アウトソーシングできる業務とは(1)~タイの経理現場から~

ここ数回、ずっと新型コロナの話題ばかりで、書いているほうも心が晴れないのと、これを読まれている方も前向きになれるきっかけになれればという思いも込めて、今回からは久しぶりの業務ネタをお届けします。

前回までの新型コロナの影響で今後は業務の在り方もテレワークが中心になっていくことや、場合によってはリモート進出なる会社も出てくるかもしれないとも少しご案内もしました。そもそも現状の経理業務を中心としたバックオフィス部門の業務でどれだけのことが内製化の中で対応でき、その反対にどの部分を外注化(アウトソーシング)できるのか、というテーマは実は当社のような会計事務所にとっては伝統的な営業の切り口でもあります。

そして、依頼企業にとっては、経費削減や業務効率化の切り口になるので、組織運営上究極的にはどの業務にどんな役割の人員が配置されるべきかという投入リソースの戦略であることから、採用戦略に影響することでもあります。

こういった背景もあり、企業側としてはコストを最小限に抑えたリモート進出の可能性を検証しながら、当社のようなアウトソース先としてはどれだけ貢献できるという観点に立ちながら、じっくりとアウトソーシングというものに向き合っていくつもりでご案内させていただきます。

もちろん、いつものように企業の経営者や海外部門の方、今後海外就職を目指す求職者の方も含めて、参考になるようそれぞれの観点での解説も入れていきます。

早速ながら当社が会計事務所としてアウトソーシングを受ける立場から、これまでの実際のクライアントとの具体的なやり取りや経験を踏まえた切り口でいくつかの具体的事例を検証していく形で紹介していくことにします。

まず最初の事例としては、タイに初めて進出する会社を想定したものです。当社でもこのタイプのクライアントが事例としては一番多いです。
前提としては、日本では上場及び非上場問わず、タイではサービス業ということで話を進めます。上場、非上場で対応が変わってくるところは本文の中で具体的にご案内しますが、どちらにせよ、最初の進出の際はミニマムスタートとして人員、資本ともに小規模で進出することが多いです。

タイでは外国人事業法の絡みで資本金規模としてはミニマム2百万バーツ、この金額だと日本人に発給するVISA/WPは1名だけですので、この2百万バーツの倍数ということが多く、ほとんどのクライアントが2百万バーツか4百万バーツを選択します。
そして同じく外国人事業法の絡みでは資本規制も避けることができません。特にサービス業においては100%独資での進出が困難なため51%以上のタイ資本を工面するための座組みの検証も必要です。

この時点でお気づきかもしれませんが、進出前のFS(フィーシビリティスタディ)だけならまだしも、こういったタイ特有の規制といったことを踏まえた対応力ということでは、初めてタイに進出するクライアントはお手上げか、もしくは知識・経験不足のため、外部のコンサルや金融機関、会計事務所、弁護士事務所などを活用することが必須となります。

よって、アウトソーシングせざるを得ない最初の業務はこういった資本戦略を踏まえた座組みの考察や実施手段の選択と調整になります。提供側の目線で簡単に言うと、進出前コンサルティングサービスというものになります。
 
このサービス内容はクライアントの規模や、上場・非上場の別、ポリシー、予算感などによって大きく異なります。また、これらは過去事例やリスク判断根拠の情報提供など、提供側の知見を結集したサービスともなり、何を選択するのか非常に重要になります。

金融機関やJetroなどの政府系機関は確かな情報を提供してくれますが、それは一般論的な範囲で、具体的な実施サポートまでは提供してくれません。専門家にアウトソーシングすることが一般的です。それこそ確かな信用力と実績があるところにアウトソーシングするべき業務になります。

通常は新規法人設立とセットでのサービスとなることからも、依頼するクライアント側からすれば会社を設立してもらう先に相談するという観点での声がけになります。当社のような会計事務所に依頼がある場合は、設立後の会計事務業務も見据えてのことが多いです。

