こんにちは、パクチー丹羽です。
今年もホワイトデーがやって来ましたね。
バレンタインのお返しに何かしないと……と思いつつ、毎年ネタ切れに困っているそこのアナタ。
チョコよりも甘~い時間を提供すれば勝ち! ということで、最高のロケーションに彼女を呼び出し、愛を伝えてみてはいかがでしょう?
大都会ホーチミンにも、そんな、ロマンチックなスポットあるんです。
舞台はサイゴン川。ホワイトデー決戦が今、幕を開けます。
第10話
Saigon River in Ho Chi Minh City
~夕暮れに染まる川面と君~
モタモタしていたら、あっという間にホワイトデーが来てしまった。
“俺、あやなとヨリ戻すつもりです。ホワイトデーに、告白するって決めましたから”
腕時計を見る。
16時53分。
定時の17時過ぎたら、すぐにあやなを誘おう。
こうすけには悪いが、同じ会社だからこそできる抜け駆けってやつだ。
それにしても、本当にあやなが幼馴染だったとは……。
あやなが入社してきた頃が、懐かしい。
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『そろそろ、準備するよ!』
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あやなは、ずっと知っていたんだ。
……はっ!
そんなことを思いながら仕事を片付けていたら、もう17時だ。
急いであやなを誘いに、隣の部署まで行く。
「あれ? 先輩、あやなどこに行ったか知ってますか?」
「もう帰ったよ」
「え、ええ! あ、ありがとうございます」
完全にやらかした。
普段は17時ちょっと過ぎくらいまではいるはずなのに、今日はきっちり定時に出たのか。
このままだと、こうすけに先を越されてしまう!
でも、どこで会っているんだろう。
ホーチミンの告白スポットと言えば……前に同僚のベトナム人が話していた、あそこだろうか。
急いでオフィスを出る。
いた。やっぱり。
サイゴン川越しにホーチミン市が綺麗に見える、ここだよな……。
週末はカップルや観光客で賑わっているが、今日は平日だからか、まばらにいる程度だ。
「あやなっ」
『え、まもる! なんでここに……』
「あやなが幼馴染だってこと、今までずっと思い出せなくてごめん!」
急いで2人を探しに来た勢いに任せて、ずっと謝りたかったことを口にする。
今は、何故僕がここに来たかとか、そういう話は、いい。
「遅すぎるだろ、気が付くの」
こうすけは、すかさず僕を責める言葉を突きつけてきた。
僕とあやなが幼馴染だったこと、知ってたのか。
『い、いいの! もう、いいの・・・』
対岸のホーチミンのビルの間から、目を開けられないくらい眩しい夕日が僕たちを照らす。
サイゴン川を渡る貨物船のボーッという汽笛だけが響く。
「なあ、あやな。俺はまだあやなのことが好きだ」
「また、俺と付き合ってくれないか」
沈黙を破ったのは、こうすけだった。
俺も、あやなに今想いを伝えなかったら絶対後悔する。
意を固めてここまできたんだ。
「……俺は……小さい頃のあやなとのこと忘れてた。最低だと思う。それに、こうすけさんの方があやなと一緒にいた時間は長いし、俺より知ってることも多いと思う」
「だけど・・・俺もあやなのことが、好きだ」
また、少しの沈黙が流れた後、サイゴン川を見ながら、あやなが口を開いた。
『こうちゃんは、本当に今まで大事にしてくれたけど、やっぱり戻るのは無理だと思う』
あやなは、はっきり断りつつも、こうすけの顔が見られないのか川面を見つめたままだった。
「俺じゃ……だめなのか? 今は、俺もこうしてホーチミンに住んでるし、あやなの近くにいられる」
『・・・ごめん。だけど、こうちゃんじゃ、ダメなんだ』
「・・・そっか」
こうすけは、あやなが一度決めたら変えない性格なのを知ってか、それ以上問うことはなかった。
そして、何も言わずにこの場から離れていった。
『こうちゃんは、優しいし、かっこいいんだけどね』
こうすけが見えなくなって2人きりになってから、あやなが口を開いた。
『ねえ、まもる・・・実は、言わなきゃいけないことがあるんだ』
「何?」
『私、4月から1年間マレーシア支社に異動になったの』
「……えっ」
一瞬、頭が真っ白になる。
ってことは、あと2週間後には、あやながいなくなるってこと?
「うそだろ……そんな突然」
1年間もあやながホーチミンにいないなんて。
一緒に飯行ったり、お茶したり、あやなのワガママな買い物に付き合わされたり・・・当たり前だと思っていたことが、全部できなくなるなんて。
そんなの、耐えられそうにない。
『だけど・・・』
『まもるのこと、好きになっちゃった。・・・どうすればいいかな?』
「え、す、好きって俺のこと!?」
ずっと聞きたかった、嬉しすぎる言葉に、動揺した。
あやなも、俺のことを好きになってくれるなんて。
『聞き返さないでよ。恥ずかしいじゃんっ。あーあ、ずっと一緒に居られたらいいのにな~』
サイゴン川の強い風に吹かれて、照れながら笑っているあやなを見つめる。
嬉しさと、寂しさが同時に込み上げてきて、この気持ちをどう処理すればいいのかわからない。
お互い好きでも、離れなければならない。
マレーシアで頑張るあやなのために、付き合わない方がいいのか、遠距離でも付き合うべきか……。
「俺も、ずっと一緒にいたいよ」
サイゴン川編-完-
ここまで、10話に渡ってお伝えしてきた「ホーチミンに恋して」シリーズ。
ついに両想いになったまもるとあやなですが、あやながなんとマレーシアに異動。
2人はどう答えを出すのでしょうか。
次回はついに、最終話。
どうぞラストまでお見逃しなく!
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