アウトソーシングできる業務とは(3)~タイの経理現場から~

前回までの続きで今回はいよいよ私にとっては本丸(!?)の事業開始後の会計・税務周りのアウトソーシングできる事業という観点でご案内します。

一連の税務登記や社会保険登記といった準備も完了して、さあこれで経理周りも整ってというところから入ります。

今回は最初に結論からお伝えしましょう。

話の前提である進出したばかりの会社や、従業員数20名以内規模の会社であれば、間違いなくアウトソーシングとして会計・税務申告代行業務を外部に委託したほうが賢明です。あたかも宣伝のようですが、曲がりなりにも現場で8年みてきた経験からも、上記の規模感の会社であれば、最初から内製化している会社よりもそのほうがうまくいっている確率が確実に高いからです。

コスト面の問題

その理由としては2つあります。
一つはコスト面です。というのは、経理周りの処理という定義でくくる場合、対応する人員の給与水準と外部にアウトソーシングする外注費はほぼ同じ程度か、求める内容によっては給与水準の金額のほうが高い場合もあります。同じくらいだったら、最初から内部体制固めとして組織上も経理部みたいなものを設けたいという考えももちろんあるでしょう。経営者観点としても自分の傍にプロパーで経理のスタッフがいることは安心です。しかし、ちょっと考えてみてください。その経理スタッフは日本語か英語でコニュニケーションが取れることが前提になっていないでしょうか?または間に社内通訳や通訳ができるアドミンスタッフ的な人員を想定しているのではないでしょうか?

賢明な皆さんはお気づきでしょう。そうです、少なくともタイでは日本語はもちろん英語でビジネス上のコミュニケーションをとれる経理スタッフはほぼいないか、いたとしてもマーケットバリューが高く、通常の倍くらいになります。ましてや社内通訳など採用した場合にもその分追加コストにもなりますし、しかもそのような通訳の方は得てして経理などの専門知識を持ち合わせていないのでちぐはぐな通訳になります。
いわゆる目に見えるコストもそうですが、コニュニケーションコストの部分として追加で発生するような時間といった目に見えないコストも発生するということです。

ちなみに、進出したばかりの会社でよくある勘違いとしては、経理スタッフが1名いれば、庶務的なことも含めて全部対応してくれるものと考えてしまうこともあります。またはその逆で庶務的なアドミンを1名採用すれば彼女(彼)が経理も含めて全部対応してくれるという考えに至ることもあるかもしれません。

ここタイ、おそらくベトナムなどでも通常経理・税務業務とアドミン業務はローカルスタッフの方にとっては業務領域が全く異なるという認識のため、一人二役はよほど個人事業レベルの会社などで最初から納得した上での採用でないと難しいです。能力的にはできても心情的に受け入れできないということです。

ですので、今回取り上げている経理・税務業務というのはあくまでもアドミン業務を含まないという前提でのお話になります。そういう意味ではアドミン業務に対応するスタッフは別途採用して内製対応するのが通常です。日々の出納、電話対応、来客対応、契約書類対応といったもののほかにも、クライアント先との請求書などのやり取りといったものに加え、タイならではの税務処理に必要な付随書類の発行といったものが主な業務になります。内容としても明らかに内製対応したほうが効率的です。

このように、アドミンスタッフ業務については経理内製化の選択肢上はニュートラルなものとしてここでは取り扱います。

経理のブラックボックス化

さて、話が少しそれましたが、もう一つの理由としては経理のブラックボックス化になります。

多くの日本人駐在員や日本人担当スタッフの方にとっては、現地での経理に詳しいという人は皆無で、よほどの大会社でかつて駐在していて経理もフォローしていたということでもなければ経験も知識もないはずです。ましてや、本業に専念するという意味でもバックオフィス業務全般にはそれほど気を使わないようにしているでしょう。人によっては、完全に門外漢な領域としてあえて関与しないようにしているかもしれません。

お気づきかと思いますが、こういった背景が働いて、経理を内製化で最初から固めたとした場合に起こりえるのが、まさに経理業務のブラックボックス化です。

駐在員の日本人はローテーションで数年ごとに入れ替わるのが通常ですが、ローカルスタッフについてはいようと思えばいくらでも長くいることのできる環境です。経理マネージャーが創業以来10年選手ということなどはざらにあります。
そこで当社でもよくある相談が、長年勤めたマネージャーが退職するときに、後任が決まっていればまだしも、様々な事情により急に辞めるとなったときです。辞める前ならまだしも、後任なしで辞めるということもありえます。その人が良心的な人なら急に辞めることもないでしょうが、相談に来られるくらいの案件としては、何等かトラブルめいた形で急に辞めてしまい誰も引き継げないという状態のものです。悪質な場合、重要ファイルを消去するなど最悪業務に支障が生じる場合もあります。

しかもタイでは業務引き継ぎという概念があまりなく、ほっておくと仕事が属人化し、かつ既得権益化します。そのせいか引き継ぎマニュアル的なものも作りたがらない傾向にあります。そういった意味でも内製化するときは必ずマニュアルや引き継ぎ前提での意識を最初から植え付ける必要があります。それもかなりしつこく言わないと実際は作っていないことのほうが多いです。

そんなことで、これらを解決できるのが冒頭の結論に戻りますと、アウトソーシングの活用です。なんといっても、コストとしてもほぼ変わらないか少しのプラスで日系に委託すれば日本語での直接のコニュニケーションができ、引き継ぎも不要です。先ほど業務が属人化しやすいということも書きましたが、その逆になかなか人が定着しないこともあります。経理スタッフについては特に比較的ニーズが高く、給与水準も他の職種よりも高い傾向にもあるので転職という選択肢がとられやすいからです。そういった退職リスクを考えてももちろん有用です。

但し、アウトソーシング先との密なコミュニケーションはやはりしておいたほうが良いです。委託先もそれは業務の一環としてそれは望むところのはずですので、どんどん活用しましょう。

いかがでしたでしょうか?あたかも自社の宣伝活用のような書きぶりにはなってしまいましたが、自分自身が進出企業の立場であれば今なら迷うことなく最初から外部委託を選択するので力が入ってしまいました。

次回は運用上、日本人の駐在員業務でアウトソーシングできることはないのかという、場合によってはタブー的なところに踏み込んでご案内予定ですのでまたお付き合いのほどよろしくお願いします。

<本記事に関するお問い合わせはこちら>
Accounting Porter Co., Ltd.
Web:http://aporter.co.th/

タイ在住歴8年・累計100社以上のご相談に対応

タイ在住歴8年・累計100社以上のご相談に対応

但野和博(外部ライター)

Accounting Porter Co., Ltd.にてManaging Directorを勤めています。弊社は日本からの進出や会計サービス全般をタイ国で提供して6年経つ会計事務所です。代表である私が日本で2社の上場会社のCFO通算6年の経験を活かして親身なサービスを提供できるよう心がけております。 これまで累計100社以上のお客様からご相談いただいた様々な実例もあり、本コラムではそんな実例の中からタイで就業するあるいは就業を想定した方向けに駐在員、現地採用の方を問わずお役に立てる情報をお届けしようと思います。 内容としては身近な給与などの取扱いから、経理処理、はたまたそれらをひっくるめたタイの日系企業で身近に起きたことなど雑感的なところも交えながら、気軽に読めるようなトーンで展開していきますのでどうぞよろしくおねがいします。

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