もちろん当初から進出規模としておおがかりで、座組みも複雑、そのため関係者が多くなるときなどは別途独立した業務として請け負うこともあります。そういった場合はMA関係の話の中で出てくる可能性が高いです。やや話がそれますが、ここ数年耳にすることも多くなってきたクロスボーダーのMAにはもちろん会計士をはじめとする専門家が日本側含めて一般的にもなってきました。相手先が海外にある会社であればなおさら、現地に根付いた専門家にアウトソーシングすることも多くなっていきます。

話を元に戻して、この新規法人の設立代行もアウトソーシングとしてタイでは通常不可避のものです。タイではとあるのは、正確に言うと、設立関係書類など公的機関に提出する書類がすべて現地言語を義務付けているというのが大きな特徴のため自社対応が不可能に近いことによります。日本本社側で現地言語のネイティブスピーカーや専門家がいない限りは現実的でないことを想像してもらえればわかりやすいと思います。

これは知る限りベトナムも同じと言えます。他にも英語を母国語としない国では同じような事が当てはまるでしょう。

もっともシンガポールなどはもちろん英語も公用語としているので英語で申請できます。ただし、現地で登記時に秘書役が必要になるなど、現地に精通した専門家に任せるのが何かと安心ですので、わずかな設立報酬を削ってまで自社で設立するというのはあまりお勧めはしません。

また、タイの場合は設立書類には弁護士や経理の有資格者の署名が必要となってきます。その部分だけを請け負うアウトソーシング先は聞いたことはないので結局は完全に任せてしまったほうがトータル的にもかけるコストに見合うものとなるはずです。

ここまでのところで、さんざんアウトソーシングしか現実的ではないと言っておきながら、あえて進出クライアントの立場で、そうは言っても可能な限り内製化したい場合にどこまで対応可能かを少し検証してみます。

進出後の事業規模拡大をある程度見越し、そのための専門家の採用予算もあることが前提であれば、このような対応が可能です。
社内の海外事業部門や海外進出時対応の専門家を外部から採用、もしくはそういった人材を既に抱えていて、その指揮のもと、現地ローカルスタッフの採用においても、ある程度進出時の会社設立などに対応できる経験者などを最初からそろえるというものです。

今時、最初からそこまでの予算を人材にかける企業があるか最近は聞きませんが、複数国へのグローバル展開をある程度前提において動く会社であれば、拠点数さえこなせば一番リーズナブルでノウハウの蓄積にもなります。逆に言うと、そういった経験をある程度積んできた方にとっては、海外駐在員の立ち上げ要員として本社にも採用されやすいということになります。実際私の身近なところでも過去に何人かはいらっしゃいました。ただ、留意すべきはノウハウの蓄積は逆にノウハウの流出にもつながりやすいとも言えますので、そういった意味では会社側にとっては諸刃の剣かもしれません。組織力としてノウハウが蓄積するのであれば大きな問題にはならないかもしれませんが、すべてがその個人の力に集中するようだと、抜けられてしまっては何のために時間とコストをかけてきたかということにつながりかねません。

今回は、最初の想定事例の会社設立時点で紙面がつきてしましました。本テーマは非常に奥深いものですので、複数回にわたってシリーズでお届けしますので次回以降も引き続きよろしくお願いします。

 
<本記事に関するお問い合わせはこちら>
Accounting Porter Co., Ltd.
Web:http://aporter.co.th/

タイ在住歴8年・累計100社以上のご相談に対応

タイ在住歴8年・累計100社以上のご相談に対応

但野和博(外部ライター)

Accounting Porter Co., Ltd.にてManaging Directorを勤めています。弊社は日本からの進出や会計サービス全般をタイ国で提供して6年経つ会計事務所です。代表である私が日本で2社の上場会社のCFO通算6年の経験を活かして親身なサービスを提供できるよう心がけております。 これまで累計100社以上のお客様からご相談いただいた様々な実例もあり、本コラムではそんな実例の中からタイで就業するあるいは就業を想定した方向けに駐在員、現地採用の方を問わずお役に立てる情報をお届けしようと思います。 内容としては身近な給与などの取扱いから、経理処理、はたまたそれらをひっくるめたタイの日系企業で身近に起きたことなど雑感的なところも交えながら、気軽に読めるようなトーンで展開していきますのでどうぞよろしくおねがいします。

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