手続については、本コラム「第17回:就業規則の効力と変更手続」をご参照ください。

 
<本記事に関するお問い合わせはこちら>

GVA法律事務所パートナー
タイオフィス代表・日本国弁護士:藤江 大輔
Contact: info@gvathai.com
URL: https://gvalaw.jp/global/3361

日本国弁護士

日本国弁護士

ICONIC

09年京都大学法学部卒業。11年に京都大学法科大学院を修了後、同年司法試験に合格。司法研修後、GVA法律事務所に入所し、15年には教育系スタートアップ企業の執行役員に就任。16年にGVA法律事務所パートナーに就任し、現在は同所タイオフィスの代表を務める。

記事をシェアする

関連する記事