本稿ではミャンマーの結婚に関する法制度について解説します。
第1.はじめに
近時、ミャンマーに居住する日本人が増加しつつあり、それに伴い、日本人とミャンマー人が結婚する件数も増加しています。このような場合、日本の結婚に関する法令のみならず、ミャンマーの法令も関係してくるため、ミャンマーの結婚に関する法令について解説します。1898年ビルマ諸法(“Burma Laws Act, 1898”)13条1項は、「ミャンマーでの訴訟その他手続において…婚姻…に関する問題につき、裁判所が判断を下さなければならない場合、両当事者が仏教徒の場合は仏教徒法に、イスラム教徒の場合はイスラム法に、ヒンドゥー教徒の場合は、ヒンドゥー教法に基づいて判断を行うものとする。」と定めており、婚姻については、それぞれの宗教に応じた法が適用されます。そこで本稿では、ミャンマーの人口の約90%を占めるとされる仏教徒の結婚にしぼって解説します。
まず、結婚の両当事者が仏教徒の場合は、1898年ビルマ諸法13条1項により、仏教徒法が適用されます。
では片方の当事者が仏教徒の場合どうか。同条3項は「同条1項又はその他の法律によって定められていない場合は、正義、公平及び良心に基づいて判断が行われる」(同条3項)と定めています。「その他の法律」として、夫が仏教徒で、妻がそれ以外の宗教の信者(ヒンドゥー教、シーク教又はジャイナ教)の婚姻の場合、1872年特別婚姻法、妻が仏教徒で、夫がそれ以外の宗教の信者の場合については、2015年女性仏教徒婚姻特別法が適用されます。
第2.仏教徒同士の結婚
仏教徒法とはミャンマー慣習法ともいい、ミャンマーの仏教徒同士の結婚において最も重要な要素は、互いの合意です。互いに結婚するという合意があったかどうかが、後に争われた場合には、同居、結婚式の有無、夫婦としての公言の有無などの要素を勘案して、合意があったか否かを判断することになります。
また、婚姻する当事者は、その他に有効な婚姻関係にないことが必要です。
近親婚は禁止されているものの、何親等以内であれば禁止されるかといったことは明確には述べられていません。
なお、結婚できる年齢は特段定められていません。
第3.仏教徒の夫とそれ以外の宗教の信者(ヒンドゥー教、シーク教又はジャイナ教)の結婚
1.要件
特別婚姻法2条は、婚姻の要件として以下のものを定めています。
①すでに妻又は夫がいないこと
②男性は18歳以上、女性は15歳以上
③21歳以下の場合、両親又は保護者(guardian)の同意
④当事者同士が血族又は姻族関係にないこと
2.手続
当事者はまず、結婚意思通知書を地域の登記官に提出します。
提出を受けた登記官は誰でも閲覧可能な「結婚通知簿」にその通知のコピーをとじます。通知提出から14日以内に誰からも、上記要件が欠けている旨の異議が出なかった場合、結婚の儀式を挙げることができます。
異議があった場合は、登記官は異議の受領から14日以内は、結婚の儀式を行えません。異議者は、婚姻の無効につき裁判所に訴え出ることができ、その場合、裁判所が当該婚姻が上記要件を満たすかどうかにつき判断し、登記官は、そのような裁判所の判断に従わなければなりません。
結婚の儀式においては、当事者と三名の証人が、登記官の面前で、宣誓供述書に署名した上、当事者が、三名の証人と登記官の面前で、誓いの言葉を述べます。結婚の儀式は登記官の事務所又はその他の場所で行います。
その後、登記官は当事者と三名の証人が署名した宣誓供述書を結婚証明書簿にとじます。
第3.女性仏教徒婚姻特別法
1.要件
女性仏教徒婚姻特別法4条は、婚姻の要件として以下のものを定めています。
①当事者双方が18歳以上
②当事者双方が精神的に正常
③自由意志で同意していること
④女性が20歳以下の場合は、両親(両親が死亡している場合は保護者(guardian))の同意
⑤すでに妻又は夫がいないこと。
2.手続
妻が仏教徒で夫が非仏教徒の場合と、その逆の場合では踏むべき手続に大きな差異はありませんが、前者の場合、異議申し立てのための申請周知手段が、役所の前の掲示及び両親や前妻、前夫への通知とより、周知可能性の高い手段が取られている点などが異なります。
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