アウトソーシングできる業務とは(2)~タイの経理現場から~

前回はアウトソーシングできる事業という観点でまずは進出の段階である会社設立までの部分をご案内しました。今回は、会社設立後から営業開始前の部分に焦点を当ててお届けします。

さて、会社が出来たところで、次に手につけるのは人員採用しての営業開始といったところでしょうか?
もちろん現場としてはその順番で着手して構いません。但し、平行してすぐに着手する必要のある大事な手続きもあります。
銀行口座開設!?はい、こちらはもちろん最重要です。法人設立後、即時にアウトソーシング先も対応しますので忘れることはないでしょうし、何より開業時に資本金が入らないのでは元も子もないので自分達でやる場合も含めてここを見落とすことはありません。では何を見落とすのか。それは税務登記や社会保険登記といった申請です。

駐在員をはじめ、日本で管理系の業務に携わったことの経験が少ない場合は見落としても致し方ないのですが、そういった申請業務こそアウトソーシングです。前回もご案内したようにタイでの申請書は全てタイ語です。仮に内製対応でタイ人スタッフに対応させるといっても、タイ人でも管理系の経験がないと不慣れで間違いの元となります。考えてもみてください。日本で営業部門しか取り扱ったことのない人に自社の税務登録やら社会保険の登録を任せるでしょうか?
 
しかも税務登記というのは日本では概念上、管轄税務署への申請登録はありますが、登記事項ではありません。タイでは登記事項なので手続きもシビアです。聞いたことのある方もいるかもしれませんが、登記住所の土地のオーナーの承諾書が必要なのはこの時です。法人登記時点では実は求められず、最初はどこでも住所地として登記できてしまいます。日本で言うところの個人の戸籍謄本の住所みたいなものです。そのため会社は登記できたのに、税務登記が出来ないという悲劇が起こりえるわけです。その場合、オーナーが承諾書にサインをしてくれなかったという理由がほとんどです。建物のオーナーではないのです。ですので、転貸を前提としたコワーキングオフィスやレンタルオフィスの中には最初から税務登記が出来ないところもあります。そうです、貸主=土地オーナーとなってしまい、貸主=土地オーナーとは限らないからです。もちろん中には最初からオーナーに事前承諾をとりつけていて税務登記できるレンタルオフィスも日系であれば結構あります。但し、最終的には土地オーナーにその都度承諾をとることになるので、多少時間を要するつもりでいたほうが良いでしょう。

さてこの税務登記ですが、年間の売上高が180万バーツ以上であれば登記義務が生じますが、それ以下だと任意です。ではそれほど慌てる必要がないかといえば、そうでもありません。税務処理上は税務登記していないと支払VAT(付加価値税)については損金にもできますが、もちろん売上VATとの相殺もできません。開業当初は特に支払先行でしょうから、売上VATもなく単に費用が出るだけの状態です。CF的にも経理・税務処理上も好ましい状態ではありませんので、早めに登記できるに越したことはありません。これらの処理を適用するにはこれまで見てきたように登記が必要です。一般的にはVAT登記と言われるのもこのようにVATの処理に大きく影響するからです。

さらには税務登記がないと原則として日本人のVISA/WPが発行されません。ここが現場としては一番業務に直結するところですので、通常の日系企業は会社登記後、すぐに税務登記も進めないといけません。見落とし勝ちですが、登記申請にあたってはさらに事務所の看板が必要だとか、その写真の構成とか細かい実務上のルールがあったりもします。

これは色々と面倒だなと思っているでしょうが、だからこそのアウトソーシングによる専門家の活用です。良心的なところであれば、法人設立とセットで対応してくれます。社会保険の登録は登記事項ではありませんが、こちらもVISA/WPの取得に影響を与えるほか、そもそも従業員を採用するときには義務なので合わせて手続きを進めるようが良いでしょう。

これら上記の申請をまとめてアウトソーシングするのであれば、商務省や税務署、社会保険庁といった監督官庁に決算書や月次申告書などをWeb申告で使える仕組みがあるので、任意で急ぐ必要もないですが、同じタイミングで申請を依頼してしまいましょう。後からだと大抵忘れるか、忙しさにかまけていざという時になって慌てますので。

はい、ここからはようやく人員採用です。どんなやり方があるでしょうか。

まずは日本同様人材紹介などアウトソースを使う方法です。このコラムを掲載してもらっているIconicさんなどが該当します。今、タイでは人材紹介業間の競争が激しく日系企業でも相当数が進出しているので利用する側としては実績もさることながらレパートリーも多いので最終的には意思決定者と依頼先との相性などに拠るところが大きいでしょう。

次にマッチングサイトなどを活用する方法です。利用料は登録料のみが原則ですが、探す手間や面談調整などは自分達で対応する必要があります。アウトソースと内製の中間のようなものです。

最後は完全内製で対応する方法です。タイならではのやり方としてSNSを使うものが主流です。FBはタイでもほとんどの人がやっているのでFBで公募するのです。但し、完全にローカル向けの案内になるので、ローカルスタッフなどの誰かに依頼する必要があります。最大の利点はコスト面で手伝ってくれた人への謝礼か、社内スタッフであればコストもかかりませんが、一連の調整に時間がかかりすぎます。質もバラバラです。面談に来る可能性も低く、冷やかしで応募してくる人もかなり多いです。

そう考えると採用企業側にとってはそれなりのコストはかかりますが、スクリーニングと実績のある人材紹介会社を頼るのがやはり最初は無難でしょう。

ちなみに、真っ先に採用を考えるべきはアドミン業務に対応できるスタッフです。秘書や通訳も良いのですが、最初は予算上も制約があるでしょうから、秘書や通訳をとるにしても、アドミン業務をしてくれる人を優先すべきです。次回の経理・税務まわりのコラムでも再度詳細を案内をしますが、タイならではのこまごまとした対応が立ち上げ時から必要なためです。

人員の採用も終えたところで、ようやく営業始動です。次回は一方で内部管理体制のほうに目を向けて当社の本業でもある会計・税務業務のアウトソーシングについてご案内します。

 
<本記事に関するお問い合わせはこちら>
Accounting Porter Co., Ltd.
Web:http://aporter.co.th/

タイ在住歴8年・累計100社以上のご相談に対応

タイ在住歴8年・累計100社以上のご相談に対応

但野和博(外部ライター)

Accounting Porter Co., Ltd.にてManaging Directorを勤めています。弊社は日本からの進出や会計サービス全般をタイ国で提供して6年経つ会計事務所です。代表である私が日本で2社の上場会社のCFO通算6年の経験を活かして親身なサービスを提供できるよう心がけております。 これまで累計100社以上のお客様からご相談いただいた様々な実例もあり、本コラムではそんな実例の中からタイで就業するあるいは就業を想定した方向けに駐在員、現地採用の方を問わずお役に立てる情報をお届けしようと思います。 内容としては身近な給与などの取扱いから、経理処理、はたまたそれらをひっくるめたタイの日系企業で身近に起きたことなど雑感的なところも交えながら、気軽に読めるようなトーンで展開していきますのでどうぞよろしくおねがいします。

